母と父と娘と家族で
「え?」
キョトンとしたアホ顔をさらす拓也さん。このセリフでシリアスにならないってどうかと思うよ!空気読んでよ拓也さん!
「いや、だから今はそうだけど!本当の父親じゃないでしょって言ってるの!」
わかるでしょ!なんで私が説明しないといけないの!!
「え、本当の父親じゃないの!?」
「なんで驚くの!違うでしょ!」
「うそ・・・。紗希ちゃん浮気してたの?」
「はぁ?なんで母さんが浮気なんてするのよ!」
「えぇ!どうゆうこと?えっと、祐希ちゃんは僕と紗希ちゃんの子供だよね?」
「えぇ!?違うよ!私のお父さんは昔遠くへ行っちゃったんだって話したでしょ!」
「うん。だからそれ僕でしょ」
「え?」
「あれ?前に話したよね。借金返す為に働きに出たって」
「確かに聞いたし、似た話しだとは思ったけど、そもそも娘さんの名前麗華さんだよね?」
「うん。僕もそう思ってたんだけど・・・。もしかして紗希ちゃんから聞いてない?」
母さんから?どうゆうこと?何も聞いてないけど?
「あ~そっか。とりあえずこのままだと風邪引くから。家・・・よりSakiの方が近いかなここらへんだと。祐希ちゃんかなり体力あるんだね」
思ってたよりかなりの距離を走りぬけたみたいで、その事実にとたんに顔が赤くなる。
「はい。少し小さいけどこれで拭いて。あとは、コーヒーを淹れるから待ってて」
「うん。ありがとう」
久しぶりの「Saki」よくわからない状況だけど変に安心する。
そんなことを考えながら受け取ったタオルで身体を拭く。今さらながら雨の冷たさに身体が震えてきた。
「はい。コーヒー。さてと、どこから話そうかな。僕が家を出た時にはね、まだ子供の性別がわからなかったんだ」
あーコーヒー暖まるわぁー。ちゃんと聞いてるよ。それで?
「だから男の子なら祐希。女の子なら麗華って書置きしていったんだけど・・・。ほら紗希ちゃんって天然なところがあるから、どっちか好きな方を付けたらいいよって思ったらしくて」
はぁぁぁ!?ちょっ、コーヒー吹き出した!
「いや、だとしても女の子なんだから麗華の方選ぶでしょ!」
「うん。その通り。だから紗希ちゃんもちゃんと性別を考慮して名前をつけたみたいだよ。猫に」
「は?」
「寂しかったのか、紗希ちゃんたまたま家に来た迷い猫を飼いだしたんだって。そしてその猫がメスだったから麗華ってつけちゃったって」
「えぇー!!!」
いたわ!確かに小さい頃れいかさんて言う猫飼ってたわ!あれ本来私の名前だったのか!
「余った方を私の名前にしたと?」
おい!れいかさん!いや、麗華さんか!あのデブ猫め!私の名前返せよー!
「でも、ちょっと待って!名字は?山口なんでしょ!」
「あー。それが僕が書いといた離婚届け出さなかったみたい」
「え!それじゃあ木原って」
「僕の木原だね。僕と祐希ちゃん。ずっと父と娘だったみたい」
嘘でしょー!!じゃあうちって母子家庭じゃなかったの!いや、実際父親がいなかったわけだしどうなんだろ?あー!もうわけわからん!
「祐希ちゃん。ごめんね」
「えっ?」
いつの間にか側まで来ていた拓也さんに私はがっしりと抱きしめられていた。
「一緒に暮らすのを了承してくれた時ね。本当は僕、祐希ちゃんが無理してるの気づいてたんだ。なのに僕は自分の事を優先してしまって。話し合わないといけないとは思ってたんだけど今までの関係を崩したくなくて。ごめんね。本当にごめんね祐希ちゃん」
拓也さん・・・。私と一緒だ。
「ずっと置いて行ってしまったことを恨んでるんだと思ってた。でもまさか本当の父親だとすら伝わってなかったなんて」
「じゃあ、本当に拓也さんが私の?」
「うん。僕が祐希ちゃんの父親だよ。置いて行ってしまって本当にごめんね」
「でも、迎えに来てくれた。拓也さんがずっと後悔してたこと知ってるよ?ずっと私を探してくれてたことも」
「そうだね。お互い父娘だと気付かないでいろいろなことを話したね」
「そっか。拓也さんが私のお父さんなんだ」
「がっかりさせてしまったかな?」
「ううん。拓也さんがお父さんならいいなぁってずっと思ってた」
「僕も祐希ちゃんみたいに育ってくれてたら嬉しいなって思ってたよ」
「お互い同じようなこと思ってたのにこんなにすれ違ってしまってたなんて・・・。全部母さんのせいだね!」
「え?」
「あんの超ど天然め!母さんがしっかりしてたらこんなややこしいことにならなかったよ!」
「いや、祐希ちゃん?」
「お父さんの名前だってクーくんとしか知らなかったし!本名教えといてよ!それに拓也ならターくん一択でしょ!それに何私の麗華を猫にやってるんじゃぁ!これなかったら初めて会った時に父娘だと気づいてだわ!祐希ってなんじゃ!」
「一応そっちも僕が一生懸命考えた名前なんだけど・・・」
「とりあえず今回の騒動の原因は全部母さんってことで終わり!」
「僕としては紗希ちゃんのそうゆうところも好きなんだけどね」
ピルルル。ピルルル。
「あ、ちょっと待って。電話だ。紗希ちゃんかな?はい。えっ!?警察!!はい、そうですけど。いえ、してないですね。はい。はい、わかりました」
え、とうとうJKじろじろが通報されちゃった?
「ど、どうしたの?」
「紗希ちゃん今警察に保護されてるんだって」
「えぇ!!」
「雨の中。傘も差さずに全力疾走してる女の人がいるって通報があったみたいで」
母さん。心配して追いかけて来てくれてたんだ・・・。
「旦那と娘と一緒にマラソンしてるだけですよ~。って意味のわからないこと言ってるんですって」
母さん。私と拓也さんがこんな雨の中、急にマラソンを始めたって思ってたんだ・・・。
「ごめんね祐希ちゃん。ちょっと紗希ちゃんを引き取りに行ってくるから少しここで待っててくれる?」
「私も行く」
「そう?じゃあ一緒にもうひとっ走りお願いできるかな?」
「うん。家に帰るまでがマラソンだからね」
私の名前は木原祐希。ちょっと母さんがど天然過ぎるってこと以外は普通の女の子だ。
いや、ちょっと違った。普通より幸せ過ぎる女の子だ!