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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第ニ章 はじめての浮遊大陸
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Act.17 使徒の罪

今回は少し短めです。

 エイトは、ニヤリと笑みを浮かべながら告げられたコルネの言葉に戦慄した。


 どっちみち上の道には戻れないので進むつもりだが、この状況を「面白そう」と評する彼女の冒険者らしい一面に、エイトは身震いしていた。こんな風に、一人前の冒険者になりたい・・・という憧れが、大きくなった。

 いつの間にかエイトも笑みを浮かべていた。背中の傷みも吹っ飛んだ。


 「・・・面白そう、だな」


 エイトはコルネの瞳をまっすぐ見つめた。すると、コルネの視線と交錯する。

 彼女は確かな意志を持った瞳をエイトに向け、小さく頷いた。





 ・・・そんなこんなで二人は神殿を進んでいる。





 神殿だからだろうか、今のところ魔物には遭遇していなかった。

 コルネが手に持つランプだけが光源となっているこの状況での戦いは避けたいものなので、二人にとっては進みやすいことこの上ないのだが・・・不安にはなる。

 壁には、大蛇神の言い伝えや世界を救った記録等が延々と記されていて、内容も被っていたりいなかったり。同じ場所をぐるぐるしているのではないかと思うほど、似たような景色が続いた。


 エイトがふと壁を見ると、最初の絵と似ている絵が目に入る。

 思わず立ち止まり、凝視してしまった。コルネもエイトの隣に並んだ。

 大蛇神が神官の一人を喰らっているように見えたからだった。そしてそれは見間違いではなかった。


 「・・・・・・っ」


 続けて、息を飲むエイトの目に文字の羅列がうつった。



  《神を冒涜する者が》  《神に仕える士官が》  《偽の信条に永遠の迷宮を》


  《神を喰らった》  《世界への大逆》  《神に仇なす使徒め》



 そこには今までと違って、物語ではなく感情や台詞の羅列があった。

 それらにはクセ字や汚い字が混じっていて、たくさんの人々が書いたものだと推測された。後の方には暴言や罵倒が綴られていて、その生々しい感情の波に・・・言葉に込められた怒りに、悪寒すら覚えた。

 しかしエイトは焦るように文面を追っていく。


 そして、見つけた「キーワード」に、思わず舌打ちをした。


  《行き止まりで果てろ。この場所こそが使徒の墓場》


 舌打ちと同時にコルネもその文を見つけたようで、その唇が真一文字に結ばれた。

 彼女も、その意味がわかったのだろう。エイトは予想が正しいか確かめるために、いくつもの小さな「蛍石」を召喚し、それを辺りにばらまいた。そして、呟く。


 「・・・・・・やっぱり、こうなるよな・・・。戻れもしないってか・・・」


 蛍石に照らされたその空間は、もう道じゃなかった。


 進行方向には壁、後ろを振り返ってもそこには壁があった。

 怒った大蛇神の信者達が『使徒』を葬り去るために、神殿に設置した罠なのだろう。罠だということには気付いたが、もう、遅かった。

 エイトは心臓が大きく脈打つのを感じた。



 最初は言霊で壊せばいいと思った。だが、天井が崩落して生き埋めになってしまうかも知れない。

 次に転移系の言霊を使えばいいと思ったが、転移系の言霊は珍しいうえに「固有言霊」だからここでは使用できない。

 何度も何度も考えるが、エイトには打開策は思い浮かばなかった。


 ここで暮らすか、心中・・・なんていう手段しか思い浮かばなかった。

 無力感と絶望で、目を瞑って、頭を抱え、しゃがみこんでしまう。



 しかしコルネは違った。

 コルネはエイトと同じ思考を繰り返したが、その次の行動に出た。コルネは壁や天井にまで及ぶ文を読み始めたのだ。ここが行き止まりだということも壁に記されていたから・・・という単純な思考だが、コルネの表情(かお)からは真剣さと諦めていないという意思が伝わった。


 そして、その努力が実った。


 コルネは思わず大きな声を発した。


 「《罠の誤作動の事故があり、それからは『解除のための言葉』が取り決められた。信者の『祈り唄』。使徒は歌えぬ神の信者の唄》・・・・って。 これって」


 コルネが急に大声で話すので、エイトの肩がビクリと跳ねた。

 それからエイトは泣きそうな顔で立ち上がる。「どこだよ・・・」と低い声で唸るように呟くと、コルネの横に背伸びした。エイトの視力では背伸びしないと見えないのだった。


 そして、それを目にしたエイトはとたんに笑顔になり、それから顔をしかめた。喜怒哀楽の激しい男である。だがその理由は明白だった。

 ・・・二人とも『祈り唄』なんて知らないのだ。

 エイトはしかめっ面のまま、


 「『祈り唄』とは何ぞ」


 と演技がかった台詞を口にする。

 それを見てか、コルネはまた壁画に視線をはしらせる。どこかに歌詞だけでも・・・と淡い希望を胸に潜めて。

 負けてはいられない・・・と、エイトはコルネに背を向け、反対の壁を見始めた。



 すると、しかめっ面のエイトが何かを見つけたようで、眉がピクリと動く。

 そのままコルネの肩を叩き、言った。


 「コルネ、この文字・・・・っぽいやつ」


 「・・・はぁ?」


 コルネは振り向いてから、眉をひそめた。

 エイトが指した部分の壁には、たしかに「文字っぽいやつ」があった。初見だったらただの記号に見えるが、コルネはその「文字」が何かを知っていた。

 彼女は「文字」を細い人差し指で撫でると、息を吐くように、幽かに声をもらす。


 「・・・・・・古代文字(グランエスト)・・・」


 エイトはコルネの言った『古代文字(グランエスト)』を知らなかったため、首を傾げた。

 だが、その神妙な面持ちから「歌詞だった」と察したエイトは「文字」に顔を近付ける。


 ・・・何故か見たことがある気がしたのだが、気のせいなのだろうか。

 エイトは激しいデジャブに襲われて、躍起になって「文字」を読もうと見つめ続ける。しかし読めるはずもなく、エイトはすぐに諦めて半歩後ろに下がった。

 そこでタイミング良く、コルネが言う。


 「・・・最初の一行だけなら、簡単な文字だったから解読できたけど・・」


 エイトは頷いた。

 それと同時にコルネは歌詞を詠んだ。


 「『幾つもの星々を見つめて』『虹を垂らした果てなき空で』『夜明けを見つける』・・・」


 優しい声音で紡がれた歌詞に、エイトの心が震えた。懐かしいような悲しいような気持ちが込み上げて、気付いたときには壁にある「文字」に手を伸ばしていた。彫られている「文字」を掴むような動作をするが、当然掴めるはずもなく虚しさだけが心に残った。


 エイトには読めない「文字」。

 エイトはコルネの言葉を思い出し、復唱した。


 「『幾つもの星々を見つめて』『虹を垂らした果てなき空で』『夜明けを見つける』・・・」


 自分でも驚くほどに切ない声が出てしまった。無意識のうちに音程をとっていて、ひとつの唄になっていた。一言歌う度に声が出なくなりそうになった。唇が小刻みにふるえていた。

 それは恐怖か、哀しみか・・・。


 「・・・『淡い空に呑まれてなお』『蒼い涙は清き光を』『永久の誓いに』・・・・・・」


 エイトは知らず知らず、続きを歌っていた。

 コルネの瞳が驚愕に染まり、エイトは周りが見えていないように歌い続けた。



 コルネはささやくように独り言を垂らす。



 「・・・エイトさんは・・・・・・」



 エイトの背中に、蒼い光が灯っていた。







 ゆっくりとした唄が終わり、何事も無かったようにエイトはコルネに話しかける。コルネはハッとして頭を振ると、「なに?」と顔を上げて聞いた。すると視界の隅にずっとあった「壁」が消えていた。

 罠の解除に成功したと気付いた瞬間、コルネはエイトに抱きついて叫んだ。


 「よかったぁーーーー!!! エイトさん上手だったぁーーーーー!!!!!」


 緊張の糸が切れたコルネは、幼児化したように大袈裟に喜んだ。

 エイトはつられて笑う。何度も褒められるので恥ずかしくなり、顔を赤く染め上げながらも「そんなことはない」と何度も繰り返した。



 少ししてコルネが我にかえると、二人の冒険は再開する。




 エイトは自分が散らかした蛍石を拾い集めて、前を見た。今までと変わらぬ長い闇の通路がある。

 ・・・だが、エイトが一歩踏み出したとき、様子は一変した。


 「すっげ・・・・」「わぁぁ・・・・!!!」


 二人は目を輝かせた。


 一歩踏み出すと、神殿の通路のいたるところに設置されていた松明のすべてに光が灯ったのだった。それは火ではなく、うっすらと赤い輝きは美しいが妖しさを併せ持っていた。

 これが本来の神殿の姿なのだろう・・・。不気味だった壁画も様子が違って見える。そのおかげか、お化け屋敷のようだった雰囲気は欠片も残っていない。


 エイトは驚きながらも歩みを進めた。

 エイトには、何故、唄を歌っていたのか思い出せない。歌詞を言えと言われても、言える気がしなかった。霧の森でも同じような懐かしさに惹かれて操られかけたのだ・・・不安になって当然だ。


 「俺は・・・」


 エイトは自分の手の平を見つめた。なよっちい自分の手だった。


 しかし、エイトはその手を恨めしそうに見ていた。




 エイトにも、コルネにも、『エイト』がわからない。

 エイトははやく不安を忘れられるように・・・と、前を向いた。

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