Act.42 救済の門を
遅れましたが投稿っ!!遅れて申し訳ございません。
思ったより長くなりました。
エイトは信じられなかった。まだ、あの餓死しかけた記憶は鮮明なのに、と。
まぁ、仮死状態だったのだからその間の記憶がない分最近のことに感じられるのだろうが。
そしてすぐに、ある可能性に思い至る。
「・・・だったら、コルネはどうなんだよ。 リョクとモモも・・・異空間に放り込まれたんだろ?」
エイトは睨むような目付きでコルネに問いかけた。
それぞれが行った異空間はそれぞれ時間の流れが違うのだろうから、さすがに自分ほど時間の流れが早いことはないだろうと思いながらも、心配だった。
・・・コルネが従魔しか連れずに助けに来てくれたってことは、他の仲間も隔離されているのだろうし。他の仲間も心配だ。特にモモはブラコンの気があるから、もし一人なら心細いだろう。
それでも串焼きを頬張るのをやめないエイトに苦笑したコルネは、先程までの自分を思い出して自己嫌悪に陥る。だがすぐに気分を切り替えて、順を追って説明を始めた。
「みんなバラバラの異空間に行ったわ。リョクは無理やり吸い込まれたような感じだけど・・・。 私は一番最後に入ったから、間違いない。」
『ジブンもそうだと思うッスよ~』
頷くエイト。
しかしまだ肝心な所は聞けていない。
続きを催促しようと肉を急いで飲み込むエイトだったが、コルネは慌てて会員証を取り出した。どうやらまだ確認していなかったようだが、その表情に不安はない。
コルネは深く頷くと、会員証をエイトに手渡した。
咄嗟に串ごと串焼きを加えて片手を空けて受けとる。
するとコルネが少し笑顔で
「私はやっぱり体感した通りの時間しか経ってないよ。エイトさんも多分そのはず。」
と告げた。
たしかにコルネの年齢表記は見た目相応の十八となっていた。
・・・というか、女性の年齢ってこんな簡単に知ってもいいものだったか?
不安を覚えつつ、エイトは会員証をコルネに返却する。
コルネは交換するように、エイトに次の串焼きを持たせた。
そして、「じゃ、皆の所にいくよ」と言う。
仮死状態にあったエイトはコルネが来た方法を知らないので一瞬不審に思うが、ふるふるとかぶりを振ってその疑いを振り払う。コルネは信頼できる。嘘なんかつかない。
・・・そうして顔を上げたエイトが見たものは、
「『天空神殿の加護』」
たった一言の詠唱で門を呼び出した、蒼白い光に包まれたコルネだった。
マジで女神に見えた。金髪碧眼の美少女で、神々しい剣持ってるし、光ってるし。
茫然としてコルネを見るエイトに、女神の手が差し出される。
エイトはその手に恭しく自らの手を重ね、共に美しい門をくぐり抜けた。
それを見たルシエラは、微笑ましそうにしながらその後を追った。
・・・
あまりにも眩い閃光に目を閉じ再び目を開くと、エイトの目の前には火球
火球!?
「はぁぁああああ!?!?」
理解が追いつかずに叫ぶエイト。
コルネも驚いているようで、彼女の柔らかい手がメチャクチャ強い力でエイトの手を握りかえす。正直痛いがそもそも何で火球が・・・
脳の処理速度が一時的に加速したのか、遅く、鉛のように体が重い中、エイトは心の中で絶叫した。
もっと安全なところに門を開いてくれないかなぁ、コルネ!!!
そして火球の向こうに緑色の何かが見えたことで、一瞬で理解してしまった。
あぁ、たぶんリョクが火球の原因だ・・・。
半分諦めかけたエイトだったが、リョクはすぐに対処してくれた。
「ちょ、え!? ま、待ってくださ・・・『リリース!!』」
リョクはあたふたと慌てふためきながらも、火球を止めた。止めたと言うより消した感じだが・・・詠唱が『リリース』だった辺りからわかるけど精霊言霊か。
エイトの隣で未だに硬直しているコルネ。
それを見たコルネの従魔であるリョクは、少し混乱が収まらない様子だったが、とりあえず叫んだ。
「こ、コルネさんっ!! 場所を選んでくださいよ!!!」
いや、全くもってその通り。
エイトは心の中で深く頷き、そしてコルネに目をやった。
やっと状況の整理ができたのかコルネはため息をつき、「ごめんなさい」と謝る。
これでリョクの怒りは収まっただろう。
安心してリョクを見ると、そこまで疲れてなさそうだし時間の流れはそこまでおかしくなかったようだ。ただ心配なのは、この場所はどう見ても出口がないのだ。どこで腹ごしらえした?
エイトの、何故か若干殺気の交じった視線を受けたリョクは動揺しながらも言う。
「えっと・・・何か質問でも・・・?」
するとエイトは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに詰め寄った。
なんか足元に糸が絡まったけどそれを無視して引きちぎったら、リョクが怯えたがどうかしたのだろうか?蜘蛛の糸にしてはちょっと硬いけど、これくらいできるよな?
そう思いつつコルネを見ると、やっぱりコルネは怯えて・・・いた。ん?
しかしエイトはすぐに視線をリョクに戻した。
「リョクはここでどうやって生きてたんだ?」
まとめた結果、こんな当たり障りのない質問になった。
拍子抜けしたリョクは苦笑混じりに話し始めた。
・・・簡潔にまとめると、暗い通路で魔物か幽霊かわかんないやつと恐怖の鬼ごっこ→急に空中に来てまっ逆さま→何かウツボモドキいたんでゲット→ついでに回復アイテム入手してホクホクだけど出られない・・・という流れらしい。
ちなみに、同じコルネの従魔であるルシエラのことは対して驚いていなかった。たぶん感覚でわかるのだろう。そう思っておこう。
というか、はっきりいって羨ましい。
ウツボモドキの一部、食べたらしいし。
神水とかチートかよ。
それより人化できんのかよ。
羨み始めたらなかなか止まらない。しかしその激情 (笑) を堪えてエイトは笑みを浮かべた。
「すっげーじゃん。よかったな」
・・・鬼みたい。
コルネとリョク、ルシエラまでもがは同様の感想を抱いたが、それを口に出すことなく笑い返した。
三人は思った。
あの糸を易々と千切るような化け物は相手にしたくない。エイトの成長速度は人間じゃない、と。
実際エイトは異常だ。
そんな戯れもほどほどに、四人は最後の仲間の元へ向かうこととする。
コルネは先程のように、詠唱した。
「『天空神殿の加護』」
またまたコルネが女神に見えた。エイトも流石に自分を疑った。
するとリョクは感慨深く頷き、小さく呟いた。
「・・・神官にしか聞きとれないのですね」
「「は?」」
見事に被ったエイトとコルネの声。
ルシエラはそれを見て違和感を感じる。リョクも同様だった。
リョクと顔を見合わせたルシエラは、おそるおそる尋ねた。
『神官にしか聞き取れないのは本当ッス。 ・・・反応からして、エイトさん、聞き取れてたんッスね?』
エイトは冷や汗をたらしながらも頷く。
思わぬところで自分の正体を知る手がかりを入手してしまったことに対する喜びとかよりも、なんか不安とか嫌な感情の方が大きかった。
これでほとんどこの神殿の関係者で間違いないのだから。
微妙な表情になったエイトを見て、コルネが話を変えようと口を開く。
「えっと、はやく、モモを助けにいこうよ?」
その言葉には誰も反論せず、すぐに門が開かれた。
リョクははやく妹に会いたいのか、我先にと門をくぐった。
リョクの後を追うように、残りの三人も門をくぐる。
・・・
エイトが目を開くと、薄暗くてよく見えない。
室内のようだがかなりボロいようで隙間から光が差し込んでいた。
問題はそこではない。
エイトたち四人から数メートル離れたところに、桃色の髪をもつ美少女が座り込んでいたのだ。その頬には涙を流した跡が残っており、その彼女の周りには幽霊のようなものが浮かんでいた。
それを見たリョクが「ひっ」と声を上げそうになるが、ぐっとこらえた。モモの前で醜態を晒すわけにはいかない。
考えるまでもなく、泣いている少女はモモだ。
だが、あきらかに様子がおかしい。
兄であるリョクが来たのに、召喚主が来たのに、まったく反応しない。
それどころかここを見ていない。
何らかの幻術にかけられているようだった。
どう見ても周りにいる幽霊的な魔物の仕業だろう。
そう思ってリョクが近付くと、唐突にモモの声が響いた。
「アタシ・・・パパ・・・あのとき・・・・・・」
その言葉にリョクは思わず足を止める。
エイトはそれを見て眉をひそめる。二人は上位種なので、親との繋がりも稀薄だと思っていたが・・・どうやら少し事情があるらしかった。
あえて聞かないことにするか。
するとリョクはふらりと体勢を崩した。
まさかリョクまで幻術に、と心配するエイトとルシエラ。コルネは無言でリョクを支えた。
コルネはリョクがふらついただけだと理解すると、二人に伝える。
リョクは支えられた状態からゆっくりと起き上がり、「大丈夫、です」と囁いた。
暗い中でもわかる。リョクの顔面は蒼白だった。
リョクは覚束ない足取りながらも、モモの元へたどり着く。
そして、モモの周りに浮いている幽霊を手で払いのけ、モモの正面に立った。それから目線を合わせるためかしゃがみこむ。
リョクはそのまま話しかけた。
「・・・モモ、そういうこと思っちゃだめだって言ったでしょう?」
その声音の優しさに、エイトは息を飲む。
ちょっと意外だった。
「俺はさ、兄だから背負うべきです。でも、モモはいいんです。 あなたに責任はないんです。 大丈夫、俺が守ります。兄だから、だけではありまでん。」
少し間をあけたリョクだが、モモから反応はない。
聞こえているのか聞こえていないのか、まったくわからない。
それでもリョクは言葉を紡いだ。
しかし今度はあきらかに挑発。狂ったように笑っていた。
「っつーか、俺が犯人のようなモンでしょう? 実行犯っていってもさ、モモは悪くないです。だって俺が全て悪い! そもそも自然界は弱肉強食!!! 親でも何でも殺していい!!! そうでしょう? そうですよね! モモは愚かだから、こんな俺に騙されてーーー」
あきらかに演技。あきらかに挑発。
途中からは、その言葉はやけくそに吐き捨てられていた。
でも、嘘はない。
内容は合っている。でも、楽しそうに笑っていない。
すると、やっとモモが顔を上げた。
「アタシ やりたい 違う。 お兄さん、悪くない。 父さん 愚か。 嫉妬 愛情 憎しみ 笑顔 ぜんぶ、ごちゃごちゃ。 弱肉強食、合ってる。 お兄さん、正しい。 アタシ 怖かった」
リョクにだけ視線をおくるモモ。
リョクは頷く。
そして、・・・。
「モモ、・・・いい加減ネガティブやめなさああぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
「『「ええええええええええっ!?」』」
リョクが全力でチョップを繰り出した。
避けるような余裕のないモモはそれをもろに喰らって悶絶する。
せっかく感動的なシーンだったので、抱き締めてやればいいものを・・・
・・・雰囲気が台無しだった。