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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.24 悪巧みと苦笑

 「くふ・・・くふふ・・・」


 蒼白い光にうっすらと照らされている『人間らしきもの』がいた。

 黒を基調とし白いラインの入った布を被り、その隙間から青い髪をだらりと垂らし、半開きの口は三日月に歪む。暗がりにいるものだから目元などは見えず、まるで生首が浮かんでいるかのようだった。そして、唐突に『人間らしきもの』は黙りこんだ。その口の笑みが消え、無表情になると『人間らしきもの』は息を吐くように呟いた。


 「夜の訪れに 炎すら呑まれ 闇夜は昼を喰らう」


 どうやらそれは言霊だったようで、その空間を照らしていた蒼白い炎が消え去った。それと同時にその場所は暗闇と化す。もう何も見えない。

 そんな中で囁き声が木霊した。


 「使徒は神への反乱を誓い、集結する。近き未来に・・・あぁ、怖がらないでねぇ・・・?」


 何に対して語りかけているのかもわからないその言葉は、泣いているような震える声で紡がれていた。


 「終わりは始まりを意味する・・・救いを与えるんだよぉ・・・」


 その声が途絶えた途端、すすり泣く声が聞こえ出す。しかしやがてそれも消え、暗闇は無音になる。「この世界」ではないと思えてしまうほどに、その空間は闇に塗りつぶされていた。








 呑気に蛍石で遊ぶエイトの背を見つめる者がいた。もちろんモモとリョクである。

 その視線はエイトの背中を穴が開くほど見続け、縮地(ステップ)空中歩行(スカイステップ)を駆使して視線をかいくぐろうと試みたエイトをもその超人じみた動体視力で追い続けていた。さすがのエイトもこれには降参するしかなく、今は普通に神殿を歩いている。

 その後ろでうっとりとしている兄妹など見向きもしない。


 「エイト、ぜひ俺とモモの相手に」

 「・・・・・・」

 「エイト、モモがさみしがっていますよ。」

 「・・・・・・・・・」

 「エイト、俺もそろそろ無視に対して苛ついてきましたよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 懲りずに何度も話しかけるリョクだったが、エイトは反応する気配すらない。しびれを切らしたリョクが怒りのオーラを纏いながら近寄るが、それすらも歯牙にかけなかった。エイトはただただ両手に持つ蛍石に錬成の言霊をかけ続け、色々な形を作ったり強度を高めたりしながらひとつのものを作っていた。手に持つ蛍石は物凄い勢いで減っていくが、周りを見れば捨てるほどある蛍石。エイトは次々と蛍石を錬成していき、できたものを見て満足げに頷く。


 「よし、光の剣って感じだな」


 その手に握られているのは水色の氷のような美しい剣だった。その剣は全てが蛍石で形成されていて、ほんのりと光っている。これこそエイトが作っていたものだ。中二の病に侵されたエイト少年は光の剣 (笑)を反転召喚でどこかに飛ばすと振り返った。息遣いが聞こえる気がしたのだ。


 すると至近距離にリョクの貼りついたような笑みがあって、反射的に出た「ひっ・・・!!」という声とともにエイトは距離をとる。ただごとでないようなエイトの反応を見てコルネも構えたが、彼女は兄妹を見るとため息をして目を逸らし、言う。


 「あんたらねぇ、もういい加減諦めたら? エイトさん、気にしちゃダメだよ」


 コルネに微笑まれたエイトは未だにこちらを見つめるパラライズスパイダーたちに恐怖していたが、ナイフをしまってしぶしぶ歩き出す。このようなやり取りはかれこれ十三回目で、そろそろコルネも諦め始めていた。

 その発言とほぼ同時に、熊のような魔物が襲いかかる・・・!



 熊の魔物は器用に後ろ足で立ち、走りながら腕を振るった。鋭く尖った爪が空を切り裂く音と共にエイトに接近するが、それはエイトの残像を切り裂いた。すでに熊の後ろにいるエイトはキリッと表情を切り替えた。


 「それは残像だ・・・ッ」


 そしてそのまま避ける隙を与えずに、熊の首に向かってナイフをふる。言霊ひとつ使わずに、ナイフで熊の首を撫で付けるようにして切る。ナイフはバターを切るようにするりと通り、次の瞬間にはエイトの左腕に熊の生首が抱えられていた。それをみて、モモは頬に手を当てるとうっとりとした表情になる。

 エイトはコルネの前まで移動すると、「熊肉ゲットぉ」と歯を見せて笑い、歩きながら解体を始めた。エイトの通ったあとには血と毛皮や骨などが散らばっていった。


 モモとリョクを召喚してからはノーライフの襲撃も無くなり、たまに無謀な挑戦をする魔物がいるくらいであった。だが、すっかり戦いに慣れて実力が言霊に追いついたエイトは、胸を張って「俺はSクラス冒険者だっ」と言えるレベルまで成長していた。そんなエイトに勝てるはずもなく、魔物は次々とほふられていくのだった。





 肉を解体し終えたエイトはそれを管理しやすい大きさに切り、ポーチに収納した。一仕事終えた達成感に包まれるエイト。血のついたナイフを凪いで血を振り払うと、そのまま服の下の定位置に隠した。コルネはその横で、相変わらず剣の手入れ (三本目)をしている。それがちょうど終わったとき、風が吹いた。

 身構える二人だったが、突風は全力で踏ん張る二人を動かすほどの強さだった。エイトは舌打ちすると錬成で蛍石の壁を作り、吹き飛ばされかけたコルネを引っ張って避難する。


 そして、顔だけを壁から出して、風の発生源を見る。

 それは今まで遭遇しなかったのが不思議だった、この洞窟の住民だった。その翼が突風を生み出していた。

 エイトは空游竜(スカイドラゴン)と目が合った気がして急いで首を引っ込めると、コルネに言う。


 「空游竜(スカイドラゴン)だったぞ。サイズは今までで一番大きいけど、倒せると思う」


 それを聞いたコルネは深く頷くと、風が止んだ途端飛び出した。

 手入れの行き届いた銀に輝く剣を鞘から抜き、縮地(ステップ)で接近。そのままの勢いで下から上に切り上げる。鱗の隙間を狙った一撃だったが狙いは少しそれて、硬い鱗に弾かれる。火花が散るとともに、剣の切っ先が欠けた。


 「・・・くっ」


 コルネは次の一撃を叩き込もうと構えたが、その視界の端で竜の尾が振りかぶられる。それを危なげなく回避するが、距離が開いてしまった。コルネは尻尾の風圧を受けながら、ふと首にかけられた小瓶をつつく。


 「ドグマ、今起きてる?」


 『もっちろん! ・・・コホン、攻撃言霊を使ってほしいのであるか。では、十秒待つのだ。』


 返事を聞いて上を向くと、竜の爪が迫っていた。コルネはそれを紙一重で避けると、地面を抉って動きを止めたその腕を斬る。今度は動いていなかったため刀身がずぶりと吸い込まれた。それから半ばまで埋まった刀身を強引に引き抜くと戦線離脱する。前方を見れば、エイトがナイフで柔らかい腹と関節の内側を傷つけていた。


 「あと六秒・・・!」


 呻き声をあげて明らかに動作が鈍くなった空游竜(スカイドラゴン)はブレスを吐くがそれはエイトに届かない。不可視の防壁(ガード)がエイトと竜を隔てていた。

 エイトは続けて三本のナイフを「精密投擲(スナイピングショット)」で投擲し、更に動きを阻害した。


 「三秒」


 縮地(ステップ)で距離を詰め、空中歩行(スカイステップ)で上に上がる。そのまま空游竜(スカイドラゴン)の頭を飛び越えて四本のナイフを取り出し、構えた。すぐにナイフは言霊の輝きを帯びる。


 「二秒」


 エイトは構えたナイフを同時に投擲する。それは直線的に進み、竜の重要な移動手段である「飛行」のための翼の根元を深く抉った。堪らず竜が悶え、翼をたたむ。


 「一秒・・・・・・エイトさんっっ!!!」


 エイトは竜が動きを止めたのを確認すると、空中を駆けてコルネのもとまで向かう。その間に、ドグマの言霊が発動した。炎が大量に生まれ、それらは凝縮されて数十粒の光の粒となる。そして精霊石(ドグマ)が赤く輝くと、一斉に空游竜(スカイドラゴン)に襲いかかった。音速を越えて炎の弾丸が飛んだ。

 それからは一瞬で、弾幕による面の攻撃に鱗を破られた竜は息絶えた。


 何が起こるかを大体予想していたコルネは短いため息を、何も知らなかったエイトはその一部始終をじっくりと見ると、「さすがに俺でもオーバーキルだと思う」と呟き、ナイフを回収しに向かった。




 ・・・だが、竜の死体に近寄ると、熱気がむわっと立ち込めた。どう考えてもドグマの言霊の影響だ。不安になりつつもナイフを回収するために屈む。すると不安が的中したようで、手にとろうとしたナイフは、グニャリと曲がった。そしてそのまま溶けた。エイトは溶けたナイフを名残惜しげに見つめると、死体全体を見た。

 そして全部のナイフが溶けているのを視認すると、頭を抱え、死体から離れた。


 コルネはその様子を見て、申し訳なく思う。思えば、これまででもかなりの数のナイフが犠牲になっている。いくらなくなってもストックがあるらしいが、やはり心は痛む。エイトが扱うということは、Sランクに相応しい強度を持つ武器なのだろうから。


 エイトはコルネの目の前に行くと、火傷した手を見せてくる。

 仕方なく治療すると、彼は感謝の意を伝え、竜を迂回すると再び進み始めた。


 ・・・思ったより、ナイフを気にしていなさそうだ。

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