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Act.12 森を抜けた先に

いつもよりちょっと長い・・・?

でも、もっと文章量を増やしていきたいです。

 「・・・あれって」


 思わずコルネは呟いた。


 アンデッドドラゴンを倒したあの言霊と同じ言霊だとしか思えないほどに、似ている光だった。

 アンデッドの弱点は『聖霊の加護』の付与された言霊か、治癒(ヒール)系の言霊だ。

 そこから推測するに、エイトに危害が及ぶ確率は極めて低いが、この三人に、しばらく光が残留するほど強力な治癒(ヒール)の使い手はいない。


 アンデッドドラゴンの破裂だけならば、『手練れ』が最期に設置した『遺言霊(スピレイト)』であるとも思えたが、エイトに掛けられていることから可能性は低いと考えられる。

 もし『手練れ』が神官クラスの言霊使いだったら、『遺言霊(スピレイト)』の可能性もある。


 思考を巡らせる二人だったが、エイトはそれにお構い無しに歩いていく。

 二人はやむなく、思考を中断してエイトについていった。


 程無くして、森の境界・・・

 ・・・ジャングルじみた入り口の森と、枯れかけた木々の合間に霧が満ちる森の境にたどり着く。

 そこは小川によって分けられていた。小川の向こうはさながら別世界である。


 エイトたちは小川をかるく飛び越え、霧の森に立ち入った。

 そのとたん、


 『こっちにおいで』


 『きゃはは』


 『探し物はこっちよ』



 と、どこからともなく大人や子供・・・いずれも女性の声が聞こえてきた。エイトは驚き、立ち止まる。

 それが霧のある森の恐ろしいところだ。


 霧のある森には、大抵、それが存在する。それは『魔言聖霊(ノーフィーメ)』と呼ばれる『聖霊』の一種だ。

 魔言聖霊たちは霧の中から甘い声で囁き、時には愛するモノ・無くしたモノの幻を魅せる。

 喪失の経験がある人間が霧の森に立ち入れば、瞬く間に虜にされ、森の肥料と成り果てるだろう。



 コルネは思わず身構えた。


 もしかすると、この『聖霊』がエイトやアンデッドドラゴンに何かをしたのかも知れない。

 同様に、ドグマも険しい表情となり、目を凝らす。言霊の光を探していた。


 ・・・しかし、ちらほらと見られる言霊の光は全くの別物だった。

 光は桃と紫がベースの色をしており、夢幻(ドレイム)系のものだと判断できたからだ。


 息を吐く二人を見て、エイトは首を傾げながら催促した。


 「あのさ、俺、こんなところじゃ右も左もわかんねーから・・・どっちかが先頭行ってくれない?」

 「・・・コルネ、我はそなたを推薦する」


 すぐに役割をコルネに押し付けるドグマ。

 その様子を見て苦笑し、エイトは手をあわせて何度も腰を折る。


 「お願いっ!!」


 そこまで必死に頼まれて断れるはずもなく、コルネが先頭を進むこととなった。


 霧の森に入ってからは、枯れた大地ゆえに植物が少なく、足場は良かった。木も少なく、進みやすい。

 しかしながら、濃霧と夢幻(ドレイム)系言霊のせいで、進行速度はジャングルと大差ない。

 時折襲いかかる魔獣は鼠型や蠍型が増え、奇襲が増えた。


 そして、霧の森に突入してから十度目の奇襲。


 霧の奥から現れた毒の尾がドグマを襲う。

 火妖精だからこその強いオーラに気圧された魔獣がことごとくドグマを襲うため、彼女が奇襲を受けるのは十度目である。


 エイトとコルネが奇襲に気がついたときには、すでに毒の尾はドグマに突き刺さっていた。


 しかし二人は死んだような目でそれを見ると、後ろにいる蠍・・・毒蠍(ポイズンテール)に斬りかかる。

 一人仕留めて油断していた毒蠍(ポイズンテール)はあっけなく事切れる。


 毒の尾に刺されたドグマはというと、浅い傷口に治癒(ヒール)をかけていた。


 「治癒(ヒール)・・・。」


 ドグマは解毒(キュア)を唱える素振りすらみせない。

 もちろん、倒れたりすることもなく、ピンピンしていた。


 毒はどうなったのかというと、


 「・・・我は妖精で、ほぼ炎でできている。毒など一瞬で消毒である。愚かな魔獣どもである。無意味な奇襲を繰り返し、尚、学ばぬのだ。」


 ・・・ということだ。




 そして特に大きな怪我も事故も無く、十数分が過ぎた。


 しばらく五月蝿かった魔言聖霊(ノーフィーメ)たちも、今はなりを潜めていた。

 霧は濃くなるばかりだが、それにしたってコルネは迷い無く進む。迷っている様子はない。


 そうやって油断していたからだろうか、エイトは、ふと目の前に人影が現れていることに気付けなかった。


 「あぁ・・っと・・・。ごめんなさい、注意散漫で・・」


 思わず敬語になって謝るエイトだったが、それを見る女性陣の瞳には困惑の色が浮かんでいた。

 そもそも、どう考えても霧の森・・・しかも空游竜(スカイドラゴン)の巣窟付近で人を見かけること自体がおかしいのだが、エイトは気付いていないようだ。


 そして、顔をあげたエイトは固まった。


 思わず、息が止まる。


 ・・・これは誰だ・・・?


 エイトはそれが誰だか思い出せずに、しかしとても大切だったと思い出し、その人影に近寄る。

 人影はエイトをふわりと避け、コルネの向かう方向と違う方向に動く。

 何故だか置いていかれる気分で、エイトは人影を追いかけ始め・・・


 ゴスッ という鈍い音と、脳天に降りそそいだ剣の鞘での一撃で目を覚ました。


 エイトが足を止めると同時に、コルネの叱咤が飛ぶ。


 「最初に言ったよね・・・!? 人がいても幻・・って。ま、エイトさんは一発目だから仕方ないかもね」

 「・・・・・・わ、わりぃ。」


 即座に自分のやらかしたことを理解したエイトは素直に謝り、ぺちぺちと頬を叩いた。

 誰だかわからなかったのについていくなんて、我ながら勇者だ・・と乾いた笑いをもらす。

 もうすでに顔も覚えていないが、不思議なものだ・・・。


 エイトは深呼吸をして、先を行く二人から目を離さないように歩き始めた。






 休憩を挟みながら、襲い来る魔獣を葬りながら、一行は遂に森の終わりを感じとる。

 一メートル先を見るのにも目が疲れるような濃霧は、少し薄くなり、今では五メートル先くらいまでは視認可能だ。

 それに伴い、陽光が通りやすくなり、森は格段に明るくなった。


 枯れた大地にも少しずつ緑が増えていって、飛行種庭園(フライガーデン)の本来の姿に近付く。


 気を緩めるエイトだったが、それと反対にコルネとドグマは表情を険しくしていた。

 それに気付き、再び気を引き締めたエイトに、コルネの囁きが聞こえる。


 「・・・霧の森の出口には、大概、守護者(ガーディアン)がいるから、気を付けて」


 ドグマは「当然」とばかりに拳を打ち鳴らす。後衛職とは思えない。


 そんな話をしつつ進んでいると、そこはもう、森の出口だった。


 そこには守護者(ガーディアン)なんて居ない。

 いや・・・居たのだろうが、生きていない。動いていなかった。


 本日何度目の驚愕か・・・驚き疲れた三人は、もうリアクションもしなかった。


 守護者(ガーディアン)は、石像になっていた。



 しかし、石像型の魔獣や魔物もいるため、警戒は解かない。

 もしこの姿が擬態で、獲物が通りかかるのを待ち構えているとしたら・・・油断は死を呼ぶ。

 試しにエイトが精密投擲(スナイピングショット)でナイフを投げつける。これで反応があればわかりやすくて良いのだが。


 そんなに簡単に正体を見破ることなどできず、ナイフは跳ね返って地面に落ちるのみ。

 仕方なく、外観の観察をする。不用意には近寄れないので、遠目に見る。



 多くの守護者(ガーディアン)がそうであるように、この石像 (?) も一部が人形であった。

 蠍に人間の女性の上半身がくっついているような感じだ。

 服は着ていないが、その上半身には皮膚が硬化したような部分鎧が装備されていた。

 蠍の尾は二つにわかれている。どちらも同じ形状だ。


 そのまま観察を続け、三人が守護者(ガーディアン)の背面にまわったときだった。


 エイトはスルーしていたが、その守護者(ガーディアン)の背には、蒼白い光が灯っていた。

 しかしそれは、込められた力が弱かったのかすぐに霧散する。


 流れから推測するに、守護者(ガーディアン)は石化の言霊によって絶命したのだろう。

 それも、『聖霊の加護』を受けた言霊使いによって、だ。

 言霊の光が残っていたことから、それはつい先ほどに行われたとわかる。

 暴れた様子がないから、その闘いは一方的なものだったのだろう。


 もう、エイトの背にはその光はない。


 だが、もう、『遺言霊(スピレイト)』の可能性はない。

 範囲が多すぎるし、回数も多すぎる。


 ・・・この島のどこかに、エイトたちの近くに、術者は居るのだ。

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