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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
43/56

Act.43 食べ物の力を侮るなかれ

前話に比べたら文章量が少ないかも・・・。

まだ冒険の再開はしていませんが、そろそろ再開するので待っててください!


 リョクのチョップをもろに食らったモモ。モモは驚愕の表情でリョクの顔を見上げていた。

心なしか、目に光が戻っているように・・・正気に戻ったように見える。

そう思って安心したエイトだったが、それは間違いだったのだろうか。

 しばしポカンとしたまま動かなかったモモが、唐突に、泣き始めたのだった。


 「・・・っ、・・・っ」


 嗚咽を繰り返し涙を流す少女とそれにチョップした少年。

絵的にはどう見ても後者が悪いだろう。

そしてその後者であるリョクは、一斉に向けられた非難の眼差しをすべて無視して言った。


 「今さっき、俺は悪役の演技をしました。モモ、実際に俺が首謀者だということは知ってますよね?」


 「・・・ぅん・・・」


 それに震える声で答えるモモ。

リョクは申し訳なさそうにしながらも彼女に向かって告げた。


 「では、もう気にしなくてもいいんじゃないですか?」


 モモは、その質問には答えなかった。正確には、答えられなかったという方が正しい。

彼女は迷っているようで、小さく唸っていた。

この中で唯一彼女らの過去を知っているであろうコルネは、神妙な表情でその様子を見つめている。

 何があったか知らないエイトでも、『実行犯はモモ』『リョクが犯人』『父さんは愚か』など会話から抜き取った言葉から、なにか尋常でないことがあったのだと黙りこんでいた。


 目の前で、リョクは自分(エイト)たちに背を向けている。

おそらく顔にはいつも通りの微笑みが浮かべられているのだろうが、モモの表情には怯えが見えた。

 それは兄であるリョクを恐れているのか、それともリョクの言葉を肯定することを恐れているのか・・・それは本人以外にはわからないだろう。まだ整理がつかないのか、モモの涙は止まっていない。


 するとそれから言葉を発していなかったリョクが口を開く。


 「・・・別に、一緒に悪役をやろうってんなら、それでもいいんです」


 それでもモモは反応せず、それに困ったリョクは困り顔で振り向き、コルネに目を向ける。

その様子から何か読み取ったコルネは、エイトを押し退けるようにして歩き、リョクのもとまで歩いた。

モモの目の前にたどり着いた彼女は何かを言おうとする。

だが、慌てたような声に遮られてしまう。


 「だ、だめ・・・」


 その声の主はモモだった。

どうやら彼女もリョクがコルネに頼んだ内容を察しているようで、それでは困るのだろう、必死に止めようとしているのがわかる。


 「アタシ、だ、大丈夫!!! お兄さん、仲良し! 大丈夫、戦える、大丈夫、だいじょうぶ・・・」


 モモはとたんに笑顔になってリョクに近寄り、仲良しアピール。拳を握りしめているのはやる気の表明。しかしその手応えは芳しくなく、リョクもコルネも、はたまたエイトとルシエラでさえ少し呆れの混じった目線を向けていた。

 それもそのはず笑っていても涙の跡は消えないし、モモの足は震えていてまだ万全の状態ではない。

むしろ絶不調ともいえるその惨状に、何も言えなくなっていた。


 モモも空気でそれを察してしまったのか、シュンと肩を落とす。

それでもやはりコルネを説得したいのか、まだ何かを言おうとする。

 だがコルネは非情にも告げる。


 「モモ、今ここで解決しないようなら、あなたにはかえってもらわなきゃいけないわ」


 ・・・どうやら、言霊でモモを『送還』しようとしていたようだ。

知らなかったエイトは同じく知らなかったはずのルシエラを一瞥するが、彼は粗方理解していたようで、驚いた様子はない。少し疎外感を感じつつ、エイトはため息をついた。

 ここでモモがいなくなっては戦力が減る。

それ以上に、なんかさみしいのだが。

それでも喧嘩でいちいち時間を割いていられないし、精神が不安定で罠に掛かりやすいような者をわざわざ冒険に連れていこうなんて思う冒険者は数少ない。

 もちろんエイトはそこまで優しくないし、第一エイトが反対したとしてもコルネに送還されてしまえば誰も手出しできないのだ。まぁ、ほぼ百パーセントモモは送還されるだろうな。


 エイトは僅かな落胆と共にモモを見る。

一斉に視線を向けられたモモは、一度びくりと肩を跳ねさせてから震える言葉を絞り出した。


 「・・・わかった、ここで、決着」


 それを聞いたコルネは満足そうに頷くと、一歩引く。

ここから先は兄妹に任せようというわけか。



 するとまずリョクがきりだした。


 「モモ、あなたはどうしたい?」


 優しく告げるリョク。しかしモモはその笑顔に向かって、急に饒舌になって言葉を吐く。


 「うるさい。お兄さん、笑顔気持ち悪い。アタシお兄さんなんかに負けない。弱くない」


 おやおや反抗期かいーーー

そう思って冷や汗を垂らしたエイトだが、リョクはこんなことは慣れっこのようで平然と返す。


 「では、まずは犯人を決めちゃいましょうか?」


 「もうお兄さんでいい」


 「そうですか。それならひとつめの問題は解決ですね」


 「ふん」


 そんな風に続けられた、イラつきを必死に抑える兄と反抗期の妹の不毛な会話。

こうなると予想していなかったコルネは頭を抱えたが、一旦始めてしまったのだから気が済むまでやらせとこうとエイトのところまで下がってきた。


 突然近くにコルネが来たものだから、口喧嘩に聞き入っていたエイトは一瞬驚く。

何か意図があってなのだろうか、彼女はそっとエイトの耳元に口を寄せ・・・


 「ほっといてご飯食べようよ」


 色気の無いセリフを言いました。はい。




 エイトもお腹が空いていたのでその意見には反論しない。

しかし、どうだろう。

果たして料理の香りに晒されたリョクとモモが口喧嘩を続けていられるか、心配だった。

 コルネはそんなこと考えてもいないようだが。

 黙っているとコルネが文句を言いそうだったので、エイトは仕方なくマジックポーチから燻製肉や塩漬け肉、さらにいくつかの火を通してある肉を取り出す。

そのまま近くにあったテーブルの上にきれいな布を敷いてから、食材を並べていった。

面倒なので黒パンか塩パンでサンドイッチを作ろうか・・・。それなら匂いも少ないだろうし。


 エイトは慣れた手つきでいくつかの食材を切っていく。

この際に使っているのは包丁などではなく、ただ単に『エアカッター』という初歩的な言霊を使っているだけなのだが、エイトは詠唱していないので食材が勝手に切れていくように見える。

 そんな調子で食べやすい大きさにカットした食材を、これまた厚さ二センチほどに切ったパンに挟めていく。

調子に乗って切りすぎたので、少々多すぎやしないかと思われる量の具材を挟む。

 それからコルネが作っていたフルーツや野菜で作ったタレや塩レモンな果汁などをかけた。


 エイトはちょっぱやで完成させた十数個のサンドイッチをテーブルに置く。

 そして、お腹を空かせたコルネにそのうちのひとつを手渡して食べるように促した。

コルネは手際の速さにしばし放心していたものの、三大欲求のひとつには逆らえず、サンドイッチにかぶりついた。

 エイトが手渡したのは鶏 (の魔物の)肉を使った、出来栄えのいいもの。

もちろんその味は絶品で、コルネはあっという間に胃に納めてしまう。


 そして二つ目を差し出そうとしたエイトの手が空をきった。

ただ勘違いしていただけかもしれないが、そこにあったはずのサンドイッチがない。

 いや、明らかに減っている。

 エイトはまさかと思いつつも喧嘩を続けているはずの兄妹に視線を向けた。

しかし彼らはまだ何か言い合っている。とても食べたようには・・・ん?


 耳をすませたエイトの眉がひそめられた。

彼の耳にはこんな声が聞こえていた。


 「結局両成敗ですよねぇ、やっぱり!! ってか美味しいんですけど!!!」


 「過去で悩む必要 無い・・・。 ホント美味しい!!!」


 ・・・どうやら叫んでいたのはサンドイッチの感想だったようだ。

それにしても、食べたいなら言えばよかったのに。この様子ならもっと前に解決していただろうに。

 エイトはコルネによってすでにほとんどが食べ尽くされようとしているサンドイッチを見て、追加分を作ろうとマジックポーチに手を伸ばすのだった。


 食事が終わったら、じっくりと話を聞かせてもらう必要がありそうだからな。

 そう思い、エイトはため息をつく。


 楽しそうなのは良いのだが、なぜあんなにも簡単に口喧嘩が終わったのか、気になっていた。

ふと傍観を決めていたはずのルシエラの様子を確認しようと辺りを見渡したエイトの目には、おそらく彼には必要の無いであろうサンドイッチをちびちびと口にしているルシエラの姿がうつった。

 どうやら食欲魔人が一体増えたな、とふたたびため息をつくエイト。


 その目の前には、先程までの陰鬱な雰囲気など微塵も感じさせない、『いつもの』風景があった。

そこまで考えて、エイトは苦笑する。

 まだそこまで経っていないだろうに、このメンバー『いつもの』風景だと思うほどに大切になっていたのか。少し不思議に思いながらもこれから知る『自分の正体』によってはこれが崩れてしまうのだと思うと、それがとても寂しく思えた。


 今思えば、家族以外の人間とあまり話さなかったエイトにとってコルネたちははじめての友達なのだ。

自分がそう思っているだけかも知れないが、エイトは嬉しくなって頬を緩めた。

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