表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第ニ章 はじめての浮遊大陸
20/56

Act.20 夢の続き

 少年の両手を、蒼白い光が包み込んでいた。

 その光は次第に大きく広がっていくと少年の全身を包み・・・少年はその力を思うがままに操る。


 「ボクに喰らわれるんだ・・・!! 感謝しろっ!!」


 少年は蛇の体内にいようとも、臆することなく叫んだ。

 それに反応するように脈動する光が肥大化し、体内の異物に蛇が苦しむ。肥大化した光は尾のように少年から放出されていた。それがだんだんと形を整えて、七つの、首だけの竜を形作った。七首の竜は本体である少年の動きに合わせて、内側から蛇を喰らう。


 ーーーーーーシュルァァアアアアアッッ!!!!


 腹を食い破られた蛇は痛みと怒りで絶叫する。そして、逆再生のように治っていく蛇の腹の大穴から、先程の少年が飛び出した。少年は蛇の体液にまみれながらも笑みを崩さない。


 蛇は生まれて初めて、『ニンゲン』に恐怖した。


 少年は蛇の眼から「恐れ」を感じ取ったのか、警戒を解く。

 そのままふらりふらりと数歩近寄り、・・・







 エイトは目を覚まして、飛び上がった。

 すると、ガツンと音がして「いったぁ・・・!!!」という声が至近距離で聞こえた。

 驚いて声のした方・・・後ろを見ると、鼻を押さえたコルネが涙目で正座していた。


 エイトは混乱しながらも寝る前の行動を思い出す。そして、すぐに思い出した。感触も思い出した。

 コルネの膝枕で眠ってしまったのか・・・と後頭部をさする。寝癖がついている気がしなくもないが、まぁよしとしよう。エイトには、それより気になることがあった。

 ジト目を向けてくるコルネに、エイトは問いかけた。


 「言霊夢(ナイトメア)・・・は、この年齢でも視るものなのか?」


 唐突過ぎるエイトの質問に、コルネは首を傾げた。しかし思い当たる節でもあるのか、彼女は真剣な表情に切り替わって考え込んだ。エイトは邪魔をしないように距離をおく。


 するとコルネは苦々しい表情で言った。


 「・・・視ないこともないけど・・・結構、特殊なケースね・・・。」


 「そうか・・・」


 エイトは返事をしつつ、自分の会員証(ギルドカード)を取り出す。おそるおそる使える言霊の一覧を見るが、特に変化は無かった。ほっと息を吐くエイトだったが、今度はコルネから質問される。


 「・・・言霊は増えてないのね?」


 エイトはこくりと頷き、会員証(ギルドカード)を差し出す。コルネは確認すると、返しながら続けた。


 「でも、言霊夢(ナイトメア)らしきものは視た・・・ってこと? もしかして、空中歩行(スカイステップ)の夢に似てたりしたの?」


 矢継ぎ早に問われたエイトはただ頷く。エイトは幼少期に言霊夢(ナイトメア)を視て空中歩行(スカイステップ)を使えるようになったのだが、夢の内容をしっかり覚えていた。言霊夢(ナイトメア)は、視たものの脳に刻み込まれたように記憶に残り続けるのだ。


 エイトは小さな声で、「同じ少年が登場したんだ」と呟く。

 コルネは相づちをうつと先程の夢の内容を聞いてきた。

 もちろん内容を伝えようとするエイトだったが・・・


 「少年が蛇に食べられて、笑って・・・・・・・・・あれ?」


 エイトは動きを停止した。

 不審に思うコルネが口を開こうとしたが、それはエイトの呆けたような呟きに止められた。


 「・・・笑って、笑っ・・・て・・・? 何でだよ、思い出せない・・・!!」


 そのままエイトは取り乱した。突然取り乱すエイトを宥めようとするが、エイトは顔面蒼白になってコルネから離れた。怖がるように後退していた。

 コルネは狼狽した。しかし何としてでもエイトを落ち着かせようと必死になる。悩んだ末に、話を変えてみた。


 「小さいときに視た、言霊夢(ナイトメア)は・・・どんなのだったの?」


 苦し紛れの質問だったが、エイトは後退するのをやめた。それから首を横に振る。


 「・・・あぁ、うん。ごめん。取り乱した・・・。」


 落ち着きを取り戻して、気まずそうに頭をかくエイト。

 エイトはそのまま語り始めた。


 「その夢では、少年が崖に立っていたんだ」




・・・




 陽が傾き、薄暗くなった空。赤い光が森の木々や岩肌を照らしていた。

 そこはとある森の奥。鬱蒼と茂る木々の中にある細い道を通ってここまで来ることができる。そこだけは木々が生えず、地面は乾いてひび割れていた。乾いた大地は家が一つ建つほどの広さで、森の反対側は地面が途切れ、崖になっていた。


 大勢の大人に囲まれ、ゴツい体つきの老人に取り押さえられて動きを封じられた状態で、少年は崖を見下ろしていた。少年は他の者と同様に健康的な体型だったが、手指はぼろぼろで、身体中に傷があった。しかし服装は装飾の少ない神官服だった。そして、大衆は大きな波のような悪意を少年に向けていた。


 「穀潰し!」 「能無し!」 「贄になれることを光栄に思え!!」


 少年はそれらの言葉に耳を傾けながら、崖の下をを見つめていた。底は遠すぎて見えなくて、「この崖には底なんてないんじゃないか」と思ってしまうくらいだった。


 そんな崖っぷちに立たされているにも関わらず、少年の心にはは不安などなく、それよりも怒りに満ちていた。

 その理由はこの状況に他ならない。

 少年は吠えるように言った。


 「生け贄なんて、神は望んでいないだろう! そんなので飢えが無くなるはずがない!! それに、何でボクが選ばれたんだッ!!! 母上と父上はどうしたッッ!!! それに、贄を捧げるのは神聖な儀式だろッ!!! 見世物のようにするなんて、神に対する冒涜だ!!! そもそも神官たちはどうした!? 神官の認めていない儀式を執り行うのか!!!」


 そして、少年は怒りに任せて言霊を唱える。

 とたんに集まり出す蒼白い光に大衆はざわつき、老人は冷静な対応をする。


 取り押さえていた老人は少年の頬に平手打ちを叩き込んだ。


 叩かれた少年は詠唱の中断を余儀無くされ、歯をくいしばった。

 すると、老人は少年を持ち上げる。地面に足がつかなくなった少年は、抗うことができずに移動させられていく。老人は崖のギリギリな所で立ち止まり、少年の身体を持つ腕を前に向ける。少年が下を見ると、地面が無かった。

 少年が息を飲むのを感じて、老人は大衆の盛り上がりを見せつけるために少年の体の向きを変える。

 少年の目には、嫌な笑みを浮かべる人々と老人がうつっていた。


 老人は少年の絶望した表情に満足したのか、高らかに言った。


 「神よ、贄と引き替えに、我らに祝福を・・・!!」


 手を離された少年の体が宙を舞う。

 そのとたんに少年は笑顔になった。歪で、気味の悪い笑顔だった。



               「呪ってやる」



 少年はその言葉を残して、暗闇に消えた。




 落ちていく少年は足を動かす。足は宙を掻くだけで、落下速度は弱まらない。

 少年は上を見た。

 真っ赤な空が少年を見下ろしていた。

 血のように赤い空が少年を見下ろしていた。

 少年は願った。


 自分はただの人間だ。

 皆に失望され、穀潰しと罵られて当たり前だった。

 才能もなく、ただ神に仕えるものとして努力だけは欠かさなかった。

 皆に与えられた恩を返せるように、身を粉にして働いた。

 お師匠様にも認められた。

 やっと、自分で生活出来るようになって、迷惑もかけなくなった。

 それなのに、

 それなのに_________


 ここで死んでたまるか。

 落ちるだけなんて嫌だ。

 自分程度が何をしても無駄かもしれない。

 でも、抗うことはやめたくない。

 憎い。

 努力も何もかも無駄だった。

 このまま死ぬなら、今までの全てが無駄になる。

 それなら、生きるために、何でもしよう。

 信仰心が代償になるなら、今すぐにでも棄ててやる。


 ___そうだ。

 世界の理に従ってなんていられない・・・

 こんな空だって、理に叛けば歩けるのだろう。

 だって、理さえ無ければ、何が起こったっておかしくない。

 じゃあ、ボクは理から外れよう。

 それで、生きて


 あいつらを消しに行く


 『世界は歪められている。理で生き物を、空間を縛り、自由を奪った』


 神はあいつらを許すとしても、ボクは許さない


 殺人の科を負ってでも、消すんだ


 それで裁かれるようなら、神だって消してやる


 『そんな世界を正そうと思わないか? 歪められた世界から、一歩だけでも踏み出せば』


 (ここ)は今から


 『ボクの壊した理は物理。 空中(スカイ) は全ての方向に移動できて自由に 歩行(ステップ) できる』


 ボクのものだ。




 少年は村を見下ろしていた。

 神の守護に護られている村を見下ろしていた。

 神は少年を「悪」とみなしたらしい。少年は守護に阻まれて、停滞していた。

 少年は笑った。





 最後の村人は言った。

 『恩を仇で返すなんて』

 だけど、ボクは恩なんて貰った覚えがないんだ。ごめんね。


 村は一夜にしてなくなった。

 少年は神に捕らえられた。だが、何も知らぬように首を傾げていた。


 「・・・いつの間に、こんなところに。」


 少年は神の支配する空間で、立っていた。

 人が生きることを許されぬ空間で、生きていた。

 色とりどりの絵の具を混ぜたような空間で、神に抗っていた。


 少年は何もない空間に向かって言う。


 「これはボクの幻想だ」


 「そして君の幻想でもある」


 (エイト)は、少年と目が合った気がした。



・・・



 「・・・そして、目が覚めたんだ。 頭の中で『これはボクの幻想だ』って言葉が反響しているように響いて・・・あのときは、怖くて泣いたよ。」


 エイトが懐かしむように言うと、コルネは絶句した。

 その言霊夢(ナイトメア)は、小さな子供には、どれだけ恐ろしい夢だっただろう。もし、この言霊夢(ナイトメア)をコルネが視ていたらトラウマになっていたかも知れない。

 だが、エイトはトラウマになった様子はなく、神妙な表情で続けた。


 「今日の夢は、最後に居た絵の具を混ぜたような空間だったから・・・続きかなぁって。」


 しかし、コルネは首を横に振る。


 「そんなの・・・あり得ない。前例にあるのは『全く別の言霊夢(ナイトメア)』よ。希望のない悲しみの夢である言霊夢(ナイトメア)に、続きがあったら・・・!!」


 そこまで言ったコルネだったが、あることを思い出す。

 エイトは、その少年が『しかし服装は装飾の少ない神官服』で、その少年が使った言霊の輝きは『蒼白い光』だったと言っていなかったか。

 コルネは走って壁に近寄り、エイトを手招きした。


 「少年の着ていた神官服って、これ?」


 コルネはエイトに問う。

 エイトは指されたその神官を凝視した。それから乾いた声で言った。


 「・・・ああ。」




 今まで、意味を知る者がいなかった言霊夢(ナイトメア)の正体がわかるかもしれない。


 神殿の奥に何があるのかを確かめなければならない。




 「コルネ、依頼は後回しになりそうだ」


 「別にいいよ、エイトさん。 それじゃあ、行こう」


 二人は探索を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ