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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
30/56

Act.30 痛みと思い出と笑顔と

 全然進まない・・・文章が思い浮かばない・・・!!

これがスランプでしょうか!?

 モモは縮地(ステップ)で後退し、空游竜(スカイドラゴン)・変異種から一旦距離をおく。

体から蔦を生やしている竜は自らの腹に食らいつき、根を取り除こうと躍起になる。

食らいつく度に血飛沫があがり、その血を吸ってか蔦が成長を早める。

竜は明らかに劣勢だった。

 そして、懸命に蔦から逃れようともがき続けた竜は、やっとのことで根を取り除いたのか口から肉塊と蔦を吐き出すとブレスで燃やす。蔦を除く代償に腹を抉った竜はこころなしかぐったりして見えた。

そんな竜とモモが再び向き合う。

モモは優勢となっても気を抜かず、槍を竜に向ける。


 「エイト 召喚主(コルネ) リョク、 負けた。 だから・・・」


 呟きながらモモは無詠唱で岩石魔人(ロックゴーレム)樹木魔人(ウッドゴーレム)を作り出し、三方向から同時に仕掛ける。

狙いをつけにくいようにジグザグと走り、同時に槍を突き立てた。

竜は樹木魔人(ウッドゴーレム)に狙いをつけると予備動作もほぼなしにブレスを放つ。

生木のため燃えにくく少し耐えた樹木魔人だったが、高熱の炎には流石に耐えきれず燃え尽きた。

結果、ニ方向からの攻撃となる。

竜は危険だと判断したのかモモを優先して爪を振るった。

 モモは迫る爪を跳んでかわし、岩の足場で方向転換。次に迫っていた尾を避けると予定通りに槍で突く。


 「アタシ は 負けない」


 モモの槍は言霊の輝きに包まれて、竜の横っ腹に真っ直ぐに突きを放った。

そのまま右側で振られた爪を防壁(ガード)で受け流し、追加で三撃叩き込んだ。

少し遅れて岩石魔人も攻撃し、両側から攻撃された竜は即座に岩石魔人に狙いを定めて噛み砕く。

がきんと音がしてゴーレムは砕け散った。

竜は近くにいるモモを確認すると好機と見てか広範囲にブレスを放つ。

 モモはあまりのあつさに「うっ・・・」と声を洩らす。しかし炎の大半は防壁(ガード)に阻まれた。

その隙間を這うように進んできた炎はモモを掠めるが大きなダメージを与えるには至らなかった。

モモはそのままもう一度突撃、至近距離で詠唱した。


 「岩 集まれ  岩 貫け  穴 穿て」


 焦ったように振り回される尾をかわし、切りつけ、モモは竜と一定距離を保つ。

無詠唱と違って『言葉(えいしょう)』が込められた言霊はより輝きを増し、土色の光が集まる。

光は集束すると鋭く尖った岩を造り出した。


 「ロックバレット」


 モモは挙げていた腕を降り下ろす。

まるでそれが合図だったかのように、岩の弾丸は撃ちだされた。

的が大きいため、それは的中した。弾丸は速度を落とさずに突き進み、そのまま貫通・・・!

モモは音もたてずに着地するととどめを刺すために槍を構え、


 大きな地響きとともに倒れこんだ竜を見て、息を吐いた。

竜はしばらくピクリピクリと痙攣していたが次第に動かなくなり、ついに息絶えた。

それを見たモモはやっと槍の構えをとく。




 「召喚主(コルネ)っ・・・!」


 モモはまず、コルネに駆け寄った。

自分の言霊の効果で傷は粗方ふさがり、意識もはっきりしていた。

無事を確認できたコルネとリョクの言霊を解くと、三人はおそるおそる、エイトを見た。


 エイトは、意識を失ったままだった。

大量の血を失ったので血色も悪く、モモの言霊の治療も追いついていないようで傷も塞がっていない。

しかし呼吸は落ち着いていた。頭部には怪我は見られなくて、よく見れば一応致命傷だけは塞がっているようだ。

 その傷だらけの身体を見て、その場にいた全員が息を呑んだ。

踏まれた瞬間を見ていたが、ここまでとは思っていなかった。モモの治療がなければ死んでいただろう。

まだ動けないどころか意識もないエイトを見て、三人はこのまま治療が終わるまで待つと決めた。







 エイトは空にいた。

絵の具をひっくり返したような、“いつもの” 夢の世界。

今回は言霊夢(ナイトメア)ではないのか、エイトは自分の意思で動くことができた。

明晰夢、というものだろうか。


 「俺・・・多分、昏睡状態だったりするのかな」


 エイトは自分の手のひらを見た。それと同時にさっきあったことを思い出す。

おそらく変異種の親だろうと思われる個体に、踏み潰された・・・と、今となってはわかっていた。

痛みで気が狂いそうになって堪えきれずに叫んだときは、何もわからなかったのだが。

 周りを見渡すが、景色は流動していて幻想的で、果てが無く永遠。

目につくものはないし、人も大蛇もいない。

エイトは一人、死ぬのかな、などと思いながら漂った。


 突然だった。

空を漂っていたエイトの背中・・・腰の辺りが焼けつくような痛みに襲われた。

それは何かに貫かれたような痛みで、しかしエイトの腹部には傷ひとつ見えなかった。

焦って痛みの発生源を手で探る。おそるおそる腰に触れた。

するとそこにはまるで『尾』のようなものが生えていた。それも、一つでなく八つの『尾』が。

まさか獣耳は生えていないよな・・・と頭に触れるが、危惧した事態にはなっていなかったようだ。

 そして気を抜いたエイトの目の前に、七体の竜と一匹の白い蛇が現れ___

___「・・・りゅっ、竜!?!?」







 ガバッとエイトは起き上がる。

身体のことを考えずに飛び起きたので、腹の辺りと腰が少し痛んだ。

鈍い痛みに声を出しそうになったがなんとかこらえ、ぎこちない動きで周囲を見渡す。

エイトはびくり、と肩を震わせた。


 「ま・・・じ、かよ・・・・・・」


 エイトのすぐ隣には顔色の悪いモモが寝ていて心配になったが、彼女は無傷だった。おそらく強力な言霊を使い過ぎたために精神的に消耗してしまったのだろう。

だが、そこまではいいのだ。

それよりも、辺りの惨状が目につくのだった。

 大きな血溜まりが変異種の死体の横とエイトの近くに一ヶ所ずつ、地面は爪やら槍やらの跡や融けた鉱石。

少し距離があいた場所にはコルネが体育座りで寝ていたが服はぼろぼろ。

リョクは一人で変異種の素材の剥ぎ取りをしていた。

エイトは思わず声をあげた。


 「な、何だよ・・・この血・・・!! それに、モモ以外・・・ボロボロじゃねーか!!」


 焦りと心配とで声を荒げたエイトだったが、幸いモモもコルネも起きず、リョクだけが視線をエイトに向けた。その目は泣き腫らしたようになっていたが、エイトを見ると目一杯開かれて驚愕に染まる。

リョクはそのままエイトに向かって駆け出し、エイトの目の前で立ち止まって言う。


 「エイト・・・この血は全部、あなたのです。」


 今度はエイトの目が驚愕に見開かれる。

エイトは再び血溜まりを見て、ぶるりと震えた。


 「・・・まじで?」


 ひきつった笑いで問いかけるエイト。


 「あぁ」


 リョクは返事をすると、モモに駆け寄る。

するとモモも目を覚まして、起き上がってぴんぴんしているエイトを見て目を剥く。

ぱくぱくと口を開閉して動揺を隠せずにいるモモは、とても可愛らしかったが・・・


 「えっ、え・・・エイトさん・・・・・・っ!!!!」


 ・・・いつの間にか後ろにいて、後ろからボディーブローをかましたコルネの方がエイトの心を揺さぶった。

急な衝撃に戸惑っていると、コルネがエイトの正面に回り込む。

彼女は顔を紅くして「えへへ」と恥ずかしそうに笑った。

そんなコルネにすかさず文句を言うリョク。


 「転んで怪我人にボディーブローするとか、可愛くないドジですね?」


 リョクはコルネが自らの召喚主だということも忘れて暗黒スマイルを向ける。

モモも賛同して「うんうん」と二回頷いた。

そして、言われてばかりでもいられないと、コルネが反論する。


 「私だって怪我してるのよ! あっ、ごめんね。」


 コルネは身体をくるりと反転させるとエイトに向き直った。

そして、二人の目が合う。

すると二人は少しぎこちなく笑い合うと、


 「無事で良かった。警戒を怠りすぎだよ、エイトさん」


 「コルネこそ、冷静になれよ」


 完全に二人の世界に入り込み、


 「「・・・お互い様」」


 今度は弾けたように笑顔になって、ハイタッチ。

パチンと小気味の良い音が響き、それはやがて消えていった。

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