表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/56

Act.10 森に遺された傭兵

 忘れ物がないか確認して、森に踏み込むと、たった数分で右も左もわからない景色になった。

 鬱蒼と生い茂る植物が日の光を遮り、夜までとはいかないが、夕方のように暗い。


 足元は安定せず、でこぼことした木の根や、苔の生えた倒木が所々に見られた。


 「・・・にしても、よくこんなところに調査隊を派遣したわね・・。」


 先頭を進むコルネの呟きが聞こえた。

 ドグマは無反応、エイトは深く頷きながら、草木を掻き分けて進んだ。


 この飛行種庭園(フライガーデン)は、空游竜(スカイドラゴン)の群が多数目撃される生息地であるため、大抵の調査隊や研究員は近寄らない。Sランクの冒険者を引き連れても危険と言われているからだ。

 しかし今回、調査隊から『空游竜(スカイドラゴン)の亜種が見つかった』と報告があった。

 それが現在に繋がっているため、余程、危険を省みない調査隊があったのだろうが・・・


 「亜種の目撃された場所は、火山の中腹にある洞窟付近だし、かなりの手練れが居たようね。」


 「・・・その『手練れ』が援護してくれるなら楽なのになぁ。俺なんてさ、肩書きだけのSランクじゃん。もうちょい考えて依頼候補のリスト渡してくれないかなぁ・・・。受付嬢さんヒドイ・・」


 エイトは、コルネの呟きを聞いて欠伸とともに一言。

 その言葉にも一理ある。

 歴戦の冒険者を選別せずに、初心者を高難易度のクエストに放り込んでいるのが今のギルドだ。


 そして、それのせいで死傷者が増えているのも現実である。


 コルネはため息混じりに言った。


 「・・・流石にこのレベルの難易度だと、普通はSS以上しか駆り出されないハズなんだけどね。それと・・」


 その言葉の通り、新種や亜種の調査はSS以上が決まりとなっていたハズだった。

 現状からして、その決まりは守られていない。人材不足なのだろうか。


 彼女は続けて言った。


 「・・・調査隊に参加していた『手練れ』は、SSの傭兵だったみたいよ。」

 「じゃあ雇えば良かったんじゃ・・?」


 エイトが問うと、コルネは足を止めて振り返った。そのままエイトに告げる。


 「『手練れ』は調査隊を逃がすために巣に残った。止めるものは居なかったし、『手練れ』自身が提案したから自信はありそうだったって聞いてるけど・・・。 そして、『手練れ』の帰還情報は今のところないわ。」


 息を飲むエイト。エイトは自分の職業の危険性を改めて実感した。


 「・・・一応、依頼には『手練れ』の保護・・もしくは死体回収が含まれてるから。」


 ぼそり、と呟いたコルネ。彼女は腰に携えてあった羊皮紙を手に取り、それを開く。

 それは資料だった。


 コルネはエイトに『手練れ』の似顔絵と資料を手渡すと、森を進むのを再開した。

 それに気付きながらも、エイトはまじまじと似顔絵と資料を見る。



   名前:不明  呼び名:ホーリー

   職業:SS冒険者:治癒言霊師(ヒーラー)近距離言霊士(マジシャン)[自称]



 資料、とはいったものの、ほとんど空欄だった。

 職業の欄でさえ[自称]と記されていて、確証がない。せめて名前は知りたかった。

 エイトは不安になりながらも、次いで似顔絵に視線を向けた。



 彼・・・いや、彼女だろうか。シスターのような服から、女性のようにみえなくもない。

 『洗脳色』だと忌まれている紅い瞳はともかく、蒼い髪はこの世界ではありふれた色なので、服装が手がかりになるだろう・・・



 「エイトよ、追い付けなくなるぞ。」


 じっくり見すぎていたのだろう。ドグマに似顔絵を奪われた。

 その言葉の通り、いつの間にかコルネとの距離が開いていて、その小さな背が木々に隠れそうになった。


 「あっ、すまん! ドグマさん、先に行ってて!」


 エイトはドグマを先に行かせると、ポーチに似顔絵と資料を押し込んで急いで追いかけた。

 自分が気絶していたせいで時間が遅れている。急がなければ、と。







 雑魚の昆虫型の魔物が幾つか現れたが、ナイフの一閃で屠る。

 足止めを食らうことも無かった。


 結果的に、すぐに追い付くことができた。


 それは、コルネとドグマが少し開けた場所で立ち止まっていたからだ。

 はやく追い付きたいと思ったが、あることに気がついて、エイトは歩く速度を落とした。


 彼女に・・・いや、その空間に近寄るほどに、生臭い匂いが強くなっていた。

 エイトは嫌な予感がしていたが、二人のもとに駆け寄った。


 すると、視界が赤く染まった。


 妨害系言霊の影響ではない。夕焼けでもない。よくよく見れば、草木の緑も見える。

 ・・・だが、視界が赤く染まったと錯覚してしまうほどに、その空間は赤かった。


 「・・・これって」


 コルネが掠れた声を出す。

 その後に続く言葉は無かった。



 その空間には、魔獣のものか人間のものか、はたまた植物のものかもわからない、赤い体液が広がっていた。

 木々を、花を、すべて赤く染め上げ、所々に肉片が散らばっている。

 よく見れば、肉片には鱗がついており、その色と大きさから空游竜(スカイドラゴン)のものと判別できた。


 そして、その赤のなかでひときわ目立つものが、二人の足元にあった。

 それは十字架の印章がされている、紺のブーツで・・・中身があった。


 「・・・・・・『手練れ』の?」


 エイトは自分でも驚くぐらいに間抜けな声を出してしまった。

 そんなエイトに、ふらついたコルネがぶつかる。

 咄嗟に身体を支えると、彼女の代わりにドグマが淡々と告げた。


 「そうであろうな。ここでずっと、引き留めていたのだろう。我には出来ぬ芸当さ。」


 エイトは息を飲んだ。

 ドグマが無表情だったのが衝撃的だった。やはり、初心者(じぶん)とは違う、と思った。


 そして、辺りの空気が変わったことに気付いた。

 目の前で、空游竜(スカイドラゴン)の肉片が暗い光に包まれた。血が沸騰したように泡立ち始めた。



 『・・・・・・ルグァァァァァァァアアアアアッ!!!!』



 肉片が一ヶ所に集まり、(ドラゴン)の形状をとった。

 それらは継ぎ接ぎだらけで、その隙間から黒い靄を溢れさせ、形は歪。

 ・・・魔獣などの死骸が処理されずに放置された場合に、まれに起こる現象・・・『アンデッド化』だ。


  『アンデッド化』したドラゴンは、周りを見わたし、最終的にはこちらを見ていた。

 そして、アンデッドドラゴンは黒い靄を撒き散らしながら、一歩を踏み出した。


 「まずいっ・・・!!! 二人とも、離れて撤退!!」


 コルネの絶叫にも似た声が、エイトの鼓膜を震わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ