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とりあえず食事でも

「なるほどな」


 なんとなく理解。望みを叶えられなかったまま帰ったところ上司からの説教。さらにはこちらの世界に連れ戻されただけじゃなく、次元を行き来する空間まで閉じられてしまったというわけか。それで上司への怒りの矛先がこの部屋に向けられたと……。

 

 俺、完全にとばっちり受けてない?


 というわけで――

「帰るすべもない。逃げ場もないってことで間違いないよな」

「そうだけど……」

「じゃあとりあえず……」

 一歩詰め寄る。


「何する気……?」

 身構えるルナ。俺はいつもより声を張り上げた。


 

「片付けろ! まったく、ここまでめちゃくちゃにしやがって。足の踏み場もほとんどないじゃないか」


「なんだ、そんなことか――」

 なぜかホッとしているようだ。

「――もちろん嫌よ。せっかく戸山が困っているところを見れるのに」

「どんな理由だよ……。ルナだって今のままじゃ歩きにくいだろ」

「私は浮けるから問題ないわよ? それに人間だって言うじゃない。『人の不幸で飯がうまい』ってね。私たちは不幸を見るのが特に快感なの」

 うわー、やな性格だな。

 とはいえ私『たち』って言ってるから悪魔にとっては普通のことなのか……。感覚の違い?


(ぐぅー)


 ふと、俺のお腹が鳴る。

 あー、『飯』って単語が出てきたから腹減ってたの思い出しちゃったよ。 片付けてもらおうにも話し合いじゃらちが明かなそうだしな……もう後でいいや。幸い机の上(ルナの寝ていた場所)はきれいだし。とりあえずは飯が先だ。

「まあ部屋を何とかする話は後にして、俺は飯食うわ」

「え? 私の分は?」

「……ルナも腹減ってるのか?」

「そ、そんなことはないけど! ……ほ、ほら『タダより高いものはない』って言うじゃない? やっぱりタダでもらえるならもらっておかないと損でしょ!?」

「いやまだあげるとも言ってないし。それに『只より高いものはない』という諺にタダ最高! って意味はないからな。むしろ高くつくとかマイナスの意味だぞ」

「し、知ってるわよ。ちょっとお腹がすいて頭が回らなかった(くぅー)だ、け――あっ……」

 

 失言と一緒に聞こえてきたおなかの音。はぁー、それくらい素直に言えよな。


「腹減ってるんだったら簡単なものだけど作るよ。ただし『部屋を片付ける』条件付きで」

「く、くぅ……。ああもう分かったわよ! 掃除すればいいんでしょ、します!」

 そう言ってすぐにルナは布団や本を元に戻し始めた。もちろん変わった力なんて使わず手作業で。



「さてと」

 キッチン(といっても流し台とコンロ一つしかない)で夕食の準備に取り掛かる。

 今日まとめ買いしておいてよかった。腹もかなり減ってるし、手早く作れる物にしよう。……素うどんでいいかな? 質素だけど二人分だし節約ということで。


 ここで簡単クッキング。

 めんつゆを水で割り鍋で沸かせる。うどん二玉を入れ刻みネギを入れて器に移して出来上がり。湯を沸かすのも含め所要時間約五分。

 惣菜の唐揚げも忘れずに温めておこう。


「できたぞー」

 俺は机に器を持っていく。

 ちょっと早すぎたかな――と思ったけど部屋は買い物に出かける前の状態よりきれいになっていた。

 ――意外と手際がいいんだな。


 机にうどんと唐揚げを並べる。それと冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。

 後はコップと箸だけど……。

 自分の腰くらいの高さの小さな食器棚を探す。

 確かこの辺に――おっ、あった。


 大学に入学した当初に買った客用の箸やコップ。結局今日に至るまで、友達が家に来ることもなく奥に仕舞いっ放しだったけどようやく使われるときが来たか。

 少し感慨深く思いながらこれらを持っていく。

 

 ――あれ? なんか唐揚げが減ってるような……。

 疑問に思いつつもルナが手を伸ばして待っているのでとりあえず箸を渡してやる。

「ん、それひゃあ……んぐ、いただきまーす!」

 やっぱりつまみ食いしてたか。道理でさっきからやけに静かだと思ったよ。それにしても――。

 目の前のうどんを口の中へ夢中に運んでいくルナの姿。まったく最初に出会ったとき感じた威厳のようなものはなんだったのかと思わせる。……自分を大きく見せようと気を張ってたんだろうな。 


「そんなに腹減ってたのか」

「そ、(ずずっ)らそ、(ずずずっ)うひょ」

「口の中なくなってからでいい」

「むぐむぐ……そりゃあそうよ。起きてから何も食べてないんだし」

 そういえば寝ぼけ眼でこっち来たっけ? でも呼んだの昼だったよな。いつまで寝てるんだよ。

「それならそうと早く言えよ。少々飯あげるくらい何も気にしないのにさ」

「そんなこと(ひょい、パク)……言ったって私にも(ひょい、パク)……プライドってものがあるんだから(ひょい、パク)……人間に頼み事するのは(ひょい、パク)……嫌だったの!」

「……結局もらってるじゃん」

「プライドより(ひょい、パク)……大事なものってあるのよ?」

 悪魔のプライド激安だな! 二人分合わせても食費三百円位なんだけど! ――そんなことより。


「っておい! 唐揚げ全部食いやがって。ちょっとは遠慮しろよ!」

 惣菜の唐揚げは見事に容器から姿を消している。

 まあ消えていく過程は見てたけどね。

 理由も別に見惚れてたわけじゃない。どちらかというと唖然? 初対面とのギャップって言うのかなー。もう悪魔って感じが全然しない。

「ふんっ、私の辞書に遠慮、躊躇という文字はないわ」


 そんな堂々と宣言しなくても。

 『プライドを捨てるかどうかは躊躇ってたんじゃないのー』とか突っこみたかったけど余計な反論を食らいそうなのでスルーしておこう。



「……ふぅ、ごちそうさまっと。味はまあまあだったわ」

 そりゃそうだろな。惣菜は店で作られたものだし、うどんはほぼ調味料(めんつゆ)そのままの味。これでダメだって言うならそれはもう好みか嫌味のどっちかだ。

「ごちそうさま」

 俺も食べ終える。

 やはりちょっと少なかったか……まあ小腹が空いたらカップ麺でも食べればいいや。


 お腹もふくれたのか、ルナはくつろぎ落ち着いているように見える。


 よし、今のうちにいろいろ聞いておくか。ルナのいた世界のこと、なにより『これからどうするか』を……。


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