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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第ニ章 はじめての浮遊大陸
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Act.15 次から次へと

ここからは戦闘が多くなるかと思います。

(今までもそこそこ多かった気がしますが・・・)

 竜の爪痕の色濃く残るその洞窟。

 それこそが今回の目的地・・・『空游竜(スカイドラゴン)の巣』である。

 その洞窟に五メートルほどまで接近すると、中から冷たい風が吹いてきて、生き物の気配は感じ取れなかった。

 おそるおそる、目を凝らして奥を覗くエイトに、コルネが言った。


 「寒そうだね、エイトさん。・・・でも、最奥に近付けば近付くほどに暑くなるよ」


 エイトはコルネの言葉に少し驚いた。

 思わず、今もとてつもない冷気を孕んだ風を吹き出している洞窟を見てしまう。

 しかし考えればわかることだ。この山が火山であることを忘れてはいけない。


 その反応を見たコルネは、くすりと笑う。


 「まぁ、亜種はそこまで奥にはいないハズだから、安心してね」


 「・・・へいへい」


 これから空游竜(スカイドラゴン)の巣窟に侵入するというのに、コルネは余裕の表情だった。

 エイトの顔には少し陰りがあるが、コルネは負ける気がないらしい。

 無論、負けること=死ぬことなので、そのやる気の方向性は間違っていない。


 すると、意外なことに先に足を踏み出したのはエイトだった。いつもコルネやドグマの後ろをついていっていたのだが、数度の戦闘で多少なりとも自信をつけたのだろうか。


 しかし、エイトの表情(かお)は険しかった。

 眉をひそめ、口を引き締め、目元に力が入っている。額には脂汗まで浮かんでいた。


 そんなエイトが洞窟に踏み込んだ。その後には、もちろんコルネが続く。先程まで笑顔だったコルネは、やる気と自信のある表情でありながら、身体はいつでも戦闘できる準備ができていた。剣の柄をしっかり握っている。

 エイトは念のために『空中歩行(スカイウォーク)』を唱えなおすと目を細めた。

 少し踏み込めば真っ暗だった洞窟。しかし空中歩行(スカイウォーク)により強化された視力で見てみると、遠く・・・陽光の届かない場所からは薄ら明るくなっているのに気が付いた。


 「コルネ、アレは何だ?」


 光源を探ろうとしたエイトの目にしたモノは、壁に張り付いている鉱石やコケだった。

 それらは全てが淡く発光していて、それが洞窟の一面に広がっているために明るくなっているのだ。

 足を止めながらのエイトの質問に、コルネが答える。


 「アレ・・・? あぁ、あれはヒカリゴケと蛍石っていうのよ。」


 初めて聞く名前だったが、わかりやすい名称で助かった。エイトは、その特性で輝いているのだと即座に理解して、進むのを再開した。すると、すぐにヒカリゴケと蛍石に覆われた空間にたどり着く。それらは遠くから見たときよりもいっそう明るく見えて、一瞬目を細めてしまう。

 しかし歩みは止まらない。むしろ、明るくなったことで足取りが軽くなった。


 エイトは、ふと気になって地面を見下ろす。地面も光っているようだったが、コケで滑りそうな感じはしないし、蛍石のツルツルした感じとも違ったので気になったのだ。

 するとそこに自分が映っていた。


 「・・・!?」


 「鏡みたいね・・・なんだろうこれ?」


 息をのむエイトとは対称的に、コルネは驚く様子もなく首を傾げた。

 この、鏡のような床が光を反射していたのか・・・とエイトは納得した。

 鏡のような材質なのは表面だけではないようで、竜の爪に切り裂かれた跡もキラキラ反射していた。しかし壁は下の方の一部分までしか反射していない。上の方の壁から天井まではヒカリゴケと蛍石でおおわれているためにわからない。


 それはそれは美しい光景だったが、じっくり見れば見るほどに緊張感は増していった。

 なぜなら、至るところにある爪痕、吐息(ブレス)の跡、剥がれ落ちた鱗、引きずり込まれた冒険者のものと思われる血液などの竜の痕跡を見つけてしまうからである。

 この程度の血など見慣れているのか動じないコルネを見て、エイトは自分を情けなく思った。

 エイトは自分のナイフを握る力が強くなっていくのを感じながら、必死に腕の震えを隠した。



 洞窟は、恐ろしいほどに静かだった。



 本来なら、本能のままに襲い来る空游竜(スカイドラゴン)に囲まれていてもおかしくはないのだが、今は鳴き声すら聞こえない。ただ自分とコルネの足音や息づかいがこだましていた。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・・・・」


 二人は、喋ったら声が竜たちに届いてしまうのではないか、と黙り込んだ。

 しかし、その静寂も長くは続かなかった。






 少し時間がたち、二人の緊張の糸が緩くなった頃。

 それを見計らったかのように、横穴から音もなく中くらいの影が飛び出したのだった。


 ニ・五メートルほどの体躯に足は無く、黒いローブを纏っている。ローブのフードの中には、目のように、禍々しく紅い光を灯す宝石が浮かんでいた。そして特に目立つのはローブの周りを浮遊する白い手だ。生気の感じられないその手は、手首までしかない。手袋だけが浮いているようにも見える。幽霊系(ゴーストタイプ)の魔物だろう。


 そしてその魔物は、遭遇を見越していたように即座に言霊を放った。


 《腐敗》


 どこから発したのかわからない不気味な声が響き、その両手からどす黒い緑の霧が発生する。

 咄嗟に二人は霧に触れる前に飛び退き、各々の武器を構えた。その間も魔物は不気味な声で言霊を詠唱していた。

 コルネはこの魔物を知っているのか、少々眉間にシワを寄せて叫んだ。


 「こいつは『ノーライフ』!! 死霊が魔物になったものよ! こいつ・・・おそらく生前は高位の言霊使いだったのね、戦い馴れているよ!! 気を付けて・・・!!」


 ノーライフと呼ばれた魔物は、コルネの叫びがエイトに届いた時には詠唱を終えていた。

 霧の中で何かが起こったようだが、霧の色が濃くて見えない。不安になったエイトは、まず、霧の効果を知るために自らのナイフを投擲した。

 すると霧の中に入ってすぐに、変化が訪れる。ナイフは時間を早送りしたように、錆び、腐って朽ちた。それを見たエイトとコルネはその言霊の強力さに身震いした。


 だが、霧を観察している暇などなかったようだ。

 急に霧が晴れたと思った矢先、紫電が矢のように飛来したのだ。

 エイトを狙って放たれた紫電は目で追うのが困難な速さで迫るが、それをギリギリでかわす。しかしかわしたはずの紫電はエイトに当たり、そのまま受け身もとれずに倒れ込んだ。どうやら目標を追跡するタイプの言霊だったらしい。


 「かはっ・・・ッ」


 背中を強く打ち付けて、感電よりもその痛みで涙を浮かべる。

 コルネの方をチラリと見るが、彼女は難なく紫電を壁ギリギリでかわしていた。紫電はUターンしきれずに壁にぶつかり霧散した。流石だな、と思ってしまう。

 しかし感嘆する間もなくノーライフの詠唱が聞こえ始める。


 首はね起きの要領で立ち上がりつつ、ナイフを投げる。言霊を使わないで投げたナイフは検討違いの方向に飛んでいった。そんなナイフを見もせずに、エイトは縮地(ステップ)を使用し、ノーライフに接近する。

 そのまま首の位置を狙って右手のナイフで斬りつけるが、布を裂く感触しか感じられず、舌打ちをする。それなら、と今度は逆の手でもつナイフで輝く宝石を叩き割る。テンプレだが、こういう部位を壊すことで倒せる幽霊系(ゴーストタイプ)かも知れない・・・と思ってのことだ。


 半ばヤケクソで行われたその攻撃は意外にも効果があったようで、ノーライフは呻き声をあげた。それを見ていたのか、コルネがすぐに残りの宝石を叩き斬り、断末魔が聞こえた。思わず目を背け、耳を塞ぐ。

 次に見たときには、そこには空っぽの黒いローブが落ちているだけだった。


 「最初の方で苦戦したわりに簡単な攻略方法だったな・・・」


 エイトは思わず呟く。しかしコルネはその言葉を聞くと、ジト目を向けた。

 何故かわからないエイトは首を傾げる。

 そんなエイトを見て、さらに眉をつり上げるコルネ。彼女は物凄い剣幕で近寄ってくる。


 「・・・あんなのが」


 コルネのその怒気をはらんだ声に、若干腰が引けたが、言い返そうと踏みとどまる。

 すると彼女はエイトの顔に向かって手を伸ばしてきた。


 「!?」


 すぐに、そのおでこに鋭い痛みが響いた。

 それがでこぴんだと理解するとさらに理解できなくなり、エイトは呆けた表情で額をおさえた。

 だが、理由はすぐにコルネの口から伝えられた。


 「あんなのが避けられないシーフなんて見たことないわ!! 心配したでしょ!!!」


 頬を膨らませるコルネを見て、『心配した』という言葉が心に残る。家族以外に初めて言われたその言葉を心の中で何度も反芻する。家族にすら五年以上言われた記憶のないその言葉に、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが込み上げた。


 「心配・・・?」


 呆けた表情のまま、ぽつりと呟く。そのエイトにもう一度でこぴんが炸裂する。

 それから、コルネは子供をしかりつける母親のようにしばらくエイトを叱り続けた。






 暫くしてコルネの怒りが収まると、少し休憩をとることになった。

 エイトにもコルネにも、ノーライフの襲撃は人為的に思えてならなかったから、これから襲撃が多くなるだろうと予想したからだ。二人で協力して上位防壁(ハイガード)を構築しているため、今は襲撃されても安全だ。


 水分補給や怪我の治療を終えると、二人は計画を立てていた。


 「んで、結局この襲撃が人為的なものならさ、空游竜(スカイドラゴン)の亜種はどうなってるんだ?ノーライフみたいに操られてたりするのか?そもそもノーライフは操られていたのか?」


 早口に捲し立てるエイトに、コルネが答える。


 「言ってなかったけど・・・目が紅いのは、基本的に操られてる証拠になるわ。空游竜(スカイドラゴン)はそうね。ノーライフも目・・というか宝石が紅かったでしょ? あれが操られている証拠ね。この調子だと亜種も・・・」


 エイトは頷く。そして、ふいに視線を感じて辺りを見回した。岩影に何かがいる。

 しかし、コルネはそんなもの感じていないのか不思議そうにしている。その間も視線はねっとりと自分を絡めとるようだ。気味が悪くなり忘れようとするが、感じる。まだ見ている。コルネの話も全く頭に入らなかった。


 だが、急に体が軽くなる。

 気になって岩影を見るが、そこにあった気配はかききえていた。

 白昼夢でも見たような感覚でふわふわしていた。


 「・・・で、この様子だと多分最奥に亜種が配置されてるから、最奥への到達が目標になるわね。」


 長い話が終わったのだろう、コルネが一息つく。何も聞いていなかったが、とりあえず頷いておいた。

 そしてそろそろ再出発しよう・・・と立ち上がったとき、上位防壁(ハイガード)が粉砕する音が聞こえる。


 そこには十数体のノーライフが並んでいた。


 「次から次へと・・・・・!!!」


 エイトは吐き捨てると、紅く輝く宝石を睨み付けた。

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