Act.4 寡黙な火妖精
飛竜が羽ばたくと、凄まじい風圧がエイトを襲った。
ゆっくりと上昇する飛竜を見たエイトは、置いていかれてはたまらない と、慌てて言霊を唱える。
「空中歩行!!」
とたんにエイトの体は軽くなり、力がみなぎった。
・・・これが各ステータス上昇有り、という効果か。
よくよく考えてみれば、つい最近までニートだったエイトが空中といえど家からここまでの距離を休まずに走って来ることができたのはこの効果のおかげだろう。
エイトは空中歩行に感謝しつつ、コルネを追いかけた。
接近して様子を見ると、コルネは飛竜の上で地図を広げていた。
地図に赤くマーキングされているのは今回の依頼に関係する・・・空游竜の亜種の住み処だと思われる。そこには浮遊大陸との表記があった。
すると、ふと、エイトの頭に疑問が浮かんだ。
「コルネ、そういえば聞いてなかったんだけどさ、その空游竜の亜種って」
そこまで疑問を口にしたところでコルネからポーチが投げ渡された。
落としそうになりながらそれを受けとると、コルネからやや大きな声で説明される。
「亜種は一体だけど、私達が行くのは空游竜の巣窟よ。あと、そのポーチは私の荷物を共有化してエイトさんも使えるようにできる魔言道具。」
エイトは初めて手に取る高価な魔言道具であるそのポーチをまじまじと見つめた。
回復薬などは持ってきてなかったので、その不安は無くなったと言って良いだろう。
・・・しかし・・・・・・。
「単独討伐はSランクでもちょっと厳しいんじゃ・・・?」
巣窟に行くと聞いたエイトは冷や汗をたらしながら問う。
「だ、だよね・・・」
コルネも不安そうに眉尻を下げ、飛竜をホバリングさせた。
・・・しかし、ここで立ち往生していてもしょうがない。
「じゃあ一旦戻って仲間でも探すのか?」
振り返りつつ発言したエイトだったが、コルネは既に何らかの言霊を詠唱し始めていた。
「えっと、我は貴方を待っていた 祝詞は貴様を待ちはせず・・・呼出!」
苦手なのだろう、少々長い詠唱があったが、言霊は発動した。若草色の光の粒子がコルネの周囲を翔んでから、一気に拡散した。花火のように綺麗な光景だったが、エイトは慌ててコルネに聞いた。
「ちょ、今のって・・・誰か仲間でも呼んだのか?」
質問に対して、コルネは小さく頷いて、
「人間じゃないから安心してね」
・・・と、全くもって安心できない台詞を口にした。
しばらくすると、若草色の粒子が再びコルネを中心に集まり、消えていった。
呼出の言霊が任務を完遂した、と判断したのだろう。ちょうどその時、何か赤い物体が遠くから高速飛行して来ていた。燃えているように見えなくもない。
「うわっ!?何だアレ!?!?」
叫ぶエイトの目の前で、赤い物体は物理を無視して空中で急停止した。
それは見る限り人の形をしているが・・・肌が赤い時点で人間じゃない。コルネの言った通りだ。
「この子は」
「我は見ての通り人間ではない。種族は火妖精。名はドグマ。コルネ嬢の幼馴染みである。」
コルネの紹介を遮るようにして、赤い・・・火妖精のドグマは告げた。
ストレートな髪質でショートヘアのコルネとは対称的に長いクセっ毛をポニーテールにしている。腰まで届くポニーテールは炎のように毛先が揺らめいている。長めの前髪は目に入りそうだ。
コルネはドグマを飛竜に乗せると、彼女にもポーチを渡した。
野良の妖精は凶暴な個体が多く、SSの冒険者でも返り討ちにしてしまうことがあるバトルジャンキー。
その中でも過激なイメージのある火妖精が味方になったことで、エイトはかなり安心していた。
「俺はエイト。Sランクの冒険者で、シーフだ。よろしく。」
「ああ。」
ドグマは無愛想に返事をする。
・・・ん?よくよく見ると身長以外はコルネより成長して・・・
一瞬、口にしかけた地雷台詞を飲み込み、コルネに言う。
「ドグマさんは後方支援と遠距離攻撃かな? 何か作戦とかは無いか?」
コルネは眉をひそめつつ、ドグマに目配せした。
ドグマは首を横に振る。
「ドグマは作戦とかあっても覚えられないし、覚えても無視しちゃうから意味無いよ。ごめんね。」
後衛は作戦重視のハズなのに、とショックを受けながらドグマに視線を向ける。
ドグマは喋りはしないものの申し訳なさそうにしていた。それを見ても怒れるほど、エイトの心は強くない。
「・・・じゃあ、行くか」
一抹の不安があるものの、エイト達は空游竜の巣窟へ向かった。