黒幕は……
次の日、俺はルナと共にある場所を訪れた。
「失礼しまーす」
研究室の扉を開く。
部屋の中、パソコンの前に座っているのは佐々木教授ただ一人だ。
「やあ、戸山君じゃないか。春休み中にどうしたんだい?」
「少し聞きたいことがありまして……」
「ん? ドイツ語の単位のことかな? 残念だけど、さすがにあの点数じゃ情けは掛けられないよ。今回の失敗を踏まえて、来年に向けて努力するように」
佐々木教授は諭すように話す。
「いや、聞きたいのは単位のことじゃないんですよ」
俺は首を振って答える。
「本当に聞きたいのは……そこにいる悪魔のことですよ」
俺は机の下からひょっこりと出てきた、見た目が少年のような男の悪魔を指差した。
「え!?」
佐々木教授と傍にいた悪魔はびくりと一瞬体を硬直させ驚く。
「なんで……見えて……」
佐々木教授が必死に声を出し、俺に尋ねてくる。
「なんでって簡単なことです。……ルナー、もういいぞー」
「はいはーい」
研究室の扉の外で待たせていたルナが部屋の中に入ってきた。
「俺にも悪魔が付いている、それだけのことです」
「ねえ戸山。さっきから聞いてたら、なんか妙に丁寧なしゃべり方で違和感あるんだけど」
「え? 一応教授だし、敬語には……なるだろ」
「なんていうかそれだけじゃなく、格好つけているというか……」
「……」
うん、正直なところ、犯人を追い詰める探偵をイメージしていたってのはある。
「はぁー、ついに見つかっちまったかー。まあいつかはこうなるとは思っていたけど、こんな適当そうな奴にばれるとはねー」
佐々木教授に付いている悪魔がしゃべりだした。
……適当そうは余計だっ!
「カ……カル。なんとかしてくれ!」
佐々木教授がカルという名前の傍にいる悪魔を呼ぶ。
「なんとかしてくれって願いにしてはちょっと抽象的過ぎだなー。聞き入れることはできないかな。――ていうか聞く筋合いもないや」
「なぜだ!? いつもは強力してくれてたじゃないか!」
佐々木教授が声を荒げる。
「だって契約自体は『地位を手に入れる』って願いで、すでに叶え終わっててるしー。今の今まで付き添ってるのは僕の単なる気まぐれ。ばれちゃったら居心地悪いし、もう潮時ってことでしょ。だから帰ろーと」
「ま……待ってくれ!」
必死に呼び止める佐々木教授。それを全く無視し、カルと呼ばれた悪魔は自分で奇妙な空間を作り出す。たぶん向こうの世界につながるものだろう。
カルはすぐに空間に入ろうとしたが、何かを思い出したらしく動きを止めた。
「あっ、そうだ。一つ忘れてた。契約の報酬はすでにもらってるけど、追加の願い、『他人を困らせる』分を清算しないと……ってことで」
カルはポケットからスマートフォンを取り出す。
「――送信完了っと。あははっ、じゃあ良い人生を送ってねー」
悪戯じみた笑いを浮かべ、カルは空間の中に消えていった。
部屋に残されたのは俺とルナと佐々木教授。少しの間、沈黙が生まれる。
「悪魔を呼んでいたこと……誰かにばらすのか?」
佐々木教授が力のない声で言う。
「信じちゃもらえないだろうし、別にばらすつもりなんて――いてっ!」
ルナに背中をたたかれた。
「ちょっとチャンスじゃないの! 教授の弱みを握ったってことよ! 留年取り消しにできるかも」
「だからといって脅すのはちょっとなぁ……。でも一つだけなら……ううん……」
悪魔のささやきに若干心が揺らいでいると、外からバタバタと足音が聞こえてきた。
ガチャッ!
勢いよく研究室の扉が開く。名前も知らない教授と思われる人物が入ってくるなりすごい剣幕で佐々木教授に質問をし始めた。
「ちょっと佐々木先生! さっきのメールは本当なんですか!? 詳しく話を聞かせてください!」
「えっ……!? あの……」
うろたえる佐々木教授。
「一斉に送られてきた匿名のメールのことです!」
匿名のメール? さっきのあの悪魔が送っていたものか?
俺は自分の携帯を確認する。
……あっ、俺にも届いている。内容は――。
メールの本文には佐々木教授が論文の実験データを改竄していたことや同時に何人もの女子大生と付き合っていたことなど、悪事が連なって書かれていた。それも一つ一つ詳しく、信憑性があるように。
「どうなんです!」
「あ……あの……ええと……」
佐々木教授は言い訳などの言葉が全然出てこないようだ。
まあ、あれだけ詳しく書かれているのだから言い逃れは難しいだろう。
とりあえずこの場にいると俺は邪魔になりそうだな。
俺とルナは研究室を後にした。




