前日譚
導入部分だけ少し重い感じです。
これ以降はもっと砕けた感じになる・・・予定。
子供のころから、鍛冶というものが好きだった。
堅い鉄が、真っ赤になって燃え上がり、鎚で叩くと形を変える。
それを何度も、何度も続けてできるのが、侍の魂とも言われる、日本刀。
ただの石ころが、銀色に輝く刃に変わる。
最初に見た時は、魔法だと思った。次に、俺もこの魔法を使いたいと思った。
必死に勉強をした。当時は「勉強をすれば好きな職業に就ける」と無邪気に信じていた。
だからこそ、塾に通い、友達との付き合いもほどほどに、夢への思いだけを力に、必死で勉強して、国立大学にも優秀な成績で入学を果たした。
だけど、現実はそんなに甘いものでない。鍛冶では、生きていけないのだ。
日本刀を作っていれば生きていける世界ではなく、副業で極められるほど甘い世界でもない。
ただ打つために、ただ作るためにと頑張った夢を目の前に、俺は「生きること」を理由に、その夢から逃げ出した。
心も想いも置き去りに逃げ、退屈な日々が、数年も続いた。
そんな時、ひとつのゲームが話題に上がった。
曰く、己のタレントのみで生き抜く世界。
曰く、現実に限りなく近い世界
曰く、あらゆる可能性の眠る世界
日本初のVRMMORPG。「トライワールドオンライン」
仮想空間なら、俺の夢は叶うのだろうか。
俺が逃げ出した夢の続きを、知ることができるのだろうか。
所詮はゲーム。されどゲーム。
色あせた夢を胸に、俺はその世界へ、旅立った。




