空き巣事件?
「おーい、ル……ナ……?」
呼びかけてみるもルナはピクリとも動かない。
……あれっ? なんでこんなに部屋が散らかって……。
棚から本は投げ出されているし、ベッドは布団もシーツもぐちゃぐちゃ。タンスからは服も飛び出している。
……まさか空き巣!? ルナは無事か!?
慌ててルナの体をゆする。
「う……ん……」
微かながら確かに聞こえる声。
――よかった、生きてる!
「……戸、山? 今から追試……だっけ?」
「何寝ぼけたこと言ってるんだ! 怪我はないか!? 犯人の顔は見なかったのか!?」
「へ? 犯人? 戸山こそ何言って……?」
「何って――この部屋の状況だよ」
俺は部屋中をぐるりと指差す。
「えっ? あっー! あー……、はあぁー…………」
ようやく頭が冴えてきたのか、思い出したみたいだ。どんどん顔が下を向いていき、完全にうなだれてしまった。
うーん、嫌なこと思い出させちゃったか。具体的な犯人の特長とかすぐには聞けそうにないな。
「とりあえず警察呼ぶか」
ポケットから携帯電話を取り出す。
「警察になんて説明するつもりよ……」
頭を垂れたままルナがつぶやく。
そうか。現場が一人暮らしのはずの俺の部屋だもんな。被害に遭ったルナのことを説明しなくちゃいけないか。契約した悪魔――なんて言えないし。
「えーと、友達とか……いっそのこと恋人ってことにする?」
ルナがガバッと顔を上げる。
「なんであんたと恋人関係になるわけ!?」
「警察にルナを紹介するための、一時的な設定じゃん……」
「あっ、そう。設定でも嫌だけど……そもそも警察は私のこと見えないわよ」
「あっ……」
すっかり失念していた。
正直頭の中は空き巣被害を受けたことで一杯一杯だ。
「それに何も話すことないでしょ。被害に遭ってもいないんだし」
? どういうこと?
「いやどうみてもこの部屋の惨状は……ルナも空き巣の犯人に殴られて気を失ってたとかじゃないのか?」
「空き巣? 何のこと? 私はちょっと寝てただけよ。それに部屋は……こ、こんなもんだった――でしょ?」
「ここまでひどくないから!」
そりゃあ読みかけの本とか服とか床に放りっぱなしのときもあるけどさ。いくらなんでも現状散らかりすぎ。
「……何を隠してる?」
「べ、べべべべ別にななな何も――」
わかりやすっ。めっちゃ顔逸らしてるし。
「――犯人はお前か」
……。
少しの沈黙の後、ルナは黙ってても仕方ないと判断したのか白状し始めた。
「あの、ちょっとやるせなくてその辺の物に八つ当たりを……それで疲れてそのまま夢の中へ……」
なるほど、現実逃避ってやつね。よくわかる。
「いったい何が理由で?」
「それは……」
言葉に詰まる。首まで振って、何か思い出すまいと奮闘しているみたいだ。
一言助言するか。
「ルナ、逃げることをやめて現実を見よう。俺みたいになるぞ」
「うっ……」
ルナの動きが止まる。
よかった、どうやら助言が効いたみたいだ。でもなんだろう? ちょっと辛い。俺と同じがそんなに嫌?
ルナがゆっくりと口を開き始める。
「……上司に叱られたの。『そんな簡単な契約も果たせないでどうするんだ』って……。『契約完了できるまでこっちに戻って来るな』って……」
ルナが力なく答える。
よく見ると顔には涙の痕がうっすらと残っていた。