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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.47 雷は何よりも美味しいのだ

今回は少し早めに投稿。

なるべくペースを落とさないようにします。


ちょっと回想が入っています。


 竜は全くコルネ達を脅威と思っていなかった。

たかが人間の小娘と、そんなやつに従う上位種の魔物が三体だなんて、最強の代名詞にもされる自分に勝てるはずがないと思っていた。

 モモ、リョク、そしてルシエラは、コルネに負けて従魔になったわけではない。

 ただ『上位種交友(フレンドリー)』の効果で仲良くなっただけだ。


 だから、黒嵐竜の考えは十中八九間違っているのだ。



 そして、新たに現れたドグマ。

 ドグマはおもむろに口を開いた。


 「お(ぬし)も偉そうになったものだ」


 それに対し、黒嵐竜は鼻をならす。

知り合いだったのだろうか、ドグマは最上位種相手にも怖じ気づくことなく話していた。

・・・それどころか言葉の節々に黒嵐竜を馬鹿にするような雰囲気があった。

 それにはさすがのコルネも驚きを隠せず、黒嵐竜が怒らないかと警戒していた。


 黒嵐竜はドグマの言葉を認めているのか反論はしなかった。

しかし、それを見たドグマは不快そうに言う。


 「・・・落ちぶれたな。 同じ竜ならまだしも、()()()()()()()()


 そして、ドグマは竜の反応も見ずに攻撃を仕掛けた。




 「《火妖精(イグニ)加護(セレス)》《フレイムランス》」


 詠唱と同時に飛び出した炎の槍。

それは雨にさらされているにも関わらず、全く威力を弱めずに黒嵐竜に迫る。

さすがにそれは無視できなかったのか、黒嵐竜は水の槍で迎撃する。

 ドグマはそれを見て不敵に笑った。

 槍は、水によって弱まったように見えたが、またすぐに燃え盛り黒嵐竜に向かって飛翔した。


 驚くコルネの背を、ドグマは押す。

その視線の先では鱗をえぐるような傷ができていた。


 「コルネ、ここは戦場である」


 「・・・うん」


 再度ドグマから声をかけられたコルネは、剣を構え直して指示をとばした。


 「モモは遊撃、リョクは援護、私は特攻するからルシエラは妨害を!!」


 指示に対してそれぞれが返事を返す。

ルシエラだけはやる気のやや足りないような「うぃーす」という返事をしていたが、気にする暇はない。

コルネは嵐の音を掻き消すような爆発音を聴きながら、黒嵐竜を挑発した。


 するとそれが挑発だとわかっているのにしっかりと攻撃をしてくる黒嵐竜。

コルネは目を閉じ祈りながら、そのときを待った。




 膨大な熱量に目を開けば、目の前には雷の波が。

 コルネは歓喜した。

そして、スローに見える世界で、歩くような速度で近付いてくる雷を見据える。

モモもリョクも驚いているが、昔からの知り合いであるドグマと、何故かルシエラは気にしない。

 驚くのが普通。


 「暴食をなめんな」


 まっすぐ自分に向けて放たれた雷を、避けない。コルネは手をのばす。

そして、手掴みにした。



 竜が息を呑むのがわかった。

ざまぁみろ、と心の中で笑い、コルネは掴んだ雷をそのまま口まで運んだ。

そのまま、飲みほす。


 心の中で笑ったつもりだったが、現実でも笑っていたらしい。

頬がひきつっていた。

久しぶりに食らった美味しい美味しい力に、心と体が満たされるようだった。

やはり、野菜や肉と比べ物にならないくらいに、雷は美味しいのだ。


 コルネは竜や仲間からの視線を痛いほど感じるなかで言った。


 「・・・・・・『暴食のコルネ』、最高に調子がいいから張り切っちゃうよ」


 目の前の竜が楽しそうに口を歪める。




・・・




 『暴食』の病。

常に空腹で、何もかも食らうといわれる病。

この世界で一部に知られている奇病。

別名・雷帝症候群。

 何故かって、雷を何よりも美味として食らうからである。

 そのうえ常人にすべての能力で勝り、皆一様に、食べることでその能力を発揮する。


 コルネは生まれつき『暴食』の病にかかっていた。

それどころか、彼女の生まれた集落は、皆『暴食』の罹患者だった。


 『暴食』は適正のある職業につくことを良しとされない。

コルネもそうだった。


 コルネの適正職業は『雷剣士』。

最も合わないとされる冒険者の職業は『召喚士(サモナー)』。

コルネは召喚士になった。


 しかし、『暴食』は差別の対象。畏怖の対象。

集落から出る際には、すべてを隠さなければならない決まりがあった。


 ドグマは集落時代からの友人なので、見られてもよい。

従魔は秘密を口外せぬように命令を下せば従うので、見られてもよかった。

 しかし新たに仲間になったエイトさんには知られてはならなかった。

 だから隠した。

最初から『暴食』の力を使えば苦戦することも少なかったのだろうが、隠した。

今だってエイトさんがいないから本気で戦えている。




・・・




 エイトさんがいなくなって、戦いやすくなった。


 そこで、『いなくなってよかった』という思いが浮かんできて、息をのむ。

目の前に落ちた雷を拾い、食らいながら剣をふるう。

幾分か再生の速度が落ちた黒嵐竜の体に、淡く輝く剣をふり下ろす。

 コルネが退避しているうちにその傷に撃ち込まれたドグマの言霊《炎爆裂(イグニインパクト)》が爆ぜて、傷口が広がる。

黒嵐竜はドグマに攻撃をしようとするが、竜が操る水はコルネの愛剣に凍らされ、そしてドグマの炎に蒸発させられて届かない。

 本気を出せば届くのだろうが、いかんせん神殿は強度に欠ける。

 火山の地中に位置する神殿が崩れれば黒嵐竜でも命が危ういだろう。

 それに、黒嵐竜の赤い瞳。

それは操られている証拠で、その『(あるじ)』はおそらくこの近くにいる。

だから、コルネは強気に出られた。


 腕を乱暴に振り回す黒嵐竜。

その腕は途中で糸に巻かれて動きを鈍らせ、そこにランスによる突きが刺さる。

モモはそのまま着地するが風に飛ばされて黒嵐竜との距離が開く。

しかしそれでも懲りずに言霊と物理攻撃とを繰り返す。

 糸を操るリョクは動きを一時的に封じたり、言霊で目隠しをしたり、一瞬の隙を作ることに徹底する。


 ドグマはフレイムランスを十数個展開し、連続で放つ。

コルネは一応後衛であるドグマを守りながら、ひたすら竜を傷つける。


 エイトのくれた剣は、紙のようにとはいかないが、空游竜と同じように感じるほどに簡単に鱗や肉を切り裂く。

技術不足なぶんは腕力でごり押しして、何度も剣で切り刻み、突き刺し、抉った。

 しかし黒嵐竜は再生する。

遅いうえに、同時に再生すると速度がさらに遅くなるのだが、それでも時折《治癒(ヒール)》を自らかけて回復している黒嵐竜は厄介この上なかった。

 そのぶん精神的に疲弊するはずだが、さすが最上位種とでもいうべきか、疲れは見えない。


 『コルネ、リョクが妨害やってるっぽいッスから、ジブンも前衛いくッス』


 ふと、耳元でルシエラの声が。

肩をぴくりと震わせながらコルネは了承し、そのまま、また突撃した。

すると全力のコルネのスピードに追随する影が見えた。

 それは砂の嵐というべきか、端から見ればただの砂。それが風に乗っているように見える。


 しかしそれはルシエラだったようで、そのままコルネを追い越したルシエラが体長三メートルほどの小柄な竜に変形した。コルネはそれを横目に竜の尻尾に切りかかる。

 竜は尾を硬化させて剣を弾き、そのままコルネに向かって尾を振った。

咄嗟に防御の体勢をとって《防壁》をはるコルネ。

決して弱くない衝撃が防壁から伝わり、その振動が鼓膜を震わせた。


 すんでのところで吹き飛ぶのをこらえたコルネにもう一度振られる尾。

コルネは「チッ」と舌打ちをしながらハンドスプリングの要領で回避、そのままの勢いで斬る。

その横を通過した尾に、ルシエラの爪が食い込んだ。


 『邪魔な尾は握り潰しちゃうッスよ~』


 そんな陽気な声がして、ルシエラは竜となったまま手を握り締める。

するとメキメキという音がして尾が見るも無惨なことになった。

しかしまだ動く尻尾。痛覚が鈍くなっているのか、あまり苦しそうな反応はしなかった。

 それを見かねたルシエラは尻尾に食らいつき、そのままかみちぎる。


 コルネは内心引きながらも攻撃を続けた。



 しかし、どうして戦い方が適当なのだろう。

竜はコルネにわざわざ餌となる雷を放ったり、ドグマにばかり単調に攻撃を繰り返したりしていた。

心なしか嵐も弱まったように思える。


 「・・・」


 一瞬手を止めたコルネに、氷のつぶてが飛来した。

コルネは危なげなくそれをかわすと、お返しとばかりに氷の矢を放つ。

傷口を狙って放たれたそれは、狙い通りとはいかなかったが竜の関節に命中した。


 考えるよりさきに倒せばいい。


 コルネはモモの言霊で火傷が治っていくのを見ながら呟いた。

エイトさんは死なない。

そんな風に、謎の確信があった。


 黒嵐竜は小さな竜(ルシエラ)に片翼を引きちぎられて咆哮をあげた。

コルネは雨を凍らせて道を作ると、黒嵐竜に斬りかかった。

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