一振り目
「うをおおおお!レンガ造りの家!石畳!外国っぽいなホント」
さて、鍛冶をするために正式オープン初日にログインした俺は、その景色に興奮をしていた。
中世の西洋をモデルにしたであろう石造りの建物と、街の周囲を囲む城壁。人でごった返す大通りには、薄手のチェニックを来たプレイヤーたちの人だかり。
アニメ調の世界とはいえ、ここが仮初の世界とは、にわかには信じられない。
近くの家の壁に触れてみれば、石独特のごつごつとした感触が手の中に再現される。
これが、フルダイブ型のすごさなのだろう。ボーナスを使い果たしてまでVRセットを買ったかいがあるというものだ。
「さて、どこにいけば鍛冶ができるんだ。これは」
あたりを見回して、それらしい建物を探す。
青い液体を売っている恰幅の良い店員は違う、果物を売る婦人も違う、剣を担ぐプレイヤーは外に出るから除外、女性を何人も侍らせてるプレイヤーがいるが、爆ぜれば良いのに。
少なくとも、ここから見える範囲には、それらしい人物や建物は見当たらない。
「ふむ……この街はかなり広そうだからな。適当に見ていけば見つかる、か?」
「ふっふっふ、何か迷っているようだな。新人」
誰かから呼ばれた気がするが、まぁ俺じゃないだろう。そんなことよりも鍛冶ができる工房なりなんなりを探しに行かねば。……あっちの方にあるか?
「おい!無視をするな!無視しないで!君のこと!今僕のことを見て目を逸らした君!」
Hahaha、俺みたいなやつが他にもいるのか。……周りの奴らは目すら合わせようとしねぇ。あぁ、知ってるよ。俺のこと呼んでるんだろ?あんまり関わり合いたくない感じなんだよなぁ。
「……俺に何か?」
「あぁ、君が困っているようだから、先輩として助言をね。ただその前に……無視は止めてくれ。無視だけは。学校での色々を思い出して、僕の心が普通に痛い。すごく痛い」
「あー、それは何というか、悪い」
多分ではあるが、悪い奴ではないのだろう。年下みたいだし、ちょっとひどい対応をしてしまったな。
ただ、考えてみて欲しい。銀髪のロングヘアーで右目が青、左目が黄色の光彩異色。しかも無駄に背の高い美形ときた。なんか、こう、中学2年生の求めるモノを全部突っ込みましたって感じで、直視できなかったんだ。主に自分の黒歴史を目の前で公開されているという意味で。
ちなみに、俺はあまり容姿にこだわりはなかったので、VR購入時に自動登録されている自分の顔に少し手を加えただけだ。それなので、見た目はただの冴えない男になっている。
俺のことはどうでも良い。それよりも、俺に話しかけてくれた痛い彼のことだ。
どうやら、あちらの方が俺よりも精神的に大人のようで「構わないよ」と言って許してくれた。
そして、一度咳ばらいをすると、また変なポーズをとりながら話しかけてきた。そのポーズ、いちいちとらなきゃいけないのだろうか。
「先ほども言った通り、僕はβテストにも参加していてね。僕の可愛い後輩が困っているとあらば、助太刀を、と思ったわけだ」
あぁ、何となくわかった。こいつは何かをロールしているわけなのか。だから別に、頭が可哀想なわけでも、こうしないと人と話せないというわけではないんだな。こんな楽しみ方もあるのか。
「ふむ、なら鍛冶場がどこにあるのかを教えてもらえるか?始めたばかりでどこにあるか分からなくてな」
「ふっ。任せたまえ、にしても、初戦闘を苦も無く終えていたのか。恐れ入ったよ」
「え?なんで戦う必要があるんだ?」
「……すまない、ちょっと待ってくれたまえ」
あれ?なんか頭を抱えだしたぞこいつ。というか、見た目とは裏腹に、すごい表情が豊かな奴だなぁ。見ていて飽きない。
「……ちなみに、攻略サイトなどは見ているかい?」
「あぁ、討伐メインだったんですぐ閉じたけどな」
なんで討伐ばっかりで、生産に関することはほとんど書いてないんだろうな。もっと他にやることがあるだろう。鍛冶とか鍛冶とか、鍛冶とか!
「オーケー。分かったよ。とりあえず近くのカフェに行かないか?君には色々と教えなければならないようだからね」
とりあえず、数分話しただけだが、こいつは普段からこうやって面倒事押し付けられてるんだろうなぁ、と思ったことは内緒だ。




