十一振り目
初パーティで向かった場所は、「始まりの街」から少し歩いた先にある「栄光の森」という場所だ。
ここを抜ければ、次の街である「イザル城壁都市」へと向かうことができるらしいが、今回の目的地はそこではない。
「えっと、目的はこの森に出る『牙ウリ坊』のドロップ品、ですよね」
「あぁ、そいつらは牙をドロップするみたいでな。いくつかの製作クエストで使用するんだ」
彼女、ソルティは腰に佩いた剣の柄に手を添えながら、きょろきょろとあたりを見回している。
俺も、練習で作り上げた「銅剣」の1本を装備し、いつでも戦える状態でこの場所までやってきた。
「でも、初めてお会いしました。<生産>特化のプレイヤーさんなんて」
「そのおかげで、素材を取るのには苦労するみたい、だけどな」
と言っても、まだ正式サービスが初まって幾日も経っていない。そんな中で生産を中心にやっているのだ。戦闘などで苦しむ場面、というよりも、戦闘が必要になる場面には遭遇したことがない。
ソルティと出会った「寂れ洞窟」にしても、敵MOBにちょっかいをかけなければ問題なく採取ができるし、この「栄光の森」もほとんどはノンアクティブの敵MOBが大半を占めているため、こちらから攻撃を仕掛けない限りは、問題なく通り抜けができてしまう。
だからこそ、この依頼には素材を集めるという目的の他に、自分がどこまで動けるのかを試してみるという、もうひとつの確認も兼ねているのだ。
幸いこの場所は、移動するだけの人達はすぐに抜けてしまうらしく、周囲の人影はまばら、という感じで、洞窟の時のように周囲に迷惑をかける可能性も低い。
周囲からは鳥のさえずりや、風が木々を揺らす音、動物の鳴き声だけが響渡り、そのはるか彼方から、剣戟や魔術の音が聞こえてくる。
これが現実なら、ピクニックに来たように思えるのだが、あいにく持ってきたものはサンドウィッチの入ったバスケットではなく、刀剣だけだ。
そんなことを考えながら周囲を見回していると、ソルティが手招きをしてくる。
「いました。あそこです」
彼女の指さす先には、確かに「牙ウリ坊」がいた。しかも二匹だ。
二匹はつかず離れず、同じところをゆっくりと歩きながら、時折地面に鼻をこすりつけている。
「では、私が先に右の方に斬りかかりますね」
「オーケー。じゃあ俺は、左のを相手取れば良いんだな」
これは、森に入る前に決めていたことだ。
敵MOBが複数体いる場合、一体は俺がヘイト、まぁ相手の注意をこちらに向けて、ソルティの戦闘を少しでも楽にするという、作戦とも呼べない行動指針という奴だだ。
ただ、戦闘中に2匹を相手にするよりも、1匹だけを相手にした方が、より楽に、そして迅速に対処できるとのことだ。
なんでも、「寂れ洞窟」ではラット2匹を相手どったところ、片方に注意を向けるともう片方から攻撃をもらってしまい、どうしようもなくなって逃げだしたらしい。
VRMMOは通常のMMOとは違い、どんなに弱い攻撃であっても、衝撃によって自身の注意が攻撃した対象に向いてしまうことから、どうにても複数体を相手にした戦闘の難易度が上がってしまう、らしい。
ま、そこはガブリエルや実際にひどい目にあったソルティの言葉を信じよう。
「では、行きます!」
「おう!」
ソルティの掛け声に、俺は巡らせていた考えを放棄し、ソルティの後ろを駆ける。
というか、早すぎないか!?確かに、駆け出すのは少し遅れたが、どんどん離されていくぞ!
多分、<闘争>と<生産>から生じるステータスの違いが原因なのだろうが、ほぼ初期ステータスだけの状態でこんなに差があるとまでは思わなかった。
「て、やぁっ!!」
ソルティは、俺を何メートルも離しながら、右の「牙ウリ坊」に向けて、剣を上段から振り下ろす。
「牙ウリ坊」は、目の前に剣が迫って初めて、ソルティを敵として認識したようだが、かわすにはあまりにも遅すぎた。
「プギャァァ!!」
剣は「牙ウリ坊」の体をすり抜けるように通り抜けると、体に赤いラインを残す。HPバーを見ると、今の一撃で3割ほどを削ったようだ。
それを受けて、2匹の「牙ウリ坊」は反撃をするため、頭を低く下げ、勢いよくソルティへと突っ込んで行った。
「わっ、わっ!」
ソルティは、驚いたように2、3歩後退しながらも、一匹の突撃をかわし、もう一体を剣の腹で受け止める。
はた目から見ればかなり重い攻撃のようにも見えたが、その場にしっかりと踏みとどまり、倒れかかるようなことはない。これも、タレントとしての特性、なのだろうか。
「でりゃぁ!」
そうこうしているうちに、俺もソルティに追いついた。
すぐさま、もう一匹の「牙ウリ坊」に対して、「銅剣」を叩き込む。
「プギッ!」
「当たったけど、硬ったいなぁもう!」
しかし、俺の攻撃は、先ほどのソルティのようにきれいに入らず、「牙ウリ坊」をちょっと斬っただけに留まった。
HPバーの減少も一割程度であることから、威力があまりないことがはっきりと分かってしまう。
これが、タレントの差、かなぁ。まさかここまでとは思っていなかった。
この事実に少なからずショックを受けるが、止まっている余裕はない。
俺が攻撃をした「牙ウリ坊」は、すでに攻撃対象を俺に変更し、突撃する体制を整えていた。
「やばっ!」
すぐさまソルティと同じように、剣を盾にするように前に掲げるが、「牙ウリ坊」の突撃は、そんなちんけな防御では抗えないほど重いモノだった。
尻もちはつなかったが、数メートルほど吹き飛ばされてしまった。HPも1割ほどが削られている。
なるほど、タレントの差は防御にもあるのか。
頭の中で、そう冷静に判断しながらも、アバターの額からは冷や汗が出てくる。防御をした状態でこれなのだ。防御が失敗した場合は、これ以上のきつい一撃になるだろう。
幸い、まっすぐにつっこんでくるので、回避するのには困らないが、攻撃しつつとなると、ちょっと難しそう。
再び、攻撃を行うために、剣を上段に構えて、「牙ウリ坊」へと近づこうとする。
しかし、こちらが近付き終える前に「牙ウリ坊」は向きを変え終り、改めてこちらへとまっすぐに突き進んできた。
「ちょ!向き直るの早すぎないか!」
慌てて飛び退くが、また距離が開いてしまった。これでは倒すのにどのくらいかかるのだろうか。
「い、イチモンジさん、大丈夫ですかーー!」
ソルティの声にふりむくと、へっぴり腰ではあるが、突っ込んでくる「牙ウリ坊」にカウンター気味に攻撃を加えている、多分、後1撃ほどで倒せるだろう。
対してこちらは、こっちのほうがあと数撃で落とされそうだ。
「で、できるだけ早く頼む!」
そう叫びながら、俺は次の突進に対して回避すべく、剣を収めるとダッシュで逃げ回り始めた。




