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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
40/56

Act.40 停滞と前進

間違えて途中で投稿してしまったので、書き足しました。


 コルネは心底面倒くさそうにしながらも、目の前のサンドゴーレムに目配せした。

「従魔にしてあげてもいいよ」という意思を込めたのだが、しっかり伝わったようだった。

嬉しそうに跳びはねる様子は無邪気で、砂でできていて顔が目と口しかないということを除けば人間のようだった。その度にちらちらと光を反射するサンドゴーレムの身体。・・・本当にサンドゴーレム?

 不思議に思い、コルネは手を止める。

両手はすでに言霊の輝きを放っていて、文言を口にすればすぐにでも従魔契約が完了するだろう。従魔契約といってもほとんど『奴隷』と変わらないが、コルネは相手の意見を尊重していた。

どう見てもサンドゴーレムだが、違ったら恥ずかしいので聞こう。


 「えっと、君は何の魔物なの? 従魔にするにはそこも把握しないと・・・」


 コルネはおそるおそる問う。

サンドゴーレムは、そんな彼女の懸念も知らずに笑った。


 『ジブンは、金で造られた錬金術型のゴーレム・・・生まれたときから個体名が授けられてるッス。 スゴくないっすか?魔物なのに個体名っすよ!』


 サンドゴーレム(仮)はニコニコ笑顔で告げた。

胸も張っているので、個体名があることが相当誇らしいのだろう。

Sランク冒険者に負けない実力をもつモモとリョクでさえ、契約後にコルネが名付けたのだ。生まれたときから個体名があるのは魔物全体で見ても一パーセント程度だという。

コルネはふんぞり返るサンドゴーレム(仮)を見て微笑む。

するとサンドゴーレム(仮)は言った。


 『ジブンは「金竜のルシエラ」。種族は空欄だから、ただの「ルシエラ」っす!!』


 サンドゴーレム(仮)改めルシエラは、妙に様になった敬礼をキメて、また笑顔。

一方コルネはその個体名に更なる疑問を抱きながらも笑顔を返すのだった。

・・・人格の性別は男だと思っていたのだが・・・もしかして・・・。

すると、その心を読んだかのようにルシエラが言った。


 『ジブンは肉体は無性別ながら、人格は男性を基盤として作られているッス。名前は気にしないで欲しいッスね・・・女っぽいのは少し気にしてるんッスよ』


 「・・・あぁ、そうなのね」


 コルネは、「ゴーレムなら、わりとよくあることだ」と納得し、ルシエラの手をとった。

それだけで理解したのだろう、ルシエラは頬を緩めてされるがままの状態になる。

これから、従属化の言霊を使うのだ。

そうすることで従魔として登録されて呼び出しが可能となる。

本当は瀕死状態の魔物に『認められる』ことが必要で、認められていなければ言霊をレジストされてしまうのだが・・・ルシエラは自ら望んだので大丈夫だろう。

 コルネが「『従属化』」と詠唱すると、彼女の両手を包んでいた光がルシエラの腕を伝って広がっていく。それはゆっくり浸透するように爪先まで広がると、収まっていった。

光が弾かれたように霧散することはなかったので『従属化』はレジストされなかったのだろう。

安心したコルネはそのまま座りこむ。『従属化』はかなりの精神力をもっていかれるのだ。


 そのまま深く息を吐いたコルネは、強い空腹に襲われて腹の虫が鳴きそうになった。

精神的な疲れが空腹に直結するのがコルネにとって当たり前なのだ。

知らず知らずのうちにエイトの料理を思いだし、とたんに更に腹が減った。少し寂しくも感じたが、それより空腹が勝ってしまっていた。

 コルネはいそいそとマジックバッグから肉を取りだし、適当に焼いて食べ始める。

なんとなく火が通ってそうだったら『点火』の言霊を止めて、塩の代わりの果汁をかける。

やはり、彼女の食べる勢いはカー○ィだった。

ブラックホールな胃袋なのである。



 コルネに放置されていたルシエラは、きょとんとしながら暴食するコルネを見ていた。

人だと思えないレベルの食べっぷりだったので、彼の目は点になっていた。

食べながらも手を止めずに多重言霊・・・という高等技術を用いた調理だった。

しばらくして、放置に耐えきれなかったルシエラは何度もコルネに話しかけたが、食にとりつかれた彼女には彼の声は届かなかった。無念。





 『コルネさんっっっ!!!』


 「ごちそうさま・・・・・・え?」


 コルネがルシエラの声に気がついたのは、食事を終えた頃だった。

すっかり満腹になって、コルネは再び体に言霊を纏っていた。光が炎のように流動しながらコルネを包んでいた。

コルネは「はわわぁ」と欠伸をしてからルシエラを見た。

ルシエラはコルネに顔を近付けた状態で少し怒ったように言った。


 『ジブン、帰り方教えるって言ったッスよね!! さっさと教えたいんスけど』


 その言葉に、コルネは少し考え込んだあと思い出して「あぁ!」と声をあげた。

もともと帰り方を教えてもらう目的でルシエラを従魔にしたというのに、忘れていたのだ。

少し恥ずかしくなり頬をかくコルネ。

ルシエラは、座ったまま動かないコルネの右横に正座すると、説明し始めた・・・。




・・・




 エイトは荒い息で横たわっていた。

場所は何もない草原。

ずっと移動を続けていたのだが、どこまでいっても景色は変わらず、エイトは力尽きたのだった。

言霊・・・空中歩行(スカイステップ)の使いすぎで顔色は真っ青。空腹で足元は覚束なく、照りつける光がジリジリとエイトの体力を削っていた。


 「・・・ぁ、あ・・・・・・くっそ、ぉ・・・・・・。」


 この状態になるまで、日没を数えたところ十日以上経過していることがわかった。

異空間なので時の早さがすこし違うのだろう・・・時刻表示では未だに一日も経過していないが。

エイトには、コルネたちはどうなっているのだろう、などと心配する余裕もなかった。

まぁ、実際に命の危機に瀕しているのはエイトだけなのだったが。

・・・今まででエイトはたくさんの方法をためしていた。

まず、出口や食料を探した。

住んでいる人を探した。

いちいち言霊で作ると疲れるので、飲み水を探した。

草を食べれないか鑑定したが、猛毒があった。

あきらめてまた出口を探して力尽き、現在に至るのだった。

 だから、最後の賭けにでるしかないようだった。

とりあえずコルネたちが迎えに来るのを待とう。もし、来なくても・・・『アレ』なら何十年か耐えられるはずなのだ。誰でも使えるが、普通の冒険者は使おうとしない『アレ』だが、それしか道が残されていないうえに、いつか起こしてもらえるかもしれない状況なら使うしかない。


 「あぁ、やだな・・・『仮死睡眠』」


 エイトは意識を手放した。




・・・




 塔の最上階で、モモは立ち止まっていた。

モモは油断していた。

弱い敵ばかりだと思っていた。

油断していないつもりでも、精神力を消耗していたモモは罠に嵌まってしまったのだった。

そして、動けなくなっていた。・・・実際は、動けるのだろうが、動けなかった。


 「・・・父さん」


 彼女の目の前には暗闇しかないのに、モモは暗闇を見つめていた。

彼女の瞳は何もうつしていない。


 「父さん 死ぬ だめ  ・・・行かないで」


 魔物の魅せる幻惑に、モモは囚われていた。




・・・




 リョクは、ウツボモドキも倒して水も回収して安全だったが、脱出方法がわからなかった。

上に行っても下に行っても出口はなく、壁を壊そうにも壊せない。

全力で放った言霊も、壁を壊せずに、ヒビも入れることができずに霧散した。


 「・・・ありえない・・・ですよ・・・」


 肩で息をしながら、リョクは壁を見つめる。

どうしても、壊せない。

今すぐにでも、モモに会いに行きたかったのに。

弱い妹を守りたかったのに・・・!!!


 「これじゃあ、また同じじゃないですか・・・・・・」


 リョクは俯いた。

それでも諦めず、次の言霊を練り始めた。




・・・




 「・・・・・・え? 本当に?」


 ルシエラの説明を聞いたコルネは、目を見開いていた。

まさかそんな方法で脱出できるのか・・・と驚愕していた。

冗談かと思っていたコルネだったがルシエラの真剣な表情を見て考えを改めた。

どうやら、本当に脱出できるようだ。


 『信じられないかもしれないッスけど・・・本当なんすよ』


 ルシエラはイラズラっぽく笑うと、コルネに言う。


 『コルネさんならできるはずッス』


 コルネは深く頷いた。

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