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八振り目

 この世のあらゆることは、経験を積まないことには上達しない。


 それは、この「トライワールドオンライン」の中でも同じことだ。


 「熟練度」によって、いかにそのスキルを使いこなしているかが数字として表れる。高ければ高いほど、スキルの効果は高くなり、その道の第一人者になれる、と言うわけだ。


 ただまぁ、<生産>を選んだ俺たちは、ただモノを作っていれば良いわけではない。

 モノを作るには、それ相応の素材がいる。


 「木工」なら木材が、「薬品」なら薬草が、そして


「鍛冶をしたいならっ!鉱石をっとっ!」


 そう、金属が欲しいなら、山に分け入って鉱石を集めなければいけない。それも、大量に。

 そんなわけで、今の俺は、数時間前からピッケル片手に洞窟で鉱夫の真似事をしているというわけだ。


 いやぁ、腰と腕が辛い。大学時代から運動なんてほとんどしていなかったから、久々の重労働がすごく堪える。


 仮想の体とはいえ、慣れない動きはそれなりの精神的疲労感を覚える。スタミナなんてステータスは存在しないのに、不思議なものだ。


「ちょ、ちょっと休憩……」


 今まで掘っていた採掘場所を離れ、良さそうな岩を椅子の代わりにして、どっかりと座り込む。

 飲み物が欲しいが、あいにくとそんなものは準備していない。今後は持って歩くようにしよう。ステータスには何の影響もないが。


 喉の渇きを紛らわせるためにアイテムボックスを開けば、数種類の鉱物がボックスいっぱいに並んでいた。


 ここ、「寂れ洞窟」は、「始まりの街」に最も近い洞窟だ。中には「吸血バッド」や「ラット」といった小型の敵MOBが少しいるだけで、戦闘が得意でない<生産>でも、深くまで潜ることが出来る。まぁ、潜りすぎれば敵MOBの大群に襲われるのだけど。


 現在、ここで発掘できる鉱物は「銅鉱石」「鉄鉱石」たまに「銀」という感じだ。後は発掘に失敗した時に出る「石ころ」や俺には必要のない「宝石」の類といったところだろうか。


「これだけあれば、いや、もう少し掘っておこうか」


 鉱物は、鍛冶でも使うが、クエストの納品物としても必要となる場面が多い。余った鉱石も鍛冶関連のクエストで使う予定なので、大いに越したこともない。


 おかげて「採取」スキルの熟練度は既に「鍛冶」を超えてしまった。俺は鉱夫になりたいんじゃなくて、鍛冶師になりたいんだが。


 まぁでも、その分「石ころ」が出る確率はかなり下がったという感触はある。鍛冶も同じように、熟練度を上げれば上げただけ、より高い質の武器を作れるようになるのだろうが、なんだろう、それでうまくなっても、あまりうれしくはないんだよな。


 できれば、熟練度が上がる前に、プレイヤースキルで上質のものを作りたい。かなり無茶な望みを言っているというのは、理解はしているんだけどな。


 ただ、やり方がなぁ。マックスはヒントしかくれないし、他のNPCは話しかけても答えてくれないし……。


 まぁ、今悩んでも仕方がない、か。とりあえず、採掘を始めよう。


 岩から腰を上げ、採掘ポイントへと向かう。

 自動的に浮かび上がるシステム画面を操作してピッケルを取り出し、再び振るい始める。


 岩を砕く音だけが、洞窟内に響き渡る。他に採掘をしている影は、見当たらない。


 こういう時間も、悪くはないかな。


「――――――」


 そんな静けさを心地よいものとして、一心にピッケルをふるっていると、ふと、木霊する音にまぎれて、人の声が聞こえた気がした。


「――っ――――っ」


 ここは、別に自分ひとりがいるわけではない。別のプレイヤーがいても何も不自然なことではない。


「――っ!――っ!」


 ただ、なんだろう。この、脳裡をよぎる嫌な感覚は……。


「――っ!?――けて!」

 声の聞こえた方向、洞窟の奥に目をやれば、人の声と共に、足音が徐々に大きくなってくる。


 それも、ひとりやふたりではない、複数の足音。


「た、たすけてええええぇぇぇぇぇ!」

 暗闇から飛び出してきたのは、ひとりの女性冒険者。多分、俺と同じプレイヤーだろう。

 必死な形相で、こちらに向かって走ってくる。


 後ろに、数十匹もの「洞窟ネズミ」と「吸血バット」。

 まごうことなき、敵MOBだ。


 ……。


「うをおおぉぉぉぉぉ!?くるんじゃねええぇぇえ!」


 何が起こってそんな状況になっているのかは分からない。分からないが、このままでは俺も巻き込まれることは、容易に想像できる。


 だからこそ、手に持っているピッケルを投げ捨てながら、洞窟の出口方へ一心不乱に走りだした。

 反応が若干遅れてしまったため、女性プレイヤーと並走するかたちとなってしまった。まずい。非常にまずい。


「ご、ごめんなさいごめんなさ――い!大丈夫ですか助けてくれませんか!?」

「た、助けられるかぁぁぁ!というか一緒に走るんじゃねぇよ。別のところ行ってくれよ!」

「でもでも、出口はこっちじゃないですか!って!前にもおおぉ!?」


 彼女の声につられてみれば、前の通路に立ちふさがる「洞窟ネズミ」。数は3。


 通常のMMOなら避けて通れるのかもしれないが、生憎とここはVRMMO。従来のゲームよりもリアルにつくられている。


 ゲームであればダメージを負っても足を止めることはないが、普通、猫サイズのネズミにタックルを喰らえば、走れない。というか、倒れてしまうよな。


「も、もうだめだあああああああぁ!!」

「何でこんな目にいぃぃぃ!」


 こうして、俺の最初の死亡は、ネズミのボディブロウに始まり、倒れたところを無数のネズミとコウモリにかじられて終わるという、トラウマモノの死にざまを達成したのであった。

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