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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
29/56

Act.29 プライド


 「モモ!?」


 大樹の幹がモモに道を作るように割れ、彼女は地面に降り立った。

その登場はまるで森林妖精(ドライアード)のように神々しく、しかしその目には強い殺気が込められていた。

そしてモモは無表情のまま槍を振り回し、構える。

彼女は モモは生きていたのか、と安心するエイトたちを一瞥すると駆け出した。


 「・・・岩石魔人(ロックゴーレム)!!」


 言霊によってモモの分身のようなゴーレムが生まれる。

モモは竜に向かって一直線に突撃・・・ゴーレムと挟みうちをして、力業で竜の首をおとした。

 目の前で一瞬で終わった戦いに唖然としつつ、竜の死体の前で仁王立ちしているモモにリョクが近付いた。


 「モモ・・・! 無事だったんですね!!」


 リョクはモモの正面に立つと泣きそうな顔で笑った。

相変わらずモモは無表情だったが、それを見た彼はその『いつも通りのモモ』に安堵した。

コルネは刀身にこびりついた血を洗い流すと剣を鞘にしまい、エイトは竜に近付くと素材の剥ぎ取りを始めた。美味しいといわれる竜の肉を見て、口の端から唾液が垂れそうになっている。

四人は変異種の竜に勝ったことで気が緩んでいた。



 その時、轟音とともにエイトの体に衝撃がはしり、エイトは意識を手放した。


 「・・・が、ぁ・・・っ!?!?」


 エイトが鈍痛に目を覚ますと、自身がうつ伏せで倒れていることに気付く。

急いで立ち上がろうと腕に力を込めるが、身体中が引き裂かれるような痛みに絶叫する。

動きを止めたエイトに、更なる痛みが襲いかかった。


 「あっ・・・ぐ、ぁあああああああああああああ!!!!!」


 エイトの背中に物凄い重量のものがのし掛かる。とっさに言霊で体を強化したが、それも意味なく、骨の砕ける音がした。ごぽり、とエイトの口から血の塊が溢れ出た。

その様子を見て、声を聞いて、三人は驚愕と恐怖に苛まれた。

目の前でエイトを踏みつけている竜は巨大で、何の予兆もなく音もなく現れたからだった。

 その存在の接近に気付かなかった・・・いや、気付けなかった。

その理由は見ればわかった。小さな翼、発達した脚の筋肉・・・それは先ほど倒した竜と同じ特徴で__


 『闇ニ紛レ 追イ縋レ 《隠密(ハイド)》 ・・・ 意識ノ外ヘ 這イ寄ル影 《気配遮断(シャットアウト)》』


 __その竜が言霊を使えることを意味していた。


 「親竜っ!?!?」


 コルネが取り乱しながら叫ぶ。おそらくその推測は正しいだろう。

必死に引き留めるリョクだったが、彼女はそのまま考えなしに無謀な突撃を決行した。

当然竜がその愚直な攻撃を受けるはずもなく、竜は大きく飛び退くとそのまま長い尾を振りかぶる。

尾は範囲内にいたエイトとコルネを凪ぎ払い、それをモモとリョクは呆然と眺める。

自分より上だと思っていた存在が一瞬にして倒されていた。




 リョクは息苦しさをおぼえた。

目の前で吹き飛ばされ、遠くでうずくまっている召喚主(コルネ)を見る。

その近くでは『ここで一番強い』と思っていた少年(エイト)が倒れている。彼は動かない。

自分の隣で目を見開いて狼狽しているモモを見て、最後に(てき)を見据えた。

勝てる気がしなかった。

竜は『捕食者』の目をしていて、リョクのことを『獲物』としてしか見ていないようだった。『敵』とも認識せず、その辺を歩く小さな虫と同じような感覚で、その目にリョクを捉えていた。


 しかし、倒さなければならないということはわかっている。

今動けるリョクとモモがこの空游竜(スカイドラゴン)変異種を倒さなければ、全滅してしまう。


 「・・・ぅぁぁああああああ・・・ッ!!!」


 リョクは自分を奮い立たせるために叫びながら、雷電を纏った矢を連続で放った。

だが、竜は一言__


 『《ロックバレット》』


 __と言霊を唱えると、リョクの矢を避けようともせずにこちらを見た。

はっとして防壁(ガード)を張り巡らせたが時すでに遅し、リョクの目の前に迫っていた岩の礫は防壁(ガード)を貫通してリョクの肩、胴体、脚を貫く。

それでも弓を引こうとするリョクだったが、それを上回る速さで放たれるロックバレットに再度身体を貫かれたリョクは地面に方膝をつく。腕を集中的に狙われたせいで、持っていた弓も取り落とした。

 後ろを見ると、上位防壁(ハイガード)森林守護(ウッドシールド)岩石守護(ロックシールド)を展開させたモモがいた。

無事なモモを見て、今までの考えが吹き飛んだ。

唯一の家族。

リョクは彼女だけでも助けたかった。


 「も、モモ・・・逃げてくださ、ゲホッ」


 リョクは血を吐きながら、駆け寄ってきたモモに言う。

モモは先ほどまでの表情とはうってかわって、無表情だった。しかし焦っている。

そんなモモに、「逃げろ」ともう一度伝えようとしたリョクだったが、モモは息を深く吸い込み、唱えた。


 「《森林の癒し》 《救いの大樹》 《治癒結晶》 《妖精の守護》」


 詠唱と同時に四色の光が現れ、散った。

光はエイト、コルネ、リョクを包むと、それぞれの効果を顕現させる。

 深緑の輝きは三人を包むと傷口を覆い、傷を癒す。

 エメラルドの輝きは大樹となり、三人を包み込み、守る。

 濃い黄色の輝きは結晶となり、傷口を塞いでいく。

 桃色の輝きは三人の周りに不可視の壁を形成した。

瞬きほどの間に、過剰にも思える治癒と守護が三人を包み込んでいた。


 「モモ・・・!!!」


 リョクは木に拘束されるようなかたちになりながら、叫んだ。


 「もう、充分です!! だから、モモ。お前だけでも逃げ_____」


 だが、そんな(リョク)(モモ)は見下ろす。

彼女のその目には、怒りでもなく、軽蔑でもなく、悲しみと涙が浮かんでいた。リョクはたじろぐ。

モモは何か言いたそうに喉を震わせたが言葉にできず、そのまま槍を構えて竜に立ち向かった。




 モモはその手に持つ槍を頼もしく思いつつ、つき出す。

渾身の突きはいとも容易く竜にかわされてしまったが、モモは大きく跳んだ竜にロックバレットを撃つ。

音速に迫るスピードで撃ちだされた弾丸だったが、それは竜のロックバレットに相殺される。

手も足も出なかった三人とは違って、戦いは拮抗していた。


 彼女(モモ)はこの敵との相性がよかった。

それに彼女の頭は冷静で、研ぎ澄まされていた。ただ無感動に、機械のように敵の攻撃をいなし、敵に攻撃を叩き込む。

 不意打ちはされていない。

 冷静さを欠いて突撃なんてしていない。

 敵の言霊に競り負けてもいない。

本来近接戦闘を得意とするモモだったが、その槍の固有能力によって強化された言霊のおかげで遠距離戦闘も可能となり、四人の中で一番相性が良かったのだ。


 モモは槍を振り回し、竜の翼を付け根から切り落とし、着地。

竜も地面に足をつけると、二人は動きを止めて視線を交錯させた。

片や獲物を補食しようと躍起になって理性を失った竜、片や冷静に敵を葬ろうとする魔物。

竜は憎々しげにモモを睨むと、得意なのか再びロックバレットを放った。

 それは今度はモモのロックバレットに砕かれ、モモのロックバレットは相殺されることなく竜に向かって飛ぶ。それを更に大きなロックバレットで突破する竜だが、モモはその間に接近し、柔らかい竜の腹に突きを放つ。

それと同時に言霊を唱えた。


 「生命喰らいの蔦」


 すると突きが抉った箇所から蔦が生え、竜が狂ったように叫んだ。

蔦は毒々しい赤紫に彩られ、大きくなるごとにその濃さが増した。

モモは苦しみもがく竜を前にして、初めて感情的になって叫びながら槍を降り下ろした。


 「アタシ だって ・・・ 戦える!!!!」


 槍は硬い鱗にも弾かれることなく、肉を深く抉った。






 モモが戦うなか、コルネはエイトに視線をそそいでいた。

彼女の視線の先でエイトは粗い呼吸を繰り返し、まだ意識は戻っていないようでぐったりとしていた。

コルネは我が身のことのようにエイトの身体を心配し、自分の傷の痛みも忘れて祈った。


 (エイトさん、死なないで・・・・・・!!)


 彼女の祈りは届くのだろうか。

地面には、エイトの血で大きな血溜まりができていた。

モモに惚れそう。

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