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Act.1 取り敢えず頑張ってみる

  Act.0 この世界は




名前が無いこの世界には、『言霊』というものが存在する。

『言霊』は、誰しもが物心ついたときに使えるようになる能力だ。

原理のわからない不思議な力だ。



そして、『言霊』には、練習すれば誰でも使える「通常言霊」と、特殊な「固有言霊」がある。


固有言霊は、全員が使えるわけではない。

言霊夢・・・ナイトメアを見る事によって、ごく一部の生物が使えるようになる。


夢の中で地面に縫い付けられて空を見上げていた者は、風の翼を手に入れ

    大切な人とバラバラにされた者は、絆を繋げる出逢いの力を手に入れ

    両の足を奪い去られた者は、人間離れした脚力を手に入れ・・・


    皆同様に、夢の中で心から欲したものを手に入れた。

    その夢の意味を知る者は誰もいない。




そんな世界で、固有言霊を持つ一人の少年の運命が動き出した。





目の前に広がるのは、果ての無い空。

澄んだ空気にぐちゃぐちゃにかき混ぜられた、色とりどりの空。

地面がどこかもわからないその場で、生きているのはただ一人の少年。

少年はつまらなさそうに・・・面白いものを探すように目を游がせ、息を吐く。


『今はまだ』何にもない。



 少年は真上を見て、演技がかった動作にあわせて言う。


「これはボクの幻想だ」


言葉の真意はわからない。

曖昧な世界で、少年は瞳を閉じた。









「うがぁぁ!!!!また負けたぁ!!」


どこからか聞こえるヒステリックな叫び声が俺の1日の始まりの合図となる。瞳には、見慣れた白い天井がうつっていた。染みひとつないキレイな天井だ。


突き刺すような日差しがカーテンの隙間から差し込む。

薄く開いた目に入ったその光は、俺の思考を瞬時にクリアにした。

すると、昨日の記憶が蘇る。

親父との口論、母の説得の末に、俺は恐ろしい決断をしてしまったのだ。

・・・今日はめでたい、俺がニートを卒業する日である。


「・・・・はぁ」


面倒だ、とため息をつくが、宣言したものはしょうがない。ニートにだってプライドはある。

落ち着いた気持ちで目を動かし、現在時刻を確認した。

そして、時刻表示を見て6時50分だと理解すると、俺の背を冷や汗が伝う。

俺はぽつりと呟いた。


「・・今日は依頼の日だっけ・・・・」


そう、今日は依頼の日だ。

依頼主と、ちょっと距離が遠い場所で待ち合わせだ。待ち合わせ時刻は7時。

何度見ても、もうすぐ7時だという絶望的な数値が時刻表示に表示されているのは変わらない。

次第に焦る気持ちが大きくなり、心臓が早鐘を打つ。ニート卒業を失敗するわけにはいかないのだ・・・!!

俺は、まだ休みたいと訴えかける身体を叩き起こし、床板を軋ませながら寝間着のまま部屋を飛び出した。

そのまま廊下を走り抜け、玄関まで走り抜ける。

玄関のドアに手をかけた俺は回らない舌で言霊を唱えた。


「えっと、ふぉっ、装備(フォーム)A!!」


俺が言霊を唱えると、身体を青い光が包み込む。

光が消えると、俺はもう寝間着ではなかった。

軽い革製の防具と綿のシャツとパンツ、腰と身体中ににナイフを仕込み、その全てを漆黒に染めた黒づくめの少年が誕生。ポケットには新品ピカピカのギルドカードがある。表示されるランクはSだ。

・・・服は全体的に黒く、そのうえ髪まで黒で色白な肌なので、肌の白がはえる服装だ。


この中二病チックな装いこそ、俺・・・エイトの仕事着だ。






自宅を飛び出すと、そこはもう、宿や道具屋が並ぶ通りだ。

朝だというのにそこにはすでに人混みができていて、エイトは呑み込まれかける。

足による急ブレーキでなんとか勢いを止め、流れに呑まれないように自宅の敷地内に留まった。

それから俺は頭の中で地図を描き、目的地を探る。

目的地は入り組んだ道の中にあるので、道なりに進めば一時間はかかると思われる。

そうなるとかなり遅刻してしまうだろうから、道なりに進むようなことはしない。


「・・えぇっと・・・・。こっちの方向だよな・・・」


エイトは方向を決めると言霊を行使する。


空中歩行(スカイステップ)!」


それはその名の通り、空中を歩行するための言霊である。

エイトは空に舞い上がった。

珍しい言霊を目にしたからか人混みから「おぉ!」というような感嘆の声が聞こえた気がしたが、それは気にしない。

というより、気にする暇もない。

エイトは拍手する人々に目もくれず、待ち合わせ場所に向かって空を走り出した。







「はぁ・・・間に合わねぇな。」


エイトの口から、思わず溜め息混じりの呟きが洩れた。


理由はもちろん依頼。

エイトは本日7時に、指定された場所で依頼内容を聞くはずだった。

依頼書に貼られた写真に映る、金髪碧眼でショートヘアで前髪ぱっつんの(エイト好みの)依頼主が、依頼内容を聞かせてくれるという手はずになっていた。



・・・なっていたのだが。



手元の時刻表示には6時56分という表示。

まだ、指定された場所は見えてもいなかった。

というか、そもそも間に合うはずはないのだが・・・。


「あーー、やっちまった。これはマズイ。初仕事、依頼取り消しかなぁ・・」


エイトは寝癖のついた頭を掻き回す。

毛先が緑がかった黒髪がぐちゃぐちゃになった。

もう間に合わないと諦めたエイトだったが、その移動速度は決して緩まない。

できるだけ早く着く事で、取り消しを免れる確率が上がると信じていた。


「・・・なんとかなるかぁ」


本日何度目のため息だろうか、エイトはため息をしつつ周りを見る。

居住区の上空なので魔物や魔獣は近くには見当たらないが、それでも初めて来る場所だから緊張してしまう。

あの、遠くに見える小さな影は飛竜(ワイバーン)だろうか。それともただの大きな鳥だろうか。

遠くに見える草原には、スライムとかがいるのだろうか。ウサギっぽい魔物もいそうだ。

色々予想しながら、これから始まるであろう冒険にワクワクしていた。


・・・依頼主が美形なのも、その要因のひとつ。

可愛い女の子の依頼なら、やる気も出るのである。







エイトは持ち前のポジティブ思考で突き進む・・・。

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