三振り目
「<生産>のタレントだけだと、悪いのか?」
「悪いというより、長続きしない人が多いんだよ。<生産>だけだとね」
そう言ってガブリエルは、β時代に知りえた情報を教えてくれた。
どうやら、<生産>のタレント持ちが何かを作成するときには、作成したいものの「レシピ」が必要となるらしい。
「レシピ」そのものは、<生産>のタレントを持っていれば誰でも受けることのできる初期のクエスト報酬として手に入るようだ。クエスト内容も採取や「レシピ」を用いての製作になるので、そこまで難しくはない。
そう、「作るだけ」なら、難しくはないのだ。
「このゲームは、謳い文句にもあるように、よりリアルさを追求するため、生産の過程を他のゲームよりも丁寧に再現しているんだ。その分、作成ひとつに手間も時間もかかるから、簡単な作成でも、難易度が跳ね上がってしまう。ここまでは良いよね」
その程度ならばわかる。誰にでも出来るようにするなら、より単純に、それこそ、鍛冶だったら鎚で金属塊を叩くだけにすれば良い。アイテムに「質」というステータスを与えなければ、その程度で済むだろう。
しかし、このゲームの生産は、「手順」をより多く設定している。それは、アイテムごとに「質」というステータスを組み込むということであり、作成したアイテムに差をつける一方、作成の難易度を上げるということになる。
「もちろん、システムアシストもあるから、どんな初心者でも形にはなる。だけど、より高品質のものを作ろうとすれば、<闘争>タレント以上に、プレイヤースキルに依存しているんだ」
「けど、β時代にも<生産>専門タレントはいたんだろ?そいつらはどうだったんだ」
「……βテスト終了間際に、ひとつ上の『良質』まで到達した人はいた。だけど、そいつは今回、<生産>はやらないという話だ。なんでも、判定が違い過ぎて、勝手がまるで違うらしい」
作成したアイテムの品質は、「一般」「良質」「高品質」「最高品質」の4段階ある。「良質」まで出来た時点で、できないことはないのだろうが、そこまでの道のりは、かなり厳しいのだろう。
もし極めたいのならば、それことサブキャラクターとして空いた時間に少しずつ鍛えていく。そういった部類のタレントであり、少なくともVRゲーム初心者におすすめできるものではない。
だからーー
「もう一度言うよ。<生産>専用はやめておいて方が良い。鍛冶ならば、別のタレントと併用したってできるんだ。それでもやりたいのなら、この世界を遊びつくしたうえで、腰を据えてやるのでも良い。ただ、最初からあまりにも難しいものに挑戦するのは、長続きしないよ?」
最初から、「このゲームを楽しめなくなること」を心配して、こうして時間をかけて説明をしてくれたというわけか。なんというか、頭が上がらなくなりそうだ。
その思いには、答えるべきだ。
その優しさとか、おせっかいと呼ぶべきものには、誠意をもって対応するべきだ。
だからこそ、
「悪いな、それでも俺は、<生産>タレント一本でいくよ。」
「……理由を、聞いても良いかい」
まぁ、ここまで懇切丁寧に教えたうえで、茨の道を歩くと言われても、納得はいかないだろうな。だけど、俺の求めているものは、「冒険」でも「ファンタジー」でもないんだ。
「俺はさ、鍛冶をやりてぇんだ。そのためにこのゲームを始めた。だから、そういう事情だからと言って、手を伸ばす前に止めたくないんだ」
そう。俺は、鍛冶をやりたい。現実に拒まれた夢を、ここでなし遂げたくて始めたんだ。
確かに、この世界での鍛冶は高難易度で、初心者にはあまりにも難しい壁で、俺の決断はゲームをなめているとしか思えないような決断なのかもしれない。
だけど、それでも俺は、鍛冶をやりたい。鍛冶が、したいんだ。
「それにさ、難しいからこそ、燃えるものもある。無謀な挑戦だとしても、止まれるもんじゃねぇンだな。これが」
まぁ、「好き」は理屈じゃないんだ。すまないな、ガブリエル
最初は不満そうな顔のガブリエルも、俺の話を聞いているうち、諦めたような、あきれているような顔つきに変わっていた。
「ま、人のやることに色々と口出しするのは、マナー違反だからね。すまないね、時間を取らせてしまって」
「いや、むしろありがとうな。初対面なのに、ここまで心配してくれて」
そう、この話は、ガブリエルには一切なんの利益もない。
正しいと思うことを押し付けるような人物であれば、俺の決断にもいちゃもんをつけるのだろうが、どうやらそういったことをするつもりもないようだ。
まぁ、そういうことを考えても仕方のないことなのだろう。
「ふっ。何、構わないさ」
そう言ってガブリエルは立ち上がると、俺を見て、笑いかける。
そう、このガブリエルという男は、あったばかりの俺でもわかるくらい、
「僕はガブリエル!天上の意を伝える者!困っている子羊は、助けるのが僕の役目さ」
どうしようもなく、お人よしなようだから。




