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母と娘と義がつく父と

 望まない瞬間は突然やって来た。雨の日に傘を忘れた私の為に母が傘を持って「Saki」に来てしまったのだ。

 慌てて店を出た時にはもう遅く、母はすでに店のすぐ近くにいた。



 「あ、祐ちゃん!よかった~。家を出たはいいけど、私店の場所知らなかったのよ~」



 「そ、そうなんだ。それなのに運悪く近くまでたどり着いちゃったんだね」



 「そうなの~。あれがいつも祐ちゃんが言ってた喫茶店ね」



 「う、うん。そうだけど今日はやってないみたいなんだ」



 「え~。でも祐ちゃん今店から出てこなかった?」



 「えっと私は常連だからね!ちょっと!どこ行くの!?」



 「ん~?祐ちゃんがいつもお世話になってるみたいだから挨拶しないと」



 「いや、だから今日やってないの!」



 「でもマスターさんはいるんでしょ?」



 「いやーどうかなー?って母さん!!」



 あぁ!母さんが店に入っちゃった・・・。



 「いらっしゃいませ・・・」



 見つめ合う二人。説明なんて必要ない。色恋に疎い私でもわかる濃厚な恋の気配。予想通り二人の相性はよかったみたいだ。お互いが一目惚れする程度には。

 私は「Saki」に背を向け雨の中をそっと一人帰った。



 変化は劇的だった。



 「ゆっくりでいい。ゆっくりでいいからいつか僕のことを父と思える日が来たら。三人で一緒に暮らさないかな?」



 とうとうこの日がやって来た。わかっていたことだ。なにせあれから母は毎日拓也さんに会いに行っていたのだから。

 対して私は一度も喫茶に行かなかったのだけれど、二人の邪魔をしない出来た娘とでも思われていただろうか。

 

 いつまでも逃げてはいられない。母さんの幸せを願うなら尚更だ。向き合わないといけない。



 「今日からでも大丈夫だよ。私もお父さん欲しかったんだ。母さんも待ち望んでるみたいだからさ」



 上手く笑えたと思う。



 それから始まった三人の生活は幸せだった。母さんは生き生きとし、拓也さんは相変わらず優しくて、渋くて、ダンディーで・・・。



 幸せなんだ。



 こんなに幸せなのに、そんなこと考えたらいけないのに。私のこころは止まらない。



 父さんを信じてるんじゃなかったの?

 麗華さんはもういいの?



 あの言葉は、あの思いは嘘だったの?



 母を許せなくて、義父を許せなくて。なにより素直に喜べない自分が許せなくて。



 私は家を飛び出したのだ。







 「本当の父親じゃないくせに」拓也さんが一番言われたくないであろう言葉。

 そんな言葉を私はただただ自分が楽になりたいが為に拓也さんに放った。

 拓也さんはどんな顔してるだろうか。傷つけてしまっただろうな。怖くて顔を見れない。私のせいで母さんともギクシャクしてしまったらどうしよう。

 時が止まってしまったのではないかと錯覚するほど長い一瞬の時間。永遠に続きかねない自問のループを拓也さんの一言が現実に引き戻してくれた。



 「えっ?父親だけど?」



 「は?」



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