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2015年/短編まとめ

お菓子なんて必要ないから

作者: 文崎 美生

「ハロウィンって、こういうのじゃねぇよな」


朝から気だるそうに頬杖をついて、女の子の集まりを見る彼は、覇気のない声で言った。

まぁ、確かに。

本日10月31日でハロウィンだ。


女の子はここぞとばかりに、お菓子を作って、持って来ては交換会をしている。

かく言う私も女の子なのだが、そんなものは作っていないし、あの集まりに参加する気にもなれない。


「バレンタインやクリスマスならまだしも、ハロウィンとかイースターに至っては、完全なる企業の戦略にハマってるだけだよな」


そうだねぇ、と頷いていると、お菓子の入っているのであろう紙袋を持った女の子が、私の横を通って行く。

ふわりと香る甘い匂いは、既に教室廊下――学校全体に広がっている。


「ハロウィンって西洋の収穫祭だよな」


「だからカボチャがメインなのかな」


「かもな」


一部の女の子の集まりと目が合う。

その子達はこちらにやって来て、手作りお菓子を私と彼に渡して行く。

カボチャプリンにオバケの形をしたクッキーやキャロットケーキなど、ハロウィンらしいお菓子ばかりだ。

勿論、全ての女の子が手作りをしているわけではないだろうけれど。


「『Trick or Treat』だっけ?言わなくても貰えたねぇ」


やっぱりハロウィンっていうのは、こういうのじゃないと思う。

元々は西洋の収穫祭だし、合言葉を言っていないのに貰ったし。

やっぱり女の子は、こういう行事が好きなのだろう。

私を含めた例外もいるだろうけれど。


カサコソと音を立ててラッピングを崩す。

どこまでも綺麗に可愛く、なんて女子力の塊はキラキラし過ぎて私には勿体ない。

オバケ型のクッキーに迷うことなく齧り付けば、横からは呆れたような視線を飛ばす彼。


「食べたいなら自分の食べてよ」


「そうじゃねぇよ」


「じゃあ、私と同じでハロウィンに大して興味無いんだから『Trick or Treat』とか言わないでね」


「……言わねぇよ」


今の間はなんだ、と突っ込みたかったが揉めるだけな気がして、咀嚼したクッキーと一緒に言葉も飲み込む。

甘い甘いバターの香りが鼻を通り抜ける。

市販は市販で美味しいけれど、手作りは手作りで美味しい。

拙さがまた何とも言えないのだ。


年々行事による力の入れ具合が加速していくような気がしてならない。

いつか私も、その加速に巻き込まれるのか。

それとも自分から飛び込んで行くのだろうか。


もそもそと口の中の水分ごとクッキーを食べ進めていくと、彼が貰ったお菓子を私の机の上に置いた。

要らないの?と聞けば甘いの好きじゃねぇ、と返ってくる。

なら何で貰った、なんて愚問だろう。

断れないから貰うんだ。


「西洋のイタズラって、生卵ぶつけたり、水鉄砲で水掛けたりするらしいよ」


有り難くお菓子を回収しながら、お礼替わりにと思い出し小ネタを披露する。

当然ハロウィンに興味の無い彼は、だから何だよと言わんばかりに目を細めて私を見ていた。

私もテレビで見ただけだから。


「ある意味イジメよね。可愛いイタズラではないわ」


「ふぅん。まぁ、文化の違いだろ」


さくさく、もそもそ、クッキーをひたすら頬張る。

口の中がパサつくから、飲み物出そうかな。

あぁ、でも折角だから紅茶買いに行きたいな。

時間あるかな。


顎を動かして咀嚼したまま時計を見ていると、隣の彼が椅子を引いて「なぁ」と声を掛けてくる。

振り返った先には何故か距離を詰めている彼。

椅子をこちらに寄せてまで、そんなに距離を詰める必要がどこにあったのか。


ゴクンッ、と喉が上下してクッキーを飲み下す。

数回瞬きをしている間にも、彼は椅子だけじゃなく顔も寄せて来て、低く掠れた声で内緒話でもするみたいに言う。

「ちゅーは?」と。


唇に付いたクッキーのクズを舌で舐めとる。

それから空になった、ハロウィンらしい可愛らしいラッピングを握り潰して「イタズラ?」と問い掛けた。

驚きもしなければ、嫌悪も見せずに、ただただ淡々と業務連絡を話すように。


彼もまた当然だと言わんばかりに頷くので、どっちもどっちだと思うし、こういう性格だからこそハロウィンに対して興味関心を見せないのかも知れない。

そんなことどうでもいいと思うけれど。


「『Trick yet Treat』ですよ」


近付けられたままの彼の顔を見ながら言えば、は、と口も目も丸くする彼に笑いが漏れる。

間抜け面、と声にならない声で言って、彼の口の端を噛んだ。

犬歯を軽く突き立てて、クッキーよりも柔らかな感触を感じてから離れる。


興味もないハロウィンに乗っかってしまった。

まぁ、無礼講。

これくらい許される、はずだ。


「はっぴーはろうぃん」


流暢な言葉から一転、小馬鹿にしたように吐き出して、未だに間抜け面を晒している彼に笑いかけた。

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