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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.21 厄介な敵と兄妹

 二人はほとんど無言で歩いていた。休憩時にあった「ゾンビか幽霊系(ゴーストタイプ)の魔物」の反応も感じられなくなっていた。

 神殿の通路はもう広くならないようだった。通路がここまで広い神殿は珍しい。一体、どんな理由があって広い通路を作ったのだろう・・・とエイトは疑問に思っていた。

そのまま何事もなく通路を進む。魔物が出ないうえに罠が無く、ただ広い通路を進む時間は、永遠と思えるほどだった。しかし、コルネが違和感を感じて足を止めた時だった。


 ひた、ひた、ひた。


 前方から、『何か』が歩いてくるような音が聞こえていることに気付いた。その音はだんだんと大きくなっていて、『何か』が近付いてきていることを嫌でも意識させられた。

 エイトが警戒してナイフを構える。コルネは「防壁(ガード)」をすぐに発動できるように身構えていた。



 しばらくすると、ぼんやりと灯りに照らされて、その『何か』が見えた。

 それが人の形であることを認識したエイトは警戒を少し緩めたが、その『何か』が立ち止まってしゃがみこんだのを見たコルネが防壁(ガード)を発動させていた。

 次の瞬間、防壁(ガード)に『何か』が張り付いていた。


 「・・・・・・なっ、何だコレ!?!?」


 思わず叫ぶエイトだったが、それを責める声はない。エイトの隣では、コルネが顔をしかめていた。


 『何か』は人の形をしていた。

 しかし、人間ではなかった。

 その体は不定形で、常に流動していた。

 半透明で、赤黒い色をしている。

 まぁ一言で言えば・・・。


 「スライム・・・!」


 コルネはジュウジュウと煙をあげているスライムを見ながら言った。だが煙をあげているのはスライムではなく防壁(ガード)の方だった。スライムに触れている部分の防壁(ガード)が、だんだんと溶かされていた。

 このままでは侵入されてしまう・・・と思い、コルネは剣を抜く。と同時に斬りかかった。

 防壁(ガード)に張り付いているスライムは斬撃を避けることができない。だが不定形の生き物であるため、斬られても苦しむ素振りすら見せなかった。その上、攻撃した方のコルネの剣が溶かされる始末である。コルネはナイフを構えているエイトに向かって忠告する。


 「スライムには物理攻撃は有効じゃないわ! 特にこの強い溶解液をもつ種類には物理攻撃しちゃだめ。武器が溶かされて、それ以降の探索が難しくなるの。」


 告げられた内容に、エイトは驚愕した。エイトたち二人は基本的に物理攻撃しかしないからだ。

 エイトは聞き返した。


 「じゃあ攻撃はどうすれば・・・っ」


 すると、コルネはエイトに向かって純白のナイフを投げ渡した。エイトはそれを危なげなくキャッチして、まじまじと見る。その様子を見て、コルネは言う。


 「魔法で消し去るのが一番有効だけど、剣とかナイフでも殺せるわ。スライムの心臓部分をひと突きすればすぐ死ぬわ。でも、狙うのは難しいし、エイトさんのナイフだと心臓部に届く前に溶かされる。」


 コルネはちらりと防壁(ガード)を見た。もうすでにほとんどが溶かされていて、時間は無さそうだ。

 それを見て険しい表情になりながらも、続ける。


 「そのナイフなら溶ける心配はない。だから、貸しといてあげる。」


 そこまでコルネが言ったとき、ついに防壁(ガード)が突破された。咄嗟にコルネは距離をとり、エイトは上位防壁(ハイガード)を展開してスライムの行動を阻害した。しかしスライムは溶解液を噴出して上位防壁(ハイガード)を溶かすので、いとも容易く突破されてしまう。

 エイトは、その溶解液に混じっているものを見て戦慄した。


 「人骨・・・っ!?」


 溶けかけてはいるが、それは人間の骨だった。すると後方で詠唱を終えたコルネが叫んだ。


 「・・・!! 魔物の反応がなくなったのは、このスライムが喰らったからみたいね!!!」


 その言葉とほぼ同時に、水の弾丸がスライムを貫く。恐らくコルネの言霊だろうが、それが作り出した穴はすぐに塞がれてしまう。しかしダメージは通っていたのかスライムは動きを止める。それを見たエイトは純白のナイフを構えて、鎧の代わりに防壁(ガード)を纏って縮地(ステップ)で接近する。

 そして、対応しきれていないスライムに何度も斬撃(スラッシュ)を叩き込む。

 だが、心臓部分には当たらず、そのままスライムの触手による反撃を受ける。エイトは威力を殺すために自ら後方に跳んでいたので無傷ですんだが、身に纏っていた防壁(ガード)は霧散してしまった。


 コルネは防壁(ガード)を纏っていないエイトへと突進するスライムに、たて続けに言霊を撃つ。


 「水よ、『ウォーターバレット』!!」


 限りなく詠唱を短くしているため威力は物足りないが、完成した沢山のウォーターバレットはスライムに無数の穴を穿つ。その間にエイトは距離をとっていたが、なかなか攻勢に転じることができずにいた。

 それを見たコルネはとても嫌そうな表情で、今まで控えていた本職・召喚士(サモナー)の言霊を唱える。


 「召喚(サモン)18、19・・・パラライズスパイダー 《上位種》!」


 突然広がる 召喚(サモン)の言霊の輝きに驚きながら、エイトはスライムの溶解液を避ける。

 少しして光が収まると、スライムに向かって無数の糸が飛来していた。思わずエイトも身構えるが、その糸は狙いを違わずにスライムに絡み付く。エイトはどうせ溶かされる、と思ったが、糸は溶解液に触れても溶けていなかった。そのまま糸をすり抜けて逃げようとするスライムだったが、次々と巻き付く糸はいつの間にかスライムを包み込んでいた。

 エイトは糸が飛来してきた方向に視線を向ける。


 するとそこには、二体・・・二人 (?)の二メートルほどの蜘蛛がいた。

 しかし、その蜘蛛からは、『守護者(ガーディアン)』と同じように人間の胴体から上が生えていた。桃色の蜘蛛には女性の身体が生えていた。そして、その隣にいる濃い緑の蜘蛛からは男性の身体が。どちらも美形で最低限の服しか身につけておらず、自分より少し幼いように見える。

 桃蜘蛛は桃色のセミロングで猫っ毛の髪をツインテールにゆんでいる。タレ目で幼い顔つきだが、その胸はコルネやドグマよりも・・・あっ、揺れた。

 緑蜘蛛の顔は桃蜘蛛に似ているが、少し男らしい顔立ちだ。髪は短くてボサボサで、深緑。最低限の筋肉はついているが、ショタにしか見えなかった。


 「・・・誰だよっ!?!?」


 思わず叫ぶエイト。

 それを手で制して、コルネが二人 (?)を紹介する。


 「二人は、パラライズスパイダーの上位種よ。女の子がモモ、男の子がリョク。」


 「アタシ、モモ。よろしく お願い。リョク アタシの お兄さん。」


 コルネの紹介をうけると、桃蜘蛛・・・モモがペコリとお辞儀をした。喋り慣れていないのか、カタコトだった。それに続いて緑蜘蛛・・・リョクが笑顔で言った。


 「モモの兄であるリョクです。よろしくおねがいいたします。俺らを子供扱いしたら、死ぬよりつらい目に逢わせてやるから覚悟してくださいね。」


 リョクはモモと違って流暢に喋る。しかし・・・毒を吐きまくった気がするのだが。


 キャラの濃い二人に気圧され、エイトはひきつった笑みを浮かべて「エイトです・・・」と言うことしかできなかった。コルネも困った表情だ。

 しかし、この二人がスライムの動きを止めてくれたので、エイトには二人を子供扱いすることなんて出来ない。エイトはナイフをしまって敵対する意思がないことを表すと、二人に向かって言う。


 「えっと、リョクさんとモモさん、助けてくれてありがとうな。」


 すると、意表をつかれたのかリョクが驚いた表情になる。モモはニコニコして「どうも」と言ったがリョクは何も言わずにエイトを凝視していた。

 だが、少しするとリョクは妖しい笑みを浮かべて告げた。


 「エイト・・・気に入りました」


 リョクの発言の意図を掴めず、エイトは首を傾げる。それを見て、ふいにコルネが口を開いた。


 「エイトさん、リョクは駄目。絶対駄目。」


 その必死な表情をみたエイトはよくわからないまま頷く。とたんにコルネが安心した表情になったので、これで良かったのだろう。エイトはそのまま糸の中に閉じ込められたスライムに近寄る。動く素振りもないので、パラライズスパイダーの麻痺毒をくらったのだと思われる。エイトはそんなスライムに何度もナイフをふり下ろした。


 メッタ切り。

 気づくと、エイトが何度も何度もふり下ろしているうちに心臓部分を破壊していたのか、スライムは水のようになって緩んだ糸の隙間から流れ落ちた。動く気配が無いので死んだのだろう。エイトが自分の手を見ると、切っているうちに付着したのかスライムの溶解液でどろどろになっていた。しかし、エイトは無傷だ。溶解液はスライムが死ぬとただの液体になるのだ。


 赤い溶解液にまみれた状態で振り向くエイト。

 するとコルネがため息をつく。その後ろではモモとリョクが笑顔で言った。


 「アタシも、エイト 気に入った!」


 「エイト、モモもお前が気に入ったらしいですよ。」






 そのあと知ったが、モモはドMでリョクは男性が恋愛対象であるという。

 もとの場所に戻そうにも帰ろうとしないので説得した結果、戦闘時だけは二人を絶対に召喚するという条件で帰ってくれた。初めて見るタイプの二人に、エイトは言い知れぬ恐怖を感じたという・・・。






 エイトとコルネは再び二人きりになり、静かになった神殿内で呟いた。


 「つ、つかれたぁ・・・・!!!」


 そして二人は進み始めたのだが。



 目の前には階段があった。

 どう見ても、その階段は「空游竜(スカイドラゴン)の巣窟」に続いている。階段は狭いため、空游竜(スカイドラゴン)が通ることはできないのだが。おそらく神殿の最奥は「空游竜(スカイドラゴン)の巣窟」の最奥と同じなのであろう。

 コルネは思わずため息をもらす。


 「なんだか色々面倒くさそうだけど・・・行くしかないね。」


 エイトは無言で頷くと、一歩を踏み出した。

 階段をのぼっても最奥までの道のりは長いだろう。魔物がほとんど出なかった神殿内と違って、「空游竜(スカイドラゴン)の巣窟」と化した通路を進むことは困難だろう。


 それでも、進むしかない。

新キャラの登場により、戦闘シーンを書くのが更に難しくなりそうです。

・・・頑張りますw

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