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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第ニ章 はじめての浮遊大陸
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Act.13 一騎討ち

何故か今までよりかなり長くなりました。

 未知の存在に恐れを抱き、ドグマが言霊を唱える。

 唱えた言霊は「感応(フィーリング)」。言霊の力を宿す生き物を探す・・・索敵言霊だ。


 「・・・・・・な・・・」


 索敵に何かが引っ掛かったのか、ドグマは立ち止まる。

 驚くエイトとコルネの耳に届いたのは、ドグマの叫び声をかき消すほどの轟音だった。


 エイトが振り向くと、そこには右肩から血のように炎を散らせるドグマがいた。

 その手前には剣を構えるコルネがいる。しかし、その両足は震えている。

 二人の視線の先には『守護者(ガーディアン)』が石化が半分解けた状態で怒りをあらわにしていた。


 「どういうことだッ!?!?」


 叫んだあと、エイトは急いで空中歩行(スカイステップ)を付与し直す。

 石化状態に陥った生き物は死んでしまうハズなのに、とコルネの呟きが聞こえた。


 だが、そんな三人に構わず、守護者(ガーディアン)の身体から石が取れていく。そして守護者(ガーディアン)の動きも活発になる。

 一番守護者(ガーディアン)の近くにいたドグマは、守護者(ガーディアン)からの攻撃を辛うじて避ける。

 しかし、攻撃力以外は後衛職に見合ったものであるドグマの回避はギリギリだった。


 ドグマは二つの尾による攻撃を避けつつ、二人に向かってもう一度叫ぶ。


 「こやつは石化に強い耐性をもっておる!! 我には毒など効かぬから、先に逃げるのだ!!」

 「それはフラグだってばぁ!!!」


 コルネが叫ぶ間にも、ドグマの足を尾が掠める。

 ドグマは傷を治療(ヒール)しながら、少しずつ反撃し始めた。


 アンデッドと違い、再生しないぶん防御力が優れているのか、彼女の炎は表皮を熱するだけにとどまる。

 攻撃の効かない彼女に対し、守護者(ガーディアン)治療(ヒール)が追いつくギリギリのペースで傷をつける。


 明らかに守護者(ガーディアン)の方が優勢だった。


 自らの攻撃が効かないことに焦りに拍車がかかったドグマは、少し詠唱を加えることとした。

 後衛とは思えない、アクティブ (戦闘狂)な彼女だから為せる業である。


 「豪炎よ貫け!! フレイムランス!!!」


 かざした手のひらから、炎が溢れる。

 炎は流動しながら(ランス)の形状に凝縮され、うなりを上げながら守護者(ガーディアン)に迫る。

 それをたくさんの足で防御する守護者(ガーディアン)だったが、フレイムランスはそれを難なく突破。


 悲鳴をあげる守護者(ガーディアン)を前に、余裕を取り戻したドグマがいつもの調子で嘲笑う。


 「・・・ヒャッハァ!!! 火力で貫けぇ!!!!!」


 繰り返して何発かのフレイムランスを放つドグマ。

 その全てが守護者(ガーディアン)に命中し、尚且つ防御を打ち破りダメージを与える。

 貫くものや深く傷をつけるものがあり、もがき苦しむ守護者(ガーディアン)に、ドグマは無慈悲な攻撃を続けた。


 ホッとしてコルネが剣を構える腕の力を弱めるのが目に入り、エイトもそれにならう。

 コルネは踵を返して守護者(ガーディアン)の行動範囲から出るために森の反対・・・草原の方へ走る。


 そして、エイトの横を通るときにエイトの服を軽く引く。


 「ドグマに任せる。・・・走って。」


 エイトは呆気にとられて返事もできずに、コルネの後をついていった。

 その背後では、ドグマの笑い声が響き渡っていた。







 「・・・燃えちまいなッッ!!!」


 ドグマはフレイムランスを放ちながら叫ぶ。

 最初はどうなることかと思ったが、この調子なら守護者(ガーディアン)を倒せると思った。


 傷の影響か、いくらか動きの鈍った守護者(ガーディアン)の攻撃は、もうドグマには届かないだろう。形勢逆転だ。


 仕上げに、と、フレイムランスに紛れさせ、炎爆裂(イグニインパクト)を放つ。

 身体に深く突き刺さったフレイムランスとその穴を抉るような爆発に、守護者(ガーディアン)は動きを止める。


 ドグマは勝利を確信した。


 「ぃよっしゃ!!! 単独討伐も簡単なのだ!!! 我ながらフレイムラ・・・・」


 そして、ガッツポーズを決めたドグマの視界が揺れた。

 実際は倒れただけなのだが、気付くのに遅れたドグマは狼狽える。身体が熱をもって、熱かった。


 「・・・ぁれ?・・・・・・からだ、動か・・・」

 

 喋ろうとしても舌が動かない。身体に意識を向けるが、外傷は見当たらなかった。


 では何故か?

 目を閉じて身体の感覚を研ぎ澄ますと、その答えは見えた。


 「・・・これは、・・ど、く・・・・?」


 ドグマは血の気が引く思いだった。


 身体の節々に鈍い痛みがあり、自由がきかない。攻撃を受けた部位が特に熱をもち、汗が流れた。

 麻痺毒か、ただの毒か・・・いくら考えてもドグマは答えに辿り着けなかった。

 自分には毒が効かないと思っていたために、毒のことなんて学ぼうともしなかったからだ。

 当然、その毒に適した解毒(キュア)など覚えていないし、無詠唱の練習もしていない。


 ドグマはいつの間にか泣いていた。

 頬を濡らしながら、ドグマは思った。


 妖精であるドグマは、寿命以外では死なない。


 だが、人間の『死』の基準に達するほどの傷を受けたりすると、妖精石(シード)になってしまう。

 妖精石(シード)になれば、意識はほとんど無く、動けない。

 そして、妖精石(シード)から人型の妖精に戻るには数年を要する。


 ・・・ここで妖精石(シード)になってしまえば、自分を待っている二人に知らせることもできず、迷惑がかかるうえに戦力も低下する。妖精石(シード)でも言霊は使えるようだが、意識が無ければ使えないと同義。


 「・・・ぃ、や・・だ・・・」


 ドグマは歯をくいしばり、必死に腕を動かす。

 右肩から先は完全に動かないので、左腕だけの力で体を引きずる。


 でも、追いつけるはずがない。


 諦めたドグマは、仰向けに寝転がる。


 ムカつくぐらいに空は青くて、綺麗で、まっさらで、明るかった。

 痙攣する筋肉を動かし、ぎこちなく笑みを浮かべる。


 「・・ど、ぅか・・・・・・・」


 ドグマは瞳を閉じながら、無詠唱で言霊を放った。

 青い空に、真っ赤な『炎眷族(ファイアフライ)』が昇り、爆ぜた。







 エイトはコルネの後を追っていた。

 また、境界線のように小川が流れている・・・その向こうにある草原を目指していた。

 ドグマが思い切り戦えるようにと配慮しているのか、コルネは速度をゆるめない。


 しかし、戦場と小川の中間地点に差し掛かると、コルネは速度を落とし、歩き始めた。

 エイトは空中歩行(スカイウォーク)の恩恵によって強化された力で強引に急ブレーキをかけた。


 早足な気がしなくもないが、歩くコルネに、エイトが問う。


 「えっと、はやく逃げないのか? 俺ら邪魔じゃ・・・」


 「別に大丈夫。さすがのドグマでも、ここにいる私やエイトさんに影響を及ぼすほどの範囲攻撃言霊なんて使えないわ。私の言霊ならギリギリ届くかも知れないけど・・・。」


 笑って答える彼女を見て、少しときめいてしまった。


 ・・・どうしてこんなにも美形が揃っているんだろう。


 エイトは疑問に思いながらも、首を振る。

 久しぶりの外出で久しぶりに見た血縁以外の女性だから・・と、依頼主(コルネ)にときめいたことを心の中で言い訳しつつ、彼女の隣に肩を並べる。


 その時、派手な爆発音がして、守護者(ガーディアン)の断末魔が聞こえた。


 「うおっ!?・・・ドグマさん、やったみたいだな」


 エイトは思わず笑みをこぼす。

 ずっと心配だったから、倒せたことがわかって安心していた。


 コルネも同じだったらしく、こくりと頷く。短い髪が頭の動きにあわせて揺れた。


 「そうね、もうすぐ来るかしら。」


 二人は同時に後ろを振り返る。


 少しの木や植物に隠れて、ドグマは見えない。

 だが、ぼろぼろになって活動を停止した守護者(ガーディアン)の姿は見えていた。

 だから倒せたはずなのだが・・・。




 少し待っても、ドグマの姿は見えなかった。


 不審に思い、二人で顔を見合わせる。しかし、いつまでたってもドグマは来ない。

 風になびく紅い髪も、赤みがかった肌も、人前では無表情を貫こうとする顔も、見えない。


 するとその時、空に紅い光点が飛び上がった。


 身構える二人だが、すぐにそれが炎眷族(ファイアフライ)だと認識し、ドグマが無事だとと安心した。

 しかし、ドグマはやってこない。

 エイトは冷や汗をたらしながら、提案する。


 「・・・ちょっと、迎えに行ってみようぜ」


 コルネは返事をせずにドグマのいる場所に向かって走り始めた。





 程なくして、二人はドグマの元にたどり着く。


 二人は言葉を失った。



 足元には姿が幻のように霞んだドグマ。

 その心臓部分にある宝石だけが、確かなモノとしてそこに存在していた。


 コルネが語りかけても、ドグマからの返事はない。瞼も閉じられていて、頬には涙の跡が残っていた。


 諦めずに語りかけながら、手を伸ばしたコルネだったが、その指先が触れるか否かというタイミングでドグマの身体がかき消えた。


 あとに残るのは、宝石ひとつ。

 その宝石は、紅くて、ドグマの瞳や髪もこの色だった。


 そして、この宝石がおそらく・・・


 「これ、が、・・・・・妖精石(シード)・・・?」


 そう呟いたコルネの声は、泣いているようだった。風と木々の揺れる音が鼓膜を震わせる。

 エイトは妖精石(シード)というモノが何か知らなかったが、曖昧に頷いた。


 コルネは妖精石(シード)を手に取り、抱き締めた。二人は付き合いが長かったから、辛いだろう。

 妖精石(シード)は手のひらの四分の一の大きさの石だった。

 溢れだした涙をとめられるはずもなく、コルネは声を殺して泣いた。


 『泣くでない。泣き止むのだ。』


 目を腫らすコルネの耳に、声が届く。コルネは驚いて泣き止む。


 エイトにも同様の声が聞こえていた。

 ・・・その声はまるで・・・


 『まだ、意識はあるようだ。我は油断しすぎていたようである・・・』


 声が聞こえる度に、妖精石(シード)が淡く光る。それが、確信に繋がった。

 コルネは泣き止んだはずだが、また泣き出した。今度は嬉しい気持ちが大きいだろう。


 「・・・ドグマっ・・・・・・!!」


 『こら、泣き止めと言ったであろう』


 ドグマの優しい叱責がとぶが、コルネは泣いていた。

 エイトはその様子を見て、少し涙ぐむ。


 「ねぇドグマ、私、ドグマが人型に戻れるまで、待ってるから」


 コルネの言葉に、妖精石(シード)は暖かな光を発することで答えた。もう意識が薄くなっているのだろう。

 それを察し、エイトがポーチから小瓶を取りだし、手渡す。

 小瓶を受け取ったコルネは、その中に妖精石(シード)を入れ、紐を取り付けて首にかけた。


 「・・・私たち二人で、頑張ろう」


 そう呟いたコルネの言葉が自己暗示に思えてしまって、エイトは無言で彼女の隣にいた。

 こんな状況でも依頼をこなそうとする彼女の心の強さに憧れながら。

仲間を失った二人は、空游竜(スカイドラゴン)の亜種を倒すことができるのでしょうか・・・!?

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