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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
35/56

Act.35 無茶してでも!

 少し遅れました;


 リョクは目の前に立ち塞がる大きな難題に、頭を抱えた。

無理難題であるが、これを越えなければ(モモ)・・・もといエイト達には合流できそうにない。

これは、腹を括らなければならなさそうだ。だが、どうしたものか。

ウツボモドキはおそらくこれからも下に落ちてから再来するまでに回復するだろう。

それをどうにかしないことには先には進めないだろう。

まず下で何が起こっているか知りたかった。

 そーっと下を覗き見るが、やはり遠くて見えない。自ら足を運んで確認する必要がありそうだが、リョクはとりあえず先を見たいだけなので炎を纏った矢を放った。

すると矢は下に一直線に進み・・・

・・・その道も半ばでウツボモドキの放ったであろう水球に炎を消された。

これではただの矢なので、下を照らすことはできない。

リョクは意を決して蜘蛛の巣から飛び降りた。



 「・・・うわっ」


 飛び降りてすぐに、リョクを水球の弾幕が襲った。

糸を張り巡らせて防御して事なきをえたが、その代償にびしゃびしゃに濡れてしまった。

防壁(ガード)を展開するべきだったと後悔するリョクだったが、水球は一旦おさまったがまたいつ攻撃がされるかわからない。リョクは今のうちにと糸を切り、自由落下で下に向かった。

ある程度下りると、再び遥か上方にある蜘蛛の巣に向かって糸をのばす。

リョクがそうやって空中で安定したところにウツボモドキの水球が飛来する。この攻撃方法しかないのか・・・とリョクは眉をひそめた。

 するとその考えを読んだかのようにウツボモドキが跳ねる。高度が低いので、今はリョクがウツボモドキを見上げるような形になっていた。だが危惧したようにウツボモドキがリョクを飲み込もうとすることはなかった。

ただ、ウツボモドキはこちらを睨むようにして見ていた。

反射的に身構えるリョク。

何らかの攻撃を想定して大きめの防壁(ガード)を展開したが・・・。


 「ん?・・・後ろ・・・・・・っ!?!?」


 前方・・・ウツボモドキの方向に防壁(ガード)を展開していたが故に、後ろはがら空きだった。

リョクは後ろから迫っていた『攻撃』を野生の勘で間一髪でかわした。

しかし振り向きながら避けたものの『攻撃』は見えない。

焦る。

だが見えない『攻撃』は初めてなわけではない。

焦ったままに対処しようと急いだリョクの首筋に(くれない)が差した。


 「・・・っ」


 息を飲む。

不可視の攻撃が狙っていたのは自分(リョク)の首だったと察したからだ。

無意識に身体に力が入り、そのまま防壁を全方位に広げた。しかし警鐘が止まない。

リョクはもう一度勘に従って防壁内で身体を傾けた。そのリョクの耳元で風を切り裂く音が聞こえた。

その音の近さに、不可視の攻撃には防壁(ガード)も無用の長物なのだと判断せざるをえない。

リョクはそれを言霊だと認識して、似たものを脳内で検索する。

 答えはすぐに見つかった。

不可視で、鋭い斬撃。それに該当するのは・・・

・・・風系統の言霊である『エアーカッター』や『カッタートルネード』などだが、規模を考えると『エアーカッター』が妥当であろう。無詠唱だったが、魔物は規格外が多いのでこんなものだろう。

そうして不可視の攻撃の正体に目星をつけたリョクだったが、ウツボモドキは考察している間に水中に逆戻り。

攻撃が止んだのをいいことに、リョクは体勢を整えるためにいくつか詠唱した。


 「風に耳澄ませ 風に目を向け『風見(かざみ)』、防壁の内に守りを 光を打ち消せ『境界内遮断』」


 詠唱が完了するとリョクの両目に黄緑の光が宿り、風の動きが見えるようになった。

『境界内遮断』は防壁の内側にだけ機能する、防壁(ガード)の派生言霊『境界内妨害』の上位互換だ。防壁内で言霊を発動することができなくなるが、敵が遠隔操作のできる言霊を持っているときはとても有効な妨害専用言霊だ。

これらはエアーカッターの対策のために唱えた。

これで気を抜いたときにポロリと首が落ちる・・・なんて心配もなくなったわけだ。

しかし気を抜いていたらすぐに死ぬだろう。リョクは深呼吸をしてから下を向く。


 「・・・こういうことなら、回復系や支援系の言霊も練習しておけばよかったです。」


 リョクは遠隔攻撃特化型なのでいつもモモに支援してもらっていた。

そのモモは今や武器のおかげで肉弾戦だけでなく魔法戦でも活躍するようになっていた。それなのに回復系も支援系も熟練していて、頼もしいのだがリョクはずっと心配していた。

だが、心配するべきは自分だった。

特化型は単体では逆に弱くなる。

一撃ですべてが決まるような高レベルの言霊師であれば通用するかも知れないが、自分(リョク)は弓を主体としていくつかの属性の言霊・・・その中の攻撃用の言霊だけを覚えていた。

しかし魔物なので誰かに教わることなどできなかった。

なので威力も精度も中途半端で、特に発動したい場所で発動させるのが苦手だった。

コルネに仕えてからは彼女を師として練習していたが『超ノーコン』なのは直らず。

 リョクは迫る風の刃を避けながら降下を続けた。

上位種(リョク)にとっては、見えていれば簡単によけることのできる単純な斬撃だ。

空中で踊っているかのように攻撃を避けながら、リョクはそろそろ止まろうか、と考える。

それとほぼ同時に視界に水面が入り込み、その考えを採用するしかなさそうだ。

水中戦なんてやったら絶対負けるので。

 リョクは壁に糸を飛ばし、その糸を伝うようにして壁にたどり着く。

それからはパラライズスパイダーの種族固有の能力である『帯電』と『壁歩行』で臨戦状態。

『壁歩行』は巣を作り終えた状態でないと発動できないものの、非常に便利だった。

重力も何もかもを無視したように壁に両足で立つ姿は、人間形態なのでアンバランスを極めた。



 しばらくウツボモドキに動きはなく、リョクは水面をじっと見つめていた。

何度か水面に姿が浮かんだが、跳ねることはなかった。

塔の底に溜まっている水はとても多いのだろう、ウツボモドキの姿は水の奥の闇に隠れている。

リョクは時間もあいたので軽食をとろうとポーチに手をのばし、中に手を入れて眉をひそめた。

こちらでも、マジックポーチは機能していなかったのだ。

 つまり出るまで飲まず食わずでなければいけない。

エイトの送られた空間にははたして食料などあっただろうか・・・と不安に思いつつ、リョクは下を見た。


 「・・・魔物は食用のものもいますし・・・俺なら食べれますよね?」


 リョクはウツボモドキを食べるつもりのようだった。

するとリョクの視線を感じたのか、ウツボモドキの影が水面にうつる。

ウツボモドキはそのまま盛大に跳ねた。

 リョクは壁に立っているのでウツボモドキの狙いはリョクじゃない。ただ跳ねたかったようだ。

そうやってのんびり観察しながら、矢に言霊を込めていった。

そして、ウツボモドキが着水する寸前に雷電を纏った矢を放ち、尾ひれに命中させる。

目印をつけることができて息をつく。しかしそれも次の瞬間驚愕に塗り潰された。


 「今、水に入ったばかりなのに・・・傷が完治して・・・!?」


 言葉の通り、ウツボモドキの尾ひれは元通り。

呆然としているリョクは遅れてやってきた水飛沫にさらされていた。

突如、その首筋がぼんやりと熱くなった。


 驚いて触れるが、特に何もなかった。

何もなかった・・・?


 「・・・さっきの傷は・・・?」


 ウツボモドキが使ったエアーカッターでついた傷が無かったのだ。

さすがのリョクでもこんな短時間で傷が治ることはない。

直前の変化は水を浴びたか浴びていないか・・・なので原因は水にあるとみて間違いないだろう。

そう結論付け、リョクは肌に付着している水滴に視線をうつす。

それをおそるおそる『鑑定』すると____




 アイテム名:神水


 効果:あらゆる外傷的な傷を治す。状態異常や病には効果がない。




 ___突っ込みたい所は多いが、とりあえず回復は水が原因と確定した。

リョクは即座に土系統の言霊で不恰好なガラス瓶を作りながら顔を歪めた。

・・・これを手土産に持っていこう。

倒せるかどうかという心配以前に、欲が勝ったようだった。

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