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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.27 武器の扱い

 エイトには三人が息の合ったため息をしたことに首をかしげていた。しかしそれよりも自分の新しい武器の方が気になるらしく、すぐにその視線はナイフに移る。エイトは自ら作り上げた漆黒のナイフの柄を軽く握り、まじまじと見た。その表情はどこか誇らしげで、武器の完成を心から喜んでいるのがうかがえる。

 じっくりとナイフを観察したあと、エイトはおもむろにナイフを投げた。流れるような所作で、真上に投げた。ナイフはくるくると回転しながら宙を舞い、最終的には重力に従ってエイトの手元へと降りてくる。エイトは並外れた動体視力でそれを捉えると、見事刃に触れることなくナイフをキャッチすることに成功していた。


 その様子を見て心配になるのはコルネたちだった。何度も投げてキャッチを繰り返すエイトは、慣れてくるとナイフから視線を外すことが多くなってきていたからだ。いくらナイフの扱いに長けていたとしても、このような大道芸人じみたことを繰り返しては腕が何本あっても足りない、と考えると、肝が冷える。そんな思いを知ってか知らずか、エイトはそのままナイフでジャグリングを始めた。

 そうしてひやひやしながらエイトを見ていた三人に、エイトが言った。


 「あー・・・三人もさ、何か色々やって武器を慣らしといてくれない?」


 そうやって頼むエイトの目線は完全に自分たちを見ていて、それでもナイフジャグリングはやめていない。一切手元は狂っていないが、それに気付いた三人は口をそろえて「慣らすから、ナイフから目線をずらさないで!」と一喝。涙目の訴えだったが必死さはエイトには伝わらなかったようで、彼は笑顔で返事をするとジャグリングを続けた。視線はふらふらと色んなものに移っている。

 コルネ、リョク、モモは深いため息をつくとしぶしぶといった体で各々の武器に手をのばす。




 コルネの『永年氷雪剣』は元からあった鞘に合わせて作られた剣なので、元の剣と扱いは変わらない。その剣を持ち上げてまじまじと見る。透き通ったような刀身に刻まれた模様は複雑で、柄の部分の装飾も同様。長さや厚さは変わらないが装飾が華美で、鉱石の密度のこともあって従来のものより少し重いが、調整のおかげか不思議なほど手に馴染んだ。この様子ならすぐに慣れるだろう、と思うと思わず笑みがこぼれた。

 刀身を撫で、それからコルネは我流の剣術の構えをとった。本来は両手剣であるその剣を右手でもち、正面に構える。足は右足を前に出し、重心を前に傾けていた。コルネはその状態から一歩踏み込むと地面すれすれで寸止めする計画で、剣を真下に降り下ろす。すると剣は勢いのままに地面を抉ってしまった。思わず顔をしかめる。


 「あー・・・やっちゃった。 剣に振り回されてる気がするなぁ」


 コルネは剣を地面から抜くと長年の習慣で刃こぼれしていないか確認し、『不壊』によって傷ひとつついていないその切っ先を目の当たりにする。コルネは安心すると再び構える。今度は突きや切り上げも組み込んでいつも通りに素振りを始めた。




 コルネが自らの剣に振り回されている頃、兄妹は対峙していた。二人とも武器を手にしているものの脱力していて戦う意思は感じられない。二人の距離は約五十メートルと開いていて、もし今戦闘が開始されれば圧倒的に弓使いのリョクが有利だと思われる配置だった。

 しかし、次の瞬間、モモはリョクの目の前に接近していた。槍を構え、その目はしっかりとリョクを捉えている。しかしリョクは、対応しなければ負けるという状況に陥ったもののニコニコと笑みを崩さなかった。そのまま弓を構えて『言霊矢』を放った。込められた言霊は『フレイムランス』。凝縮された炎の矢とモモの槍が交錯した。


 先に相手に到達したのは、速度で勝る『言霊矢』だった。モモは上半身を捻って、なんとか矢をかわすことに成功する。リョクはその間にモモとの距離を離していて、弓を構えてモモを狙い続けていた。モモは矢には当たっていないがその熱で服が焦げ、リョクはまったくの無傷。二人の実力差がわかる図だった。

 そんな中、モモは無表情を崩して槍を構え直した。意外なほどに悔しさを顕した表情で自らの兄を見据えると、彼女はたどたどしく言った。


 「リョク お兄さん、負けていられない・・・ッ!!!」


 その言葉と同時に踏み込み縮地(ステップ)を駆使して接近、モモは再びリョクに肉薄する。今度の接近は策なしに行われたものではなく、モモは突きをしながら口を小さく動かした。


 「森眷族(ウッドフライ)


 詠唱に従って何もない空間から樹の小鳥が出現する。リョクはそれを予想していたのかひとつひとつに矢を放って防衛、しかし最初の一羽にだけ対応が間に合わなかった。防衛を突破し当たった個体は(ツタ)を生やしてリョクを拘束した。思わず舌打ちをするリョク。リョクは迫る槍を上体を反らすことで紙一重で回避し距離をおくが、森眷族(ウッドフライ)は絶え間なく飛来する。リョクは一匹ぶんの拘束などもろともせず、『フレイムランス』を込めた矢で迎撃した。

 すると樹の小鳥は激しく燃え盛り、逆に『フレイムランス』を巨大化させた。炎の槍は小鳥たちを伝うようにモモに向かって轟音を響かせる。モモはなすすべなく炎に呑み込まれた。


 しかしリョクは警戒を解かず、火だるまのモモから距離をとると弓を構える。

 すると、炎をもろともせずにモモは槍を構える。するとリョクの予想通り、彼女は言霊に護られていた。モモの身体を岩の鎧と壁が包み込み、炎は阻まれて彼女にダメージを与えるほどには影響しなかった。


 「岩眷族(ロックフライ)・・・ロックプロテクト」


 無感情に囁くと、モモは岩でできたコウモリじみた眷族を放つ。リョクは笑みを崩さずに迎撃するが、木のときのように簡単にはいかない。彼の放った矢のいくつかは威力不足で、眷族を破壊するには至らなかった。リョクは細かく動いて致命傷などを避けるが数が多く、かわしきれない。撃ちながらかわすのは至難の技だった。

 次第に防戦一方になり壁に追いやられていくリョクを前にして、モモは勝利を確信する。彼女はリョクが壁に背をうちつけた瞬間、縮地(ステップ)で迫る。いくつかの裂傷があるにも関わらず、リョクは最後まで柔らかな笑みを崩さなかった。モモは勢いに任せて槍を降り下ろす。


 力任せの一撃。単純な一撃。それは精彩に欠けるものの、物凄い速さでリョクに迫り・・・


 「モモ、まだまだですね」


 ・・・リョクの展開した上位防壁(ハイガード)に受け流されて壁に突き刺さった。

 モモが悔しそうに唇を噛む。終始リョクのペースで、勝者もリョクだった。




 兄妹の模擬戦闘が終わると、それとほぼ同時にコルネの素振りが終わろうとしていた。ずっと振り続けていたのだろう、彼女の肌を大量の汗が伝っていた。コルネは剣を鞘にしまいながらエイトに歩み寄る。すると汗だくのコルネを見たエイトはあたふたとして、ポーチをまさぐる。そして手ごろなタオルを引っ張り出すとコルネに投げ渡した。タオルで汗を拭うコルネが妙に色っぽく見えたエイトは目を逸らし、その視線の先に壁によりかかって休む兄妹を見つけた。エイトはタオルを新たに二枚取り出すと、少し汗をかいている兄妹にタオルを渡しに行った。


 そして、タオルを渡された二人は軽く汗を拭くとストレッチをして、立ち上がる。リョクは顔の赤いエイトを心配して「熱とかないですか? 赤いですよ」と額に手を当てるが特に異常は見つからない。当然だ。

 エイトは目に見えて不機嫌になり、リョクの手を振り払うと踵を返す。








 結局そのあとは汗をかいたし疲れたという理由で休憩をとることになった。

 時間も夜中だったらしく、睡眠不足で集中力を欠いては勝てる敵にも勝てぬ・・・という考えで全員の意見が一致し、この場で一晩を明かすこととなった。


 エイトはキョロキョロと周りを見て、コルネに問う。



 「こ、今度は・・・テントは二つだよな?」



 滝のように汗を流して質問する様子は何だかおかしくって、コルネは笑みをこぼした。それすらも嫌なのかむくれるエイトだったが、その頬は怒り以外のある感情で赤く染まっていた。要するに照れている。

コルネは意地悪はやめようと思い、正直に「テントがひとつしかない」ことを伝えた。エイトはまた外で寝る気なのか、項垂れたが、コルネはおそるおそるといった風にある提案をもちかける。


 「・・・だから、二人で寝ようよ。エイトさんも、さすがに連続で地面はキツいでしょ?」


 他意のない発言だったが、事情を知らないリョクが吹き出したのは言うまでもない。

ちょっと短いかもしれません。


更新が遅れて申し訳ないです><

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