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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
32/56

Act.32 不変と廃墟


 エイトは叫んだ。



 「嘘だろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?」



 無理もないだろう。

何もない場所に一人で取り残されているなんて、不安すぎる。

眼下に広がる草原は『超・平和』。敵も現れず気持ちいい風が吹いていて快適ではあった。

それでも、どう考えてもこのままじゃ不味い・・・エイトは自分より仲間を心配していた。

 エイトはとりあえず落ち着こうと思って地面に舞い戻った。

そしてそのまま青々と茂っている草の上に倒れこむようにして寝転がると、草の香りを堪能する。

少し背中がチクチクしたが、肺一杯に吸い込んだ空気をゆっくり吐き出してリラックスモードになった。


 「はぁ~・・・ 落ち着く。」


 エイトはすぐに落ち着きを取り戻した。

どくどくと不規則に、早鐘のように打っていた鼓動も、一定に・・・いつものリズムに戻る。

そうして、考えた。

まず、自分から行動する場合。

これは一番最初に思い浮かんだ案だったが、元々ポーチに入れていた食料等は少なめなのでもし使いきったらそこでゲームオーバーだといえる。ここには動物もいないので調達するのも不可能だ。

次に、何かの接触を待つ場合。

通路に閉じ込められたときのように、罠だったとしても出られるように措置はされているはずなのだ。

しかし周りに手がかりは見当たらない。だから『もしかしたら何かから接触があるかもしれない』という考え。

 エイトは後者を選んだ。

めんどくさいし、体力の消耗はなるべく避けたかった。

そして、喉が渇いたエイトはポーチに手を入れる。


 「・・・は?」


 ポーチに差し込んだ手が止まった。

いつもなら手を差し込んでも底に指先が届くことなんてないのに、届いていた。

そればかりか、念じれば入っているものが取り出せるハズなのに・・・何もない。

ただのポーチになっていた。

つまり、食料はナッシング。水系統の言霊は苦手なので、水もないと考えていいだろう。

 エイトはごくりと生唾を飲み込む。今この瞬間こそ、最大の危機かもしれないと思ってしまった。






・・・






 ちょうどその頃、モモは途方に暮れていた。

一緒に飛び込んだはずの召喚主(コルネ)が隣にいない。・・・どこにもいない。

モモは無表情のまま「個別に 閉じ込められる、罠」と呟きながら情報を整理していた。

しかし情報が少なすぎる。

モモはひとつも解決策が思い浮かばないまま、歩き出した。

目指すは塔。荒野にはそれ以外見当たらないので、それ以外に選択肢は無かった。




 そして、すぐに塔の入り口にたどり着いた。

乾いた風の音がひゅうひゅうと鳴っていて、蔦が這う塔はお化け屋敷のようだった。

近付いてみたことでわかったが塔はほとんど廃墟のようになっていて、隙間風の音だと思われる。

入り口には扉もなく、中は荒れ果てていた。


 「・・・ぼろぼろ、 人 住めない。・・・うっ」


 覗きこみ、それからモモは鼻をおさえる。


 「空気 悪い ・・・最悪」


 その言葉の通り、塔の中にはとても不快な臭いが充満していた。

カビやホコリの臭いもするが・・・何よりも強烈だったのは腐臭だった。

隙間風が酷いのにここまで溜まるのかと思いながら顔を歪め、それでも立ち止まることなく足を踏み入れる。


 中に入ると腐臭はさらに強烈になり、モモは息を詰まらせた。

そして臭いの強い方を見る。

するとそこにはどろどろに腐った死体があり、こちらに一歩踏み出した。『腐肉鬼(グール)』だ。

モモは即座に距離をとり、先手とばかりに「グロウ・マンイーター!!」と言霊を唱えた。

詠唱は成功し、モモの手のひらから赤の混じった毒々しい緑の光が地面に落ちる。

それは鈍い光を発しながら地中を這い、グールの真下に着くと停止・・・

・・・そのまま一度眩い閃光を発すると、気付いたときにはグールは植物(マンイーター)の口の中にいた。

『マンイーター』はそのまま口を閉じ、バキ、ゴキリと音をたててグールを咀嚼する。


 「マンイーター 好物、腐肉   ・・・どう? 美味しい?」


 モモは幼い顔に似合わない歪んだ表情で、マンイーターに笑いかけた。

マンイーターは肯定するように何度か体を揺すると骨だけ吐き出し、光に戻って消えた。

それを見届けモモは改めて周りを見渡した。

家具が散乱し、視界が遮られている。そして、近くにはグールがいないのか、腐臭は弱まっていた。

しかし、あくまでも『近くにはいない』のだ。臭いはするのでこの塔のどこかにいるのだろう。

 警戒を強め、モモは歩き出す。

棚の陰にいるかもしれない。

机の下に隠れていたりして。

後ろにいるかも・・・?

カーテンの裏にはいないか?

上から落ちてきたらどうしよう。

 まるでどこぞのB級ホラーかと思えるような状況だったが、実際にそんな状況に陥った者としては『B級』とかは関係なく『怖い』。モモは気付かぬうちに目に涙を浮かべていた。

仲間がいなくなって寂しかった。兄がいなくて不安だった。仲間が心配で、この状況が怖かった。

それを認めたくなくて震えを抑えていたのだが、涙は抑えきれなかったのである。

 モモは唯一頼もしいと思える相棒・・・『フェアリーランス』に目を向ける。


 「・・・エイト」


 モモは無意識にリーダーの名前を呟いた。

それと同時に襲いかかるグールを吹き飛ばす。グールは千切れ、ぼろぼろになったが立ち上がる。

もちろんそのあとはマンイーターに食べさせて臭いの元を減らす。マンイーターもご機嫌だ。

 そして、モモは結局苦戦することが一度もないまま階段までたどり着いた。

グールは防御も攻撃も中途半端で個体に差があるが生命力が強くとても厄介な魔物だが、隠れて一体一体襲ってくる場合は倒しやすいことこの上ない。臭いがキツいので、場所バレしまくりなのだ。

マンイーターもいるので、ほぼ一瞬でカタがつく。

モモはそれでも警戒を弱めず、それどころか強めながら階段をのぼった。



 すると案外短かった階段の終わりに差し掛かる。

二階は・・・。


 あまりにも予想外・・・あまりにも気持ち悪い光景に、モモは絶句。

二階は広間になっていて、なんか、めちゃくちゃいる。

何がいるかって、もちろんグールなのだけれども、量が半端じゃなかった。

広間を覆い尽くすグール。どこを見てもグール。壁にもグール。目の前にも・・・

 「・・・」

モモは無言で近寄ってきたグールを両断。

するとそれが合図だったように、グールが波となって襲いかかる。

まさに肉壁。力で勝てぬなら物量、である。

しかしそれでもモモは涼しい顔で凪ぎ払っていく。マンイーターはモモのサポートに徹しているようであまり表に出ないが、それでも隙あらば再起不能になったグールを食べていた。


 「・・・螺旋」


 モモは短く詠唱し、槍を構える。目の前に残っているのは数体のグール。

槍は美しく弧を描きながら、最後に残ったグールたちを一刀両断し、崩れ落ちるグールをマンイーターが喰らう。そうやって、広間にはグールの骨とモモたちだけが残った。

数分にしてついた決着は、それだけモモが強いということを表す。

モモはフェアリーランスに付着した血を振り払うとマンイーターを撫でる。

マンイーターは嬉しそうに葉っぱを揺らし、再び光に戻った。

 モモは床に散らばる骨を蹴散らしながら進み、あっという間に階段にたどり着く。

もう三階。しかし、たったの三階ともいえる。外から見ただけではあまりわからないが、大体七・八階くらいはありそうだ。残りの階はどうなっているのだろう・・・。

モモは少し楽しんでいる自分に気付いた。

驚く系のトラップやホラーな雰囲気は苦手だったが、戦うのはきらいじゃない。

一人だと思っていたが、自分(アタシ)にはマンイーターもいるし、皆に負けないくらい強い。

そういう自信もあった。




 しかし。




 次の階層はどんな場所だろうか・・・と胸を踊らせて階段をのぼった先には、期待外れどころか一番望んでいなかったような光景が広がっていて。


 「やっぱ・・・・・・むり・・・」


 モモは再び目尻に涙をためて座りこんだ。

 一人一人、書いていこうと思います。

これで少しでもキャラを好きになっていただけたら・・・なんて淡い期待もありつつ。

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