Act.31 それぞれの運命
エイトは生きていたことをコルネと共に喜んだ後に、考えていた。
自分には、経験もそうだが警戒心や精神的なものが全然足りていないんだ・・・と。
実際今回の怪我はすべて不注意からなるものなのだ。反省すべきだとわかっている。
そして、もう二度と強敵を一体倒したからって調子には乗らないぞ、と誓ったエイトだったが それには明確な理由が存在した。
「別に俺・・・戦えるよ?」
思わず声にしてしまったが、エイトはこの状況がとても不服だった。
この状況、とは。
「エイトさんは危なっかしいし、怪我も完治してないでしょ!」
「そうですよ。エイトは休むべきです!!」
「アタシ エイト 守る」
・・・コルネ、リョク、モモが過保護になっている状況である。
一応探索を再開したのだが、エイトを敵と戦わせないために三人が周囲に殺気を散らしていた。
これではせっかくの武器もあまり使えない。
コルネは今までエイトに頼りっきりだったから。
リョクは普通に心配して。
モモは頼ってほしいから。
三人はそれぞれ理由は違えど、エイトのことを想ってその行動を選んでいた。
しかしエイトにとっては戦えないのは苦痛でしかなくて、それなのに腹の傷が時折痛むので行動できないでいた。その手は幾度もナイフにのびかけたが、躊躇う間に三人が敵を一掃しているのもあるが。
そして、今の編成は先頭がコルネ、左右に交代しながら兄妹、その三角形の中心にエイト・・・というようになっていた。
たまに襲いかかるノーライフは先頭のコルネにほとんどを倒されるので、コルネの強さを再認識して恐怖をおぼえるエイトであった・・・。
ふと、エイトは腰に手を伸ばした。
目覚めたあとはゴタゴタしていて忘れていたが、夢がどうしても気になってしまうのだ。
感じたことの無いような痛み。しかし、それを感じたのは夢の中である。
この世界では『夢の中では痛くない』というのが常識なので、エイトが不安になるのも仕方なかった。
「・・・。」
エイトは何もついていない腰に触れていると、目の前に竜と蛇が現れてそれに驚いて起きたことを思い出した。見間違いでなければ、少なくとも『蛇』は、大きさこそ違えどここに祀られている『神』だった。
何故小さくなった大蛇神が目の前にいたのか、そして、同時に現れた竜たちは何なのか。
答えの見つからない疑問が、エイトの中で悶々と渦巻き続けた。
目の前を見れば、コルネが頼もしく先頭を歩いている。
話しかければ、問いかければ、わからなくても彼女なりの見解をすぐに答えてくれそうだ。
だがエイトは彼女に聞くことを選ばなかった。
(これ以上心配させたくないし・・・)
エイトは険しい目付きで神殿の奥を見る。
きっとこの奥に、自らの全てを知るための手がかり・・・もしくは真実そのものが待っている。
そうやって自己暗示をかけていないと、泣き出してしまいそうだったから。
・・・
神殿探索もそろそろ終盤に差し掛かったのだろうか、その景色は一変していた。
一本道が延々と続いている通路だけだったものが、行き止まりになっていた。
その行き止まりはドームのようになっていて、天井はとてつもなく高く、明るい。
そして、そこには五つの扉が並んでいた。
一行は立ち止まり、それぞれの部屋の扉の様子を確認する。
それぞれの扉には違った装飾が施されていて、全てどこかの場所を描いているように見えた。
先頭を歩いていたコルネは振り向くと、エイトに問う。
「・・・どうする、エイトさん?」
どうやら彼女は決定権をエイトに与えているのを変えるつもりなんてないらしい。
リョクもモモも異議はないらしく、エイトに真っ直ぐな視線を向けた。
不安だが、しょうがない・・・
「とりあえず、左から入ってみようか。・・・あ、でもヤバそうなのは後回しにするかな。」
エイトはため息を吐きながらも笑顔を見せる。
結局他の案も無かったので、一行は左から順に扉を開けてみるということになった。
入るかは開けてみてから決めるということで。
そして一番左の扉の前につく。
エイトは少し躊躇ってから、扉を引いた。
・・・引いた。
しかし、どうやら押すべきだったのか開かない。すぐに気付き、耳を紅くして再挑戦する。
今度はすんなり開いて、景色が一変した。
「・・・わぁ、草原。」
コルネの呟きと同時に、爽やかな風が吹き抜けた。
その言葉の通り、扉の向こうには永遠に続いているようにも見える草原が広がっていた。
空は蒼く、雲ひとつない。ちなみに太陽もない。
風に揺れる草が擦れてさらさらと音がする。
エイトは目を輝かせた。
「これって・・・アレだよな、アレ!!! 異空間!!!」
興奮して叫ぶエイト。
まだ足を踏み入れているわけではないが、エイトは身を乗り出していた。
少しクセのある黒髪が風になびいた。
リョクはその様子を見て「そうですね」と返事をすると顔を背ける。
するとエイトはそのまま扉の中に足を踏み入れ・・・
・・・バタン。
そこで景色がただの扉に戻った。
否、扉が閉まったのだ。
慌てて周りを見るが、エイトの姿はどこにも見えない。トラップだったのか、とリョクが舌を打つ。
そんなリョクとは違って、焦りと動揺を隠せないコルネは扉に手をかける。しかしびくともしなかった。
押しても引いても、左右に引いても、しまいには剣で切りつけたが、まるでそこには何もないかのように手応えが感じられなかった。内側から開く気配も無かった。
コルネは一旦その扉を開けることを諦めると、残りの二人に告げる。
「・・・とりあえず、よっぽどのことがない限りエイトさんは死なない。だから、私達は次の扉で調査しましょ。・・・そしてエイトさんを救出する手立てを。」
コルネの言葉にリョクは頷き、モモは表情を引き締める。
その反応を見て肯定だと受け取り、コルネたちは二つ目の扉に対峙する。
そして、真剣な顔で扉を開いた。
するとまずはじめに大きな塔が目に入る。蔦が這っていて、見る者に古そうな印象を与える。
その塔が建っているのは荒野で、乾いた風とともに砂が吹きつけてきた。
コルネはモモと顔を見合わせて「・・・せーのっ」と声を出した。
二人は同時に扉を越え___
___気付くと扉の前に『二人』取り残されていた。
取り残されたコルネとリョクはぽかーんと気の抜けた表情になってしまう。
「これって・・・一人しか入れないんですか・・・!?!?」
リョクは嘆く。
同時に飛び込んだはずのコルネも苦い顔で言った。
「でもこれだと一人足りない計算じゃない・・・?」
視線の先には残り三つの扉。予想通りなら・・・たしかに一人足りない。
決心した二人は真ん中の扉に手をかけるが開かない。空回りしてしらけた空気になってしまった。
しばらくすると諦めて、次の扉に向かう。
次の扉はキィィィィィと音をたてて開いた。
不気味な音に一瞬驚いたコルネをリョクがちらりと見ると、彼女の目は見開かれていた。
それを見たリョクおそるおそる扉の奥に目を向ける。
するとそこには真っ暗な闇が広がっていて、地面があるのかさえわからなかった。
リョクもこれには驚いて、コルネの横からするりとすべりこんで顔だけを闇に突っ込む。
バタン。
するといつの間にかコルネは一人で扉の前に立っていた。
思わず苦笑いをし、独り言を呟く。
「え、・・・そんなぁ・・・・・・。」
がっくりと肩を落とすコルネ。結局打開策も見つからないうちに一人になってしまった。
しかし立ち止まってもいられない。
コルネはごくりと息を飲み、それから最後の扉に手をかけて
・・・
エイトはいつの間にか草原に一人佇んでいた。
草原は変わり栄えない景色がずっと続いていて、つまらないといえばつまらない。
・・・それより、仲間はどこだ?
見回すが、辺りには草くらいしかない。
草も丈が低いので、その中に隠れるのは不可能といっていい。
つまり、エイトは今、この草原に一人で取り残されたような状況だ。
エイトはたまらなく不安になり、
「すっ、空中歩行・・・!!!」
と叫んで言霊を行使し、空を駆ける。
高く高くに昇ったエイトだったが、草原を見下ろして絶望した。
草原は果てなく広がっていて、そこには敵の気配も、生き物の気配すら無かった。