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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.28 退行した竜

少し書き方を変えました。・・・というより、最初の方の書き方に戻した・・・?

 呆然とするエイトの前で、リョクが笑いながら言う。その目は笑っていない。


 「そうですか・・・!」


 何に納得しているのかはわからないが、何かに納得しているようだった。

コルネは未だに自分の失言に気付いていないようで、普通にテントを組み立てている。

すると、リョクが笑顔で近付いてきた。彼は笑みを崩さずにゆっくりと近付いてきている。

そうして、エイトの前まできたリョクはエイトの肩に手を置いた。そしてあざとく首を傾げると共に額に青筋を浮かべて低い声で告げる。


 「先を越されていたんですね。・・・でも俺は諦めませんよ、もちろんモモもです。いつかコルネに『この、泥棒猫!!』と言わせてみせます。」


 それを聞いたエイトは嘆息した。リョクは、自分が思っていた通りの勘違いをしていたのだ。

エイトはちらりとコルネの方に目を向ける。彼女はリョクのセリフを聞いて、ようやく自分の発言が「まずい」ことに気付いたようで冷や汗をたらしていた。

だが、その不安な表情はすぐに消え、コルネは赤面した。


 「えっ、あ・・・いや、今のは普通にあれだよ!? えっと、ほら、雑魚寝っていうの?」


 焦って必死に弁明をするものの、リョクの耳には届いていないようだった。

モモはその様子を遠くから見て首を傾げるばかり。どうやら何も聞いていなかったようで、彼女はまた素振り(?)を開始した。Mだということを除けば一番まともかもしれない。

 エイトは頭を抱えた。

そんなエイトにリョクの視線が突き刺さり、コルネは涙目で睨む。

全ての説明はエイトに託されたようだ。実質「実戦」での能力が一番弱いエイトが二人に勝てるはずもないので、ほぼ強制的に説明することになった。

 エイトは『自分から断って外で寝たこと』『そのせいで疲れが溜まっていると思ったコルネが気遣ったこと』『エイトは女性経験皆無だからそういう話題は苦手で、なるべくしないでほしいこと』を話し、説得を始めた。




 そして、やっとリョクが納得して、黒い笑みが穏やかな笑みに戻った頃。

モモはまだ武器練習をしていた。

『固有能力』で新しい言霊が使えるようになったものの、彼女の槍自体に関する『固有能力』は無かった。

なのでそのぶん技術を研かないと皆についていけない・・・という焦りがあった。

彼女自身は強く、竜種にも劣らない。しかしここに集まったメンバーは全員がもはや『Sクラス』を優に越えた存在になっていて、そのせいで彼女はここで『一番弱い』。

元々兄に勝てず、召喚士(サモナー)であるコルネに負けて契約し、エイトを見て『勝てない』と悟った。

モモは無表情の中で常に劣等感に苛まれていたのだった。


 「アタシ・・・」


 モモは一心不乱に槍を振り続けた。ほどなくして、体力に限界がくる。

突きを放った直後、モモは槍を取り落として地面に膝をついた。

そして、轟音が響いた。


 「・・・・・・っ!?」


 背後からただならぬ気配を感じたモモは、本能的に、反射的に槍を持ち縮地(ステップ)をしてエイト達のいる方向に逃げていた。縮地(ステップ)を重ね、距離をとる。

そのうちに背後から風切り音が聞こえ、思わず振り返ると・・・

・・・紅い眼をした空游竜(スカイドラゴン)の豪腕が目の前を通り過ぎた。


 「う・・・っ」


 その風圧は人間よりも大きいモモの体を吹き飛ばすほどのもので、モモはその攻撃を避けた自分の『本能』に深く感謝した。避けなければ死んでいただろうから。

吹き飛ばされたモモはエイト達のもとへ達する直前で槍を地面に突き刺して減速する。

そのまま速度を落とし、兄・・・リョクの横に着地した。

モモは「大丈夫か!?」と駆け寄ってくるエイトに笑顔を向けて無事だと伝えると槍を構える。

それと共にエイトとコルネも武器を構え、リョクは呆然と上を見た。


 エイトは敵を見据え、両手にナイフを構える。空游竜(スカイドラゴン)は今までの個体よりいささか小さく、特に翼は空を飛べないほどの大きさだった。

違和感を覚えつつ、攻勢にでたモモに続いて竜に立ち向かった。

するとその時__


 「な、・・・ばっ、バカ!!! 上を見てください・・・っっ!!!」


 リョクの叫びが聞こえて立ち止まり上を見た。

何も無いことに首を傾げて視線を戻すと、モモがいたはずの場所に巨大な岩があった。


 「えっ・・・何が・・・?」


 エイトには理解できなかった。

モモがいたのに、岩がある。

モモはどこだ。

 その先を考えたくなくて、思考が停止してしまっていた。当然身体も動かない。

そんなエイトの頭上でメキメキと音がする。無感情に上を見ると、巨大な岩が『形成されている』最中だった。

その岩は言霊の産物らしく、土色の鈍い光が包み込んでいた。

一体誰が、と考えたが・・・その答えはエイトの目の前にあった。


 『星ノ欠片ヨ 降レ 小サナ星ノ欠片 降レ 集マリ、降レ ・・・ 《小規模(ミディアム)》《星落とし》』


 目の前で、空游竜(スカイドラゴン)が言霊を唱えていた。

 前例がない話じゃない。しかしとても珍しいうえに、使えても初級の言霊だとされていた。

だが、目の前の空游竜(スカイドラゴン)は巨大な岩を形成し、それを自由落下以上の速度で叩き落としている。それは、紛れもなく上級の言霊だった。


 立ち尽くすエイトの上の岩が、完成した。

 するとエイトの体は強い衝撃を受けて()に吹き飛ぶ。同時に岩が地面に激突して砕ける音が聞こえて、音の方を振り向いた。自分のいた場所には岩の残骸があった。そして__


 ・・・パンッ   「マジでお前!! ばっっっっっっかじゃねーの!?!?」


 __着地したエイトは、リョクの平手打ちを食らっていた。


 「何やってるんですか!? 避けられましたよね?? ちゃんと気付いていたし、避けられましたよね!?」


 「・・・あ、あぁ」


 エイトは俯き、震える声を出す。

リョクはそんなエイトの肩を掴んで揺らし、叫ぶ。


 「じゃあ何で避けなかったんですか!!!!!」


 敵の前ながら、エイトはリョクの説教を受けていた。リョクは真っ青だった。


 「死なんてこの世に溢れてるッ いちいち真に受けてちゃ心が持ちませんよ・・・!! むしろ今のは貴方まで死にそうでした・・・バカなんですね!?!?」


 周りを見ると、コルネは腰を抜かしているのか座りこんでいた。

だが、彼女は無事な自分(エイト)を見ると顔を紅くして怒り、乱暴に立ち上がる。

目の前のリョクは唇を噛むと、弓を構えて打ち、空游竜(スカイドラゴン)の次なる言霊を中断させた。

 そして、自分に向けてなのか叫ぶと、突撃した。


 「こんな奴には・・・負けないんですッ!!!」


 エイトは俯いていた顔を弾かれたように上げると、使い捨てナイフを投擲してから竜に襲いかかった。

仲間(リョク)がいった通り、こんな奴に負けていられない。

 縮地(ステップ)を繰り返して空游竜の目の前に躍り出た。そのまま右手のナイフで竜の鼻っ柱を切りつける。

すると気味の悪い悲鳴と共に、竜が後退した。風の刃で延長していたので、傷が深い。

エイトは追撃のために左手のナイフでもう一撃叩き込むと、自分で作った防壁(ガード)を蹴って方向転換。

迫っていた竜の爪を回避してその爪を切り落とした。

 そしてはじめと同じように縮地(ステップ)で戦線離脱。


 そのエイトの目の前で金色の光が閃いた。

驚いて目で追うと、その閃光の正体はコルネだった。金髪が剣の纏う言霊の光を反射しているようだ。

コルネはそんなエイトの視線にも気付かず、言霊を行使する。


 「一刀両断(ソードブレイク)っ!!!」


 その刀身自体は竜には届かなかった。

しかし、言霊によって形成された不可視の刃が竜の喉元を掠める。

竜は激昂し、咆哮をあげる。

するとそのまま走り始めた。


 「・・・速いっ!?」


 小柄故か、その速度は飛行時にも迫る。翼の退化は洞窟内では必要ないからか。

そんなことを考える暇もなく、竜はエイトに接近する。巨大なあぎとが目一杯開かれた。

だがエイトはそれを適当にいなすと上に跳躍し、竜の頭を飛び越える。

そして、その背に乗った。

 首を傾げる竜だったが、その背に黒嵐のナイフが突き刺さる。

同時に『固有能力』の効果で風の刃が肉を断ち、刀身を伝って雷電が襲いかかる。

竜は暴れようとするが、その体が麻痺する。


 リョクに目を向けるとどや顔を返されたので、彼がやったとみて間違いない。

エイトが背から飛び降りるとコルネが接近し、勢いをつけた一撃が竜の尾を断ち切った。

勝った、と確信した。

その時だった。


 「ア、タシ・・・勝手に 死んだ 言わないで・・・・・・!!!」


 みしみしという音と共に、『彼女』の声が聞こえた。

驚いた三人が声の発生源に目を向けると巨大な岩に無数のヒビが入り、その隙間から小さな芽がのぞいた。

するとその周囲に明るい緑の光が広がり、岩が砕け散る。飛来する岩石を避けて再びその方向を見た。

そこには一本の大樹と、その幹を割って出てくるモモがいた・・・。

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