Act.39 矮小な存在とて
遅くなってすみません!
ゆっくり、しかし確実に・・・山は移動していた。
コルネは自分の失態に頭を抱えながらも、原因を少しわかりはじめていた。
「思ったより山頂が遠くて『変だなぁ』とは思ってたけど・・・。」
おそらくコルネが登山しているうちに山が移動し、それがちょうど山頂付近にあったため、間違えてそのまま登ってしまったのだろう。どうして異様に『大物の気配』が近いことを疑問に思わなかったのか・・・。
そう考えているうちにも山は移動して、少しずつ景色が変わっていった。
改めてこの空間を見ると、その広さに驚いた。
もしかしたらこの風景は見せかけだけで、実際は狭いのかも知れない。
だが、たとえそうだとしてもこの場所を作り出した者の力量が窺える。大規模な言霊を使えるということは、それだけ精神力が強い人間だといえる。コルネは『異空間』を作る言霊は使えないが、もし使えても民家が二・三軒入るくらいの空間になってしまうだろうから・・・。
コルネは『動く山』から発せられる強い威圧感に耐えながら、警戒していた。いつでも剣を振るうことができるようにと、すでに柄に手を添えている状態になっている。
それなのに、言霊での攻撃の気配もなく・・・ただ動いているだけだ。
何も起こらないことが逆に不気味で、コルネはしばらく動かずに警戒を続ける。
ズッ ズッ という山の動く音と涼やかな風の吹く音、木々の葉が擦れる微かな音が空間を満たした。
何も起こらない・・・。
コルネはそれでも警戒を解かず、しかしその状況に耐えかねて、剣を地面に突き立てた。これで『攻撃』とみなされたならそのまま戦うことになるのだが・・・
・・・予想通り、『動く山』は反応しなかった。
この程度の攻撃は痛くもなんともないのか、はたまた攻撃が届いていないのかわからないが、今のコルネに『動く山』にダメージを与えることはできないのだとわかってしまった。
コルネはしぶしぶ剣を鞘におさめるとマジックバッグから串焼きを取り出した。
こうなったら、山を散策するしかない。
山道は疲れるだろうから腹を満たすのだ。
コルネは椅子代わりの岩に座ると余っていたソースに肉を浸し、かぶりつく。爽やかな酸味と甘味が口に広がる。
思わず「美味しい!」と笑顔になり、待ちきれないとばかりに二口目を口にした。
取り出したものが何の串焼きか確認していなかったが、柔らかくて比較的にあっさりとしたこの肉はニワトリ(っぽい魔物)の肉だろう。焼き鳥だ。
二口で焼き鳥一本を食べ終えたコルネは、次の串焼きを取り出す。
今度はちゃんと選んだようで、その手には三本の豚 (っぽい魔物)の串焼きを持っていた。
美味しそうに光る脂が滴っている豚串。コルネはまず何もつけずに一本を一口で食らいつくした。
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
コルネは足をばたつかせて、至福の表情になる。豚串は味付けがなくてもじゅうぶん美味しかった。
こんな食の楽園で育った豚だからだろうか、口にした瞬間に肉は柔らかくほどけて、噛む度にほとばしる旨味のつまった脂が口に広がる。食べすぎたら胃もたれしそうだが、コルネには関係ない。
上機嫌のコルネは二本目の豚串に果汁をかけた。
その果実は塩分を溜め込む性質を持っていて、強い酸味と塩気があるので塩の代わりにしている。塩はポーチに入っているので今は使えないのだ。
柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を満たし、それだけで幸せになる。
コルネは酸味が襲ってくるのを身構えて小さな一口で豚串にかじりついた。
すると、脂で少しもやもやしていた口の中に酸味が駆け巡り、すっきりする。目が覚める。
そして果汁だけというシンプルな味付け故に肉の味がしっかり味わえる。
「これ好きかも・・・」
コルネは目を輝かせて豚串を見つめ、残りを一口で食べた。
手に残ったのは一本の豚串。
「・・・もっかい果汁を」
本当は三種の味を楽しみたかったコルネだったが、ソースは今まででたくさん食べていたので・・・個人的に一番好きだった味を選んだようだ。その前に三秒ほど葛藤があったが。
コルネはかけすぎないように注意しながら果汁を垂らし、すぐに肉にかぶりつく。
その後も数本の串焼きを食べたコルネは山の散策を開始するのであった。
山の魔物は多種多様で、ミミクリーマッシュはもちろん、幻惑の妖精であるミラージュフェアリーや泥でできた動く手のようなマッドハンドという魔物、中級のスライムや火水氷草土など各種のゴーレムまで存在していた。『動く山』の上だけ、同じ場所に生きることのできない魔物が共生していたりもする。
まるで『動く山』が『魔物を作り出して操っている』ような不思議な空間だった。
コルネは目の前にいるサンドゴーレムを睨んだ。
サンドゴーレムは砂でできていて、物理攻撃があまり有効ではない。
水の言霊は『こうかばつぐん』だが、心臓部分を壊さない限り乾くと復活してしまう。
食べられない・・・美味しくないゴーレムが復活したって損なだけなので、コルネは心臓を探していたのだ。
しかも、目の前のサンドゴーレムは小さい。二メートルを超すゴーレムが普通なのに対し、このサンドゴーレムはどう見ても人間の子供サイズ。小学校高学年くらいだ。
ゴーレムが小さいということは、心臓も小さい。
心臓が小さいと、探しにくいし斬りにくい。
なので、このサンドゴーレムはコルネにとってはとても嫌な敵というわけだ。
「しかも・・・何よこれ」
サンドゴーレムには水の言霊が効くはずなのに、このゴーレムは水で固くなりやがった。
コルネは"めんどくさい"とため息をつきながら、とりあえずメッタ斬りにしておこうと決めた。
そして彼女が濃厚な殺気を放ったとき・・・
『ちーっス』
「は?」
・・・目の前のサンドゴーレムは、陽気に挨拶をした。
間抜けな声を出したあと、コルネは慌てて自身のギルド会員証を取り出した。
すると、彼女の予想通りの表示があった。
《召喚士系》
《固有言霊》
・上位種交友 希少ポイント:150 効果:自動発動。上位種が友好的になる。代わりに新たな言霊を覚えにくくなる。
「うわああぁ・・・!! まただよ!!!!」
コルネは頭を抱えた。
心配して近寄ってくるサンドゴーレムだったが、コルネはそれを無視して嘆く。
・・・せっかくイチから召喚士をやってAAランクまできたのに、こんなチートスキルいらねぇ!!
コルネの適正職業は召喚士ではなかったのだが、だからこそ召喚士を選んでいた。
そして、彼女がやっとの思いでBランクになったとき、いつの間にかこの言霊・・・上位種交友を手に入れていた。初めは「新しい言霊だ!やったぁ!」くらいにしか考えていなかったが、あるとき言霊の詳細を見て戦慄したものだ。
コルネは懐かしく思いながらも嘆く。
コルネは『上位種交友』の希少ポイントの高さおかげでそのままBBランクをとんでAランクになった。
そのあとも努力を続けて到達できたAAランク。
しかし、希少ポイントではSランクの条件を満たしていた。
ただ、AAランクまでは存在していなかった審査点・・・『職業の適正言霊を最低十個所持している』というのを未だに満たせずにいたのだった。
コルネは『召喚』『使役』『奴隷化』『従魔強化』『従魔回復』『従魔騎乗』と『上位種交友』以外の召喚士の言霊を持っていないのだった。才能の問題と、『上位種交友』の効果のせいだろう。
・・・だから、『上位種交友』を恨んでいたりする。
「才能が無いのに、言霊夢をみていないのに固有言霊を手に入れたのは変だけど・・・」
・・・それでも、エイトほど変ではない。
どうせ言霊夢を忘れただけだ、と思うことにしていた。
「でもやっぱりこの言霊嫌い!!!」
コルネは乱暴に会員証をしまうと、小さな子供のように怒りだす。
するとそれまで様子を見ていたサンドゴーレムがたじろいで、おそるおそる話しかけた。
『あのぉ・・・ジブン、貴方の力になるっスよ?』
しかしコルネは座りこんで俯いたまま、反応しない。
それを見たサンドゴーレムはため息をつくと、『仕方ない、ネタバラシするっス』と呟き・・・
『・・・・・・ジブン、神殿への帰り方と仲間の呼び戻し方、召喚主になら教えるッス』
・・・コルネを振り向かせることに成功した。
だが、その言葉からわかったが、サンドゴーレムはコルネの従魔になりたいということだろう。
ほぼ百パーセント、『上位種交友』の効果である。
悩んだ末、コルネは自分のプライドに傷がつくのを薄々感じながらも、帰還するために『上位種交友』の恩恵を与ることにした。
ぱぱっと従魔にして、帰り方を教えてもらおう・・・。
次も少し遅れると思いますm(__)m
しばらく忙しい時期が続きますが、一週間に最低一回は絶対に更新します。
それだけは約束します!((