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Act.11 継ぎ接ぎのドラゴン

 コルネの声を聞き、素早く飛び退いたドグマ。

 それと対照的に、空中歩行(スカイステップ)の恩恵を得ていないエイトはバランスを崩しつつ飛び退く。


 そんなエイトの身体を、アンデッドドラゴンの腕が殴り飛ばした。


 「あぐぁっ・・・・・・!!??」


 今まで感じたことのない激痛がエイトを襲う。エイトはなすすべもなく吹き飛び、木に激突した。


 熱を伴う激痛が全身を駆け巡り、エイトの意識が飛びかける。

 いっそ、そのまま意識を失った方が楽だったのだろうが・・・その身体を癒しの輝きが包み込む。

 半ば強制的に意識を繋ぎ止めさせられたエイトは目尻に涙を浮かべる。


 「エイトさんっ!?!?」


 コルネの叫びが聞こえる。

 心配し過ぎやしないかと思い、自分の身体を見下ろすと、腹に大穴が開いていた。


 自分のことだというのに、ひどく冷静だった。


 エイトは血の塊を吐き出すと、地面に倒れた。自らの血溜まりの生暖かさに顔をしかめた。

 徐々に感覚が戻り、傷が塞がるのを感じた。


 心配するコルネに向かって、エイトは叫ぶ。


 「俺は大丈夫だ!・・・ドグマさんは!?」

 「・・・ドグマは無事よ!」


 コルネの返事に安堵し、エイトは地面に手をつく。

 先程まで力が入らなかったが、今なら起き上がるくらいはできる・・・!!

 起き上がると同時に言霊を囁くように唱えた。


 「空中歩行(スカイステップ)


 詠唱を終えた途端に、身体中に力がみなぎった。熱いエネルギーが巡る感覚が心地よい。

 エイトはひきつった笑みを浮かべると、落としてしまっていたナイフを拾う。


 そして、アンデッドドラゴンに投擲した。


 アンデッドドラゴンはナイフに気付かずに進む。

 ナイフは深々と突き刺さるがすぐに弾かれ、傷が塞がっていった。


 舌打ちすると、エイトの視界にコルネが躍り出た。


 「ーーーードグマはなるべく攻撃系言霊を使わないで、体術とサポートを!!」


 コルネは指示をとばすと同時に、両刃の剣を横凪ぎに振るう。

 肉片の繋ぎ目を正確に狙った斬撃はアンデッドドラゴンに浅く傷をつけるが、やはりすぐに治る。


 「・・・・くッ!!!」


 コルネはそれを見届けると後退して、アンデッドドラゴンの打撃の範囲から逃れる。


 コルネが注意を引き付けている間に、エイトはドグマのもとまで移動していた。

 傷を確認しようとするドグマに、エイトは一言、


 「治癒言霊(ヒール)ありがとな、ドグマさんっ・・!」


 と伝え、ナイフを喚ぶと再び戦場に舞い戻った。


 「え、エイトっ・・・!!我は・・・・・・!!!」

 「謙遜はいいから隠れてて!」


 狼狽えるドグマの台詞にエイトが重ねた。エイトは空中を駆けて、近距離からドラゴンを切りつけていた。


 コルネは何度も突撃と離脱を繰り返し、着々と傷をつけていく。

 増えていく傷に、アンデッドドラゴンの再生が追い付かなくなり始めた。


 そして、次の瞬間にエイトが切断した角は、再生することもなく地面に落ちる。


 「・・・!!! コルネ、このままいくぞ・・・!!」


 コルネは一瞬エイトと目を合わせると、再び突撃・・。

 コルネを狙って降り下ろされたドラゴンの左腕は、ドグマの防壁(ガード)に逸らされて地面を抉った。

 飛ぶことはできないだろう、ボロボロの片翼を、コルネは切り落とす。これも、再生しない。


 エイトはそれに続いて精密投擲(スナイピングショット)を放ち、縮地(ステップ)で距離を詰める。

 振り上げられた右腕の爪を、蹴りで数本折った。


 それを見たアンデッドドラゴンは激昂し、咆哮を上げる。


 『ヴォォオオオォォオオオオオオオオッ!!!!』


 咄嗟に耳を塞ぐ三人。

 アンデッドドラゴンは咆哮を止めると後ろに下がり、身体を震わせた。

 ・・・この初期動作は、吐息(ブレス)の合図だ。


 しかし、竜種との戦闘経験の浅い三人は気付くのに一瞬遅れた。

 それを好機としたドラゴンは、一番距離の近かったコルネが標的にする。


 「がっ、防壁(ガード)!!!・・・凍る乙女よ炎を消せ! 氷水防壁(アイスガード)!!!」


 コルネは早口に二つの防壁を築き上げ、それと同時に漆黒の炎がドラゴンの口内から放たれる。

 炎と防壁が衝突し、熱を孕んだ水蒸気がコルネを包み込んだ。


 「・・・うっ・・」


 コルネは両腕で顔を庇い、そのまま後退。

 彼女が吐息(ブレス)の射程から離れると、その瞬間に防壁が消えた。


 ギリギリのタイミングに息を飲むエイトとドグマ。コルネの無事を確認し、詰めていた息を吐く。

 コルネは即座に剣を構えなおすが、その刀身は熱で溶けかけていた。

 それに気付き、急いで替えの剣を召喚してアンデッドドラゴンの様子を確認する。


 「・・・傷はなおってないね・・。」


 独り言のように呟くコルネに、エイトが近付いた。

 ・・・・・・・その瞬間だった。



 アンデッドドラゴンが爆ぜた。



 「・・・はぇ!?!?」


 思わず声が裏返るエイト。

 それに一瞬驚きながらもアンデッドドラゴンから目を離せずにいるコルネ。

 目を見開き、微動だにしないドグマ。


 三人の目の前で再びアンデッドドラゴンが起き上がることはなかった。


 そして、その爆発の中心で・・・

 ・・・蒼白い言霊の発動を示す光が鈍く、妖しく輝いていた。


 コルネは消えて行く光を見つめながら呟く。


 「・・一体・・・・何なの・・・・??」


 その呟きに答えられるものは誰もいない。

 三人の間に、しばらく沈黙が続いた。






 一行は血溜まり・・・戦場から少し離れて休息をとっていた。

 小さな傷でも、どんな大きな失敗に繋がるとも知れないので、魔法職のドグマが全身を治療していた。


 「慣れないのである・・。治りが遅いのは仕方がないだろう」


 ドグマは口を尖らせる。火傷の痛みに表情(かお)を歪めるコルネには声は届いていない。

 エイトは無傷だったので放置されていた。

 放置されているので、こっそりと子供ビールとおつまみを取り出す。


 「・・・・・・うめぇ。」


 エイトは呟いて、俯いた。


 そのまま座り込む。


 負傷は初めてではなかったが、あれはどう見ても、どう考えても致命傷だった。

 『手練れ』の話でも感じた、『死への恐怖』が浮き彫りになる。自分がどれだけ死に近いか、わかる。

 あの時、治療されていなければ、自分は確実に死んでいた。

 死んだら、二人はどうなっていただろう。

 自分がいなくても爆発まで生きながらえただろうか。

 それとも、生きることを諦めてしまっただろうか。

 ・・・いや、初心者である自分がいなくても、彼女らは無事だったに違いない。

 あの場で大きな傷を負ったのは自分だけだ。

 俺は足手まといなのか・・・・


 「おい!!!」


 家に帰りたい。


 「おい!!!エイトよ、返事をせい!!!」

 「・・・・えっ!?」


 エイトはハッとして周りを見渡した。

 目の前には腕を組んだドグマが、その後方にはエイトをのぞきこむコルネの姿があった。


 「・・・あれ、俺・・・」


 頬を掻き、苦笑いするエイト。

 そんなエイトに、コルネが言った。


 「・・・どうかしたの? 顔色がすーーっごく悪いけど。」


 エイトはさっきまでの思考を振り払い、「なんでもない」と言う。

 納得していない表情のコルネだが、深追いはしてこなかった。

 ありがたく思いながら、エイトは立ち上がり、首を鳴らす。やる気の表明のつもりだ。


 「もう治ったなら、行こうぜ。はやく終わらせよう。」


 色々な場所に仕込まれたナイフを確認し、エイトは一歩を踏み出す。


 「・・・え?」

 「・・・・・・・。」


 その後を追う二人の視界にエイトの背中がうつり、二人は息を飲む。


 その背には、アンデッドドラゴンを屠った爆発の中心にあったものと同じ・・・

 ・・・蒼白い言霊の光が薄く灯っていた。

謎ばかり増えていきます・・!

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