舞踏会当日について
舞踏会・当日。
はい、あっという間の舞踏会の開催日なのですよ。
どうも皆様、語り部を担当させていただいております、【シャーリー】と申します。
シンデレラの二番目の義姉でございます。
そして。
「行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない……ブツブツ」
「男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い男嫌い……ブツブツ」
真顔でブツブツ喋りながら壁に頭を何度も打ち付けていろのは上から順に、母の【ショコラ】と姉の【シルカ】です。
二人とも、シンデレラを苛めていますが、実態は見ての通りの変態です。
シンデレラを苛めているのも、小学生男子特有の好きな子ほど苛めてたくなるという……まあ、例のアレです。
舞踏会に行きたがらないのも、シンデレラと離れるのが彼女達にとって死よりも苦しいことだからです。
因みに私にとっては、舞踏会は玉の輿に乗るための大チャンス。
一刻も早くこの魔の空間から逃れるためにも、服装と化粧も気合い十分ですし、我が家の爵位と釣り合いつつ将来出世間違いなしと評判な殿方のリサーチも完璧なのです。
間違っても愛人は勘弁、昼ドラ展開なんて御免です。
さて、私はリサーチ帳を開いて誰をお相手にするか吟味をします。
評判が良ければ良いほど競争率が高くなりますからね。
ここは他を出し抜いて穴場を狙うのが吉です。
個人的にオススメなのは、平民上がりの見習い騎士のルークさん。
今はまだ見習いですが、模擬試合での勝率はかなり高く将来性は十分。以前、私用で王城を訪れた際に盗み聞きした「いずれ団長になれる逸材」という現騎士団長様の御言葉からそれが伺えるでしょう。しかし相貌が平凡なのと平民上がりなのが相まって競争率はそんなに高くありません。狙い目ですよ奥さん。
性格も極めて人格者で、趣味は園芸。見習い騎士になる前はギルドで冒険家もしており、地元の剣豪腕自慢大会では何度か優勝したこともあるとか、道理で模擬戦の戦績が良いわけですよ。
他だと、魔法協会所属のミロクさんでしょうか。この世界での魔法使いは所謂研究職なので、騎士の方と比べれば収入が安定しないので見劣りしますが、それを差し引いても彼は魅力的です。……もしかすると、ルークさんより収入が多くなる可能性がありますよ。
なぜなら、彼は【デンワ】という遠くに存在する相手と会話できる不思議な魔具を開発したのです。当然特許でございますよ。因みに今回の舞踏会の参加申し込みもデンワを用いて行いました、いやぁ便利です。わざわざクソ遠い王城まで行かなくて済むので。現在のデンワは相手との会話はできますが相手の顔を見ることはできないです。しかし王城で盗み聞きした内容によれば、彼は現在【スカイプ】という遠く離れた相手の顔を見ながら会話が可能な魔術を開発しているとのこと。さらには現在のデンワをさらに小型化した【スマホ】なるものの開発にまで着手しているというのですから、その研究熱心さには舌を巻くばかりです。
まだまだピックアップはありますが、一度語りだすときりが無いのでここまでにしておきましょう。
ふふふ、ついに、ついにです。ついにこの息の詰まるような家から解き放たれる時が来たのです。
さて、それではドレスに着替えるために部屋に向かいましょう。
「―――行きたかったなぁ」
ん? シンデレラの部屋の前を通った際に声が聞こえてきました。
シンデレラの声ですね。興味本位で扉に耳を付けて盗み聞きします。
「お城での舞踏会かぁ。きっと凄く綺麗で、王子様も素敵なんだろうなぁ。……ううん、駄目よ。私は家に残って、しっかり皆の留守を守らなきゃ」
「………」
私はふと、自分のドレスを見ました。たしか、私とシンデレラのサイズはほとんど同じです。……胸以外は。
――『もしも、僕の身に何かあったその時は……シンデレラを頼んだよ』――
私は今は亡き義父の言葉を思い出しながら、頭に過った考えを振り払うかのように首を左右に振りました。
なぜ、私がシンデレラのためにわざわざ舞踏会参加を譲らなければならないのでしょうか。
そうです。シンデレラは確かに義妹ですが所詮は他人。というか、玉の輿に乗ってこの家からおさらばした暁には正真正銘他人なのです。私とは一切関係がありません。そう、この作品がフィクションであり実在する人物・地名・団体とは一切関係が無いように。
それでは仕切り直して自室に戻りましょう。
数分後。
私達三人の身支度が無事終わり、シンデレラが見送りに来ました。
目のハイライトが消えていた母と姉はまるでゾンビのように両手をシンデレラに向けます。控えめに言ってドン引きです。
「ぜ、絶対家から出てはダメよ」
「そ、そうよ。なにがあっても、家で大人しく待っているのよ。……ええ、すぐに帰ってくるもの。たとえ王子を殺してでも(ボソッ)」
姉さん、怖いです。小声で恐ろしいことを言わないで下さい。反逆罪に問われますよ。
ただ、姉さんの声が聞こえてないのか、シンデレラはニコッと笑って私達に言います。
「はい、留守は任せて下さい。しっかりと家を守ってみせます」
「「あ^^~シンデレラが可愛すぎるんじゃあ~~!!」」
思わず心が跳ねそうな勢いでシンデレラの胸元にダイブしそうなバカ二人の首を掴んで馬車まで引き摺ります。それ以上はアウトですよー。
「はいはい、さっさと行きますよ」
「「は! な! せ! シャーリーごらあああああ!!!」」
シンデレラは首を傾げながら、まるで不思議なものを見るような目で私達を見つめています。
「え、と……行ってらっしゃいませ、お義母様、お義姉様方」
シンデレラからのお見送りの言葉を背に受けて私達は城に向かうのでした。
「「シャーリィィィィィ……」」
P.S.私、城に着く前に死んでしまうかもです。