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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
45/56

Act.45 嵐の到来

意外と遅れなかったです。よかった。


 コルネの脳裏に、『絶望』の二文字が浮かぶ。

目の前に姿を確認してはいないものの、その存在感は圧倒的だった。

 コルネの呟きを耳にしたエイトは目に見えて狼狽し、しかし即座に武器を構えた。


 「本当に・・・黒嵐竜なのか?」


 思わず聞き返すエイト。

それもそうだろう、一瞬前まではそんな気配は無かったし、そもそも出入り口は『黒嵐竜』が通れるような大きさではなかったと思われる。

暗闇はよく目を凝らせば雲のようなものだとわかるが、決定的な証拠でもない。

 そもそも、もしこれが本当に黒嵐竜なら、油断しきっていた自分たちは死んでいるはず。


 ーーーだから黒嵐竜がいるなんて、何かの間違いでは?


 エイトはそう考えていた。

 刹那、エイト目掛けて何か殺気のようなものがとばされた。


 「・・・・・・うっ!!!」


 あまりの殺気の濃さに、とっさに足をもつれさせながら横に跳ぶ。同時に空中歩行(スカイステップ)を詠唱し、なんとか転倒を防いだ。

 そして、そんなエイトの頬を掠めるようにまばゆい光が駆け抜けた。


 それを見たエイトは詰めていた息を吐き出して気持ちを切り替えた。

油断していれば、まばたきの間に殺される・・・そう思うほどに、その魔物は強大だった。


 ふと周囲に意識を向けると、コルネたちの気配が乱れていることに気付く。

エイトの悲鳴にも似た声を聞きつけたコルネが自分(エイト)を呼ぶ声がする。

そこから気配の乱れの原因が自分だと察すると、控えめな声で「呼んだか?」と言った。

 すると取り乱したコルネの声が、おそらく二、三メートルほど離れた位置から聞こえてきた。


 「エイトさんっ!? 大丈夫だよね!?」

 「あ、あぁ」


 すぐに返事をすると、コルネも無事だとわかったようで口をつぐむ。

同時にモモやリョクも落ち着いたようで、それぞれが武器を構える音がカチャリと響いた。


 それと同時にエイトたちから応戦するという意思を感じとったのか、黒嵐竜が動きを見せた。




 ーーーバリバリバリッ


 電流が走るような異音が広間を満たす。

そのとたんに、黒雲の内部がまるで嵐でもきたかのように荒れ狂った。

 ()()を操る()・・・その竜は姿を見せずとも嵐を操ることで自らの存在を確信させた。

 屋内と思えないほどの豪雨、暴風、雷鳴に、吹き飛ばされる者はいない。

なんたって・・・


 「《妖精の守護》」


 モモの声が凛として響く。

彼女の詠唱と共に、黒雲を切り裂くような桃色の光がエイト、コルネ、リョク、ルシエラ、そしてモモに飛来した。

それは瞬く間にはじけるとそれぞれの身体を包み込むように広がり、嵐の影響を最小限に抑える。

 それを見越していたように、さして驚くこともなかったリョクは、そのままおもむろに構えた弓から閃光を解き放つ。


 「《帯電》《アイスジャベリン》《フレイムジャベリン》 ・・・コルネさん、後ろですっ!!!」


 リョクの叫びを聞き取ったコルネが後方に目を向けることもなく《上位防壁(ハイガード)》を展開。

難なく雨に潜んでいた《アクアカッター》を防ぎ、コルネは黒嵐竜の気配を目で追った。

虚空に吸い込まれる電気を帯びた水色と緋色の矢は、すでに見えない。

 すると盛大な舌打ちが響いた。


 「チッ・・・すみませんっ!! 俺と黒嵐竜じゃ、相性が合わなさそうです!!」


 舌打ちをした本人・・・リョクは懲りずに矢を放ち続けるが、すべてが消えていく。

雷は相殺もしくは吸収、氷は雨に打たれて威力を殺され、炎は水に消される。

なるほどリョクは黒嵐竜と相性が最悪だった。

 コルネはどこにいるかもわからないリーダーに向かって叫んだ。


 「わかった! ・・・エイトさん!!! もう作戦なんて考える余裕も実行する余裕もないわ!!」


 するとすぐに反応がある。


 「了解、んじゃ、とりあえずブッ殺せ!!!!」


 エイトはかなりざっくりした司令を下すと、「気配遮断」という小さな声を最後に、その気配を闇に紛れさせていった。

それを聞き届けたコルネは気を取り直して永年氷雪剣を薙ぐ。

 刃に触れたとたん、パキィン、という音と共に凍りつく雨。

黒嵐竜に対してはさして有効とも思えない性質の剣だったが、あるだけで心が落ち着く。

 コルネは黒嵐竜にどの属性が効くのだろうかと思考を巡らせながら、マジックポーチに手を入れた。

そうして手に取ったのは牛型の魔物の脚。

コルネはそれを一瞬のうちに焼き、まんべんなく火を通らせた。

そして・・・


 バキッ、ゴキッ メキメキ ガリッ


 コルネは骨も除かずに、飲み込むように牛の丸焼きを食らう。

嵐の音で咀嚼音は味方に届かないはずだ。

 コルネはすべて飲み込んだあとに、ふぅと息を吐いた。

 同時にため息のように呟く。


 「暴食、今日は自重無し」


 その言葉を発した直後、コルネの身体を薄く光が覆った。







 エイトは誰よりもはやく、黒嵐竜を視認した。

 気配を消して近寄ったためか、直前までは気付かれていなかったのだが・・・。


 「・・・ぐっ」


 運の無いことに、エイトが空中を走り躍り出たところは黒嵐竜の正面。

すぐに気付かれて真正面からブレスを浴びかけた。

ギリギリのところで縮地(ステップ)で退避したものの、服の表面がわずかに焦げていた。

 耐火性に優れている高い装備だったが・・・黒嵐竜の雷のブレスには本領を発揮できなかったようだ。

エイトはブレスを吐いて無防備になった黒嵐竜の首元に滑り込む。


 「《スラッシュ》ぅ!!!」


 そのまま力任せに黒嵐のナイフを振るった。

切りつけながら抉るように固有能力の風の刃を伸ばせば、明らかな手応えを感じる。


 エイトはそのまま暗雲のナイフも連続で叩き込み、傷を広げることに専念した。

そして再び縮地で退避すると、視線をちらりとナイフに向けた。

 黒光りするナイフは、固有能力《不壊》の効果で刃こぼれひとつしていなかった。

 同じ素材のものを切ったのでもしや・・・と思っていたが、それは杞憂だったらしい。


 そのまま今度は余りまくった使い捨てナイフを一投。

これは予想通りに、鱗に僅かな傷を残しただけで砕け散った。


 「ふむ・・・」


 エイトは軽い身のこなしで迫っていた黒嵐竜のあぎとをかわしながら呻く。

どうやら自分(エイト)が作った規格外武器くらいの性能でなければ通用しないらしいのだ。

そういえばルシエラには渡してないなぁ・・・。

 そんな風に思いつつも、エイトは使い捨てナイフを数本投擲した。

少しでも目を引き付けてくれれば、それでよかった。


 そのエイトの視線の先で、コルネの詠唱が聞こえた。

元気にやっている。


 状況も状況だが、安堵が隠せないエイトは頬を緩める。

いや、もうはじめっからエイトは笑顔だった。

死にかけたりしたくせに、がらでもないのに、戦いが楽しいなんて感じてしまう。


 そしてエイトは乾いた笑いを洩らした。


 「・・・くはっ」


 その小さな小さな笑い声は、幸いにも仲間には聞こえなかったようで、あわてて口を塞いだエイトは嘆息する。しかし気を抜いたエイト目掛けて爪が降り下ろされ、それを両手のナイフで受ける。

だがエイトの腕力をしてでも、黒嵐竜の、しかも上から降り下ろされた一撃を弾くことはできない。


 拮抗していた爪とナイフだが、エイトははやくも「受け流せばよかった・・・!!」と後悔。

そのまませめぎあっているうちに、エイトが押され始めた。

 エイトはこのままでは押し潰されると思い、飛び退くタイミングを探る。

 そんな時だった。



 《ほぅ、この矮小な・・・お前が喚ばれた使徒か》



 「・・・!?」


 エイトの鼓膜を震わせる、低く野太い声が聞こえた。


 聞いたことの無い声。

しかし、だからこそその発生源がすぐにわかってしまった。


 「使徒、だって・・・?」


 エイトは掠れる声で反応する。心なしか爪からの圧力が和らいだ気がした。

どうやらこの黒嵐竜は人間の言葉を理解するらしい。

それどころか会話可能なのかも・・・。


 《あぁ、お前が、使徒が探している使徒だろう》


 エイトは聞いたことのあるようなないような、その『使徒』という単語を脳内で反芻した。

神に仇なす者、そんな認識であったはずだ。

少なくとも・・・今までニートだった自分には当てはまらない。


 エイトは語気を強めて言った。


 「使徒、なんて・・・知らねぇよ!」


 すると黒嵐竜は意外そうに小さく唸り、何か確認するように目を細めた。

そして、クックッと喉を鳴らすと爪に力を込めた。


 《・・・あぁ、そうか!!!》


 そのとたん、先程まで収まっていた殺気が荒れ狂い、津波のように押し寄せた。

エイトは思わず黒嵐竜の目を見て、戦慄した。

その眼には、理性的な輝きと共に、操られている証拠ともいえる紅い輝きが宿っていたのだ。

 黒嵐竜はエイトを押し潰そうと筋肉を盛り上がらせながら力を強める。

元々嵐を操って戦う種であるためか、押されはしたものの潰されはしないエイト。


 しかしエイトはその力を利用して、吹き飛ばされるようになりながらも後退する。

何回転もしながら、広間の床にナイフを突き刺して減速。

そのまま空中歩行(スカイステップ)の効力を強めて空気を足場にし、強引に止まった。


 視線を上げると黒嵐竜がエイトだけを見据えていた。

視線が交錯し、一瞬、時が止まったかのような錯覚に見舞われた。


 竜は喉を震わせた。



 《死ねばわかるだろう!!!》


 黒嵐竜は、雷鳴のような咆哮を轟かせた。

受験なので次話は遅れます。

14日以降なのは確実ですm(__)mすみません

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