Act.19 腹の虫をおさえよう!
戦闘の表現だけでなく食事の表現も苦手ですね。
くっ・・・食レポが苦手だから、仕方ないのか・・・!!
エイトはせっせと準備していた。
・・・何の準備かって? それはもちろん、食事の準備である。
繰り返し鍋や鉄板等を召喚し、材木や石をを組み合わせてかまどを作ったりもしている。コルネに比べて体力に余裕のあるエイトはきびきびと動いて調理場を作っていくが、コルネは時たまモノを落としたりしていて相当お腹がすいているのだろうとわかった。
エイトが石を積み上げてかまどの形を整えると、そこにコルネがやってきた。
手を止めてコルネに話しかけようと試みるエイトだったが、それは失敗してしまった。
「コルネ、かまどはこんな感じで・・・」
問いかけた声に答える者はいない。それどころか、コルネはふらりと横を通り過ぎると・・・
バタッ。
そのまま地面に倒れこんだ。
慌てて駆け寄るエイト。近寄れば、コルネの口から漏れる呻き声のようなものが耳に届いた。
少しだけ顔を近付けて声を聞き取ると、エイトは思わず緊張の糸を解いて脱力した。
「・・・ご、ごはん・・・」
今までは料理全般を女子二人に一任していたが、この様子だと作れそうにないな。そうなったら、作るのは・・・
エイトは周りを見回す。もちろん自分たちしかいない。むしろ、いたら戦わなければならないのでいたらだめだが。それからエイトは自分の両頬を両手で叩いた。そして、調理器具・・・「フライ返し」を刀のように構えて心のなかで叫んだ。
『・・・・・・これは、・・・これこそが・・・!!! 俺が暇をもて余していたニート時代の料理特訓の成果を発揮する・・・絶好のチャンスだろ!!!!!』
エイトはフライ返しを簡易調理台にそっと置くと、コルネを柔らかめの布の上に寝かせた。
待ってろよ、俺が男の料理をみせてやる・・・!
手元にあるのは、干し肉、生肉、塩パン、子供ビール、マトマの果実、ポラトの実、ホウレイソウ、ソンゴの果実、フォレストシープのチーズ、調味料各種。野菜と生肉はバーベキューのときの残りで、調味料はコルネ特製の調味料だ。
マトマの果実は緑色の実に赤いヘタをもつトマトのような甘酸っぱい果実で、一部は煮込んでソースに加工してある。
ポラトの実はじゃがいもに似た実だ。空游竜の森で養分を吸い続けたからか、大きすぎて食べにくそうだ。実自体は二個だが、量は多い。
ホウレイソウは見た目はほうれん草、味もほとんどほうれん草の苦味UPバージョン・・・といえば良いのだろうか。独特な香りもあってあまり好まれないが、少量ならアクセントとしてちょうどいい。若い葉はまんまほうれん草なので単品でもいける!
ソンゴの果実は中まで真っ赤なリンゴを思い浮かべればいい。コルネの好物である。
フォレストシープのチーズは、クセが強いが熱するとよくのびるしコクがあるので人気の食べ物だ。
エイトは目の前に広げた食材たちを見て、唸る。
それから何か思い出したように「あぁ!」と声を出し、誰も見ていないのにキメ顔を作った。
「これなら、『アレ』ができる・・・!!」
エイトは異常に大きく成長したポラトの実を鷲掴みにした。
《エイトの冒険クッキング!》
エイトはまず、探索や戦闘で汚れた手を洗うために『ワーラードロップ』の言霊を唱える。水流で汚れを洗い流したエイトはもう一度ワーラードロップを詠唱し、その水を桶に受け止めた。それからその水でポラトの実を洗う。一度洗ってあるが念のためだ。
丸洗いしたポラトの水分を拭き取ると、まな板代わりの新品の竜鱗の盾にのせる。手に持つのは新品の小刀だ。
エイトは威力を抑えて『斬撃』を連続で放った。あっという間に薄くスライスされたポラトの山が出来上がる。同様にして、二個目もスライスした。そしてそれを油を薄く広げたフライパンにお皿のようにして敷き詰める。もちもちした実なので、つなぎは必要ないだろう。
これで土台は完成。
次に具材を切っていく。
野菜はポラトと同様にワーラードロップで洗っていく。それから今度はちゃんと包丁を持つ。
マトマの果実はバラバラの大きさに切る。全体的に大きいが、数があるのでそれでも足りそうだ。
ホウレイソウは大きく育った苦い部分は細切れにして乾燥ガリクのみじん切り入りスパイスと混ぜる。若い葉は一口大に切ってとりあえず椀に入れておく。
干し肉は味が濃いので水にさらしてから『乾燥』の言霊で乾かし、三ミリほどにスライスした。
それからかまどの前に移動し、火をつける。加護を受けていない今では『種火』くらいしか唱えられないので、早めに火を着けておきたかった。
そして調理台の上のフライパンの前に切った具材を集める。コルネが味にこだわって作ったマトマのソースを端には塗らないようにしながら塗っていく。たまにごろっと果実が残ってたりするのもご愛嬌。それから切ったマトマと干し肉を大体等間隔になるようにおいて、その上から若いホウレイソウを散りばめる。
その上にチーズをふりかけて、最後にホウレイソウとガリクのスパイス(?)をふりかける。
ちょうどよく火も大きくなってきているようなので、薪を足しつつフライパンをかまどに設置する。火は中~強の間くらいに固定した。 火が通りやすいように、熱をはじく『耐熱防壁』で蓋をして火が通るのを待てば完成だ。
そして焼いて(?)いる間もエイトは動き続けた。
まずはコルネの大好物・ソンゴの果実を丸洗いする。
それから新品投げナイフを取り出すとざくざく切っていく。さりげなく楽しい。そのまま大体の形を作り終えると、今度は小さな新品投げナイフにチェンジして細かく形を作り始めた。ほどなくして完成したソンゴの彫刻を砂糖の入れ物に放り込み、フライパンを見に行く。
そこでふとコルネを見ると、ゆっくりと身体を起こしていた。
匂いにつられたのだろうか。
しかし、もう少しかかると判断したエイトは火を中~小ほどに調節し、皿を用意する。
だが大きな皿がなかったため、面倒に思いながらもフライパンより一回り大きな皿を作ろうと思い立つ。『結合』の言霊で蛍石を大きく平べったいひとつの石にして、あとは物理さんに頼ってお皿の形に削る。
そんなことをしているうちに火が通っていたので、エイトは大慌てでフライパンを避難させ、中身を皿に移す。火も消して、右手に皿を、左手に砂糖の入れ物を持って、コルネが設営したテーブルに運んだ。
迷った末に、テーブルにはお茶と葡萄酒と子供ビールを並べ・・・・。
「コルネ、できたぞ!!」
エイトがまだ座っているコルネに声をかけると、コルネはふらふら立ち上がった。その目は飢えた肉食獣の如くギラギラと光っていて、エイトの作った料理に釘付けになっていた。さすが食いしん坊キャラ。
エイトは若干引きつつ、コルネを支えに行く。そしてコルネをテーブルまで誘導すると椅子に座らせて高らかに宣言した。
「俺特製!! ポラトピザと・・・・」
間をあけて、小さめの皿に「ライオンの形に彫刻したソンゴの果実の砂糖漬け (仮)」を置いてドヤ顔と共にお披露目。
「・・・砂糖まみれの百獣の王! (あっ、考えてた名前が全部吹っ飛んだ)」
コルネは、料理に対してかドヤ顔に対してかはわからないが驚いた表情でかたまった。
反応が嬉しくてドヤ顔を続けるが、表情筋がピクピクと痙攣し始めたので「無理は禁物」と真顔になる。それが可笑しかったのか、コルネは力なく笑う。視線は八割以上がポラトピザに注がれている。
ポラトピザの表面ではチーズがふつふつと音をたてて、旨そうなあぶらが光っていた。その下に隠れている肉や野菜たちも、チーズのあぶらを浴びてキラキラ輝いているようだった。
要約すると・・・美味そう。
その匂いにやられ、エイトの口の端からよだれが垂れそうになった。
エイトは仕方なく、といった風に自分も席につくと、笑った。
「じゃあ、たべようk「いただきますっっ!!!」
コルネは被せ気味に言って、瞬時に切り分けたポラトピザに食らいついた。口に入れたとたん、コルネの表情が幸せで満ちる。作った本人としては、これほど嬉しいことはない。
エイトはコルネを見て微笑みながら、自分の分を切り、かじりつく。
「・・・・・・っ!!!!」
最初に、表面はわずかにパリッと、中はほくほくしたポラトの味が口に広がる。ポラト自体に味付けはしていないので素材の味が活きていて、旨い。
それからフレッシュなマトマのソースと果実の酸味が舌に刺激を与える。マトマのソースを絡めた若いホウレイソウは甘味もあって、噛みしめると独特の香りが広がった。量を少なくしていた肉は他の野菜の味を打ち消すこともなく、互いのうま味を引き立て合っていた。程よい塩気がマトマの甘味、酸味によく合う。遅れてくるチーズのコク。ジュワッッと溢れるジューシーなあぶらがまた美味しい。
噛み千切ろうと試みたが、チーズがよく伸びる! 腕を限界まで伸ばしてやっと千切れたくらいである。
エイトは口の周りについたあぶらをそのままに、子供ビールに手をのばす。
喉に流し込むと、少しぬるいが程よい刺激を伴った液体がこってりしたチーズのあぶらや具材の味を押し流していった。そのせいでまたポラトピザがほしくなり、二口目にとりかかる・・・・・・。
そうやって食べているうちに、ポラトピザはすべて無くなっていた。
エイトもコルネも口の周りをあぶらまみれにしながら、至福の表情でお腹を撫でている。だが、コルネはちらちらとライオン型ソンゴの果実に視線を注いでいた。
エイトは思わずため息混じりに、
「まだ・・・食べるのかよ・・・」
と呟くと、天井を仰ぐ。
神殿の天井には、ぼぅ、と光が灯っていた。
それから視線を戻すと、コルネがライオンの頭をかじりとって咀嚼している場面だった。エイトは「Oh, no...」と吐息に交えて言うと、脱力した。
すると、もう食べ終わったのか、コルネが言った。
「エイトさん・・・!! こんな素晴らしい特技、何で教えてくれなかったんですか・・・!」
急に敬語になったコルネに詰め寄られたため、エイトは驚いてしまった。そのままエイトの肩を掴んで体を揺らすコルネに、エイトは目を回しながら言った。
「いや、あの、だから、あれ、前まで、コルネ、が、作って、て!!」
それを聞くとコルネはだんだん体を揺さぶる速度を落とし、考え込んだ。そして、一回目の食事はコルネが作ったお弁当で、二回目はエイトが気絶していたことを思い出して納得した。
エイトは手を離されて崩れ落ちると、コルネに向かって呟いた。
「・・・あと、今、言霊で索敵してたら、ゾンビか幽霊系の魔物っぽいのが居たから」
コルネは頷くと、
「わかったわ。・・・でも、遠いでしょ? だから今は、エイトさんも休んで。」
と言って微笑んだ。
エイトは少し困惑したが、コルネは特に気にした風もなく、続ける。
「今回は私が倒れちゃって迷惑かけたから」
そして、コルネは正座するとエイトの頭を両手で掴み、有無を言わせずに地面に向かって叩きつけ・・・
「・・・・えっ?」
叩きつけられると思っていたエイトの後頭部を柔らかな感触が包み込む。
驚いて口をぱくぱくさせるが、コルネはこっちを向こうとしない。下から見る形だが、頬が紅い気がする。・・・気がする、だけだろう。
そんなとき、エイトはコルネの顔を見て、ふと思った。
胸が無いと膝枕でも顔がバッチリみ・・・・・・いや、やめておこう。女の勘は鋭いからな。
エイトは柔らかな感触を堪能して、ゆっくりと目を閉じていった。