目を覚ますまでゆったりと
「へぇー、意外ときれいにしているんですね」
俺の住むアパートに着いた全員が部屋の中に入ったところで赤穂さんが部屋を見渡して感想を述べる。木下さんはベッドの上に寝かせておいた。
悪魔も含めて五人。ちょっと狭く感じるけど、全員が座れるくらいの広さはある。
「さて、この子が目を覚ますまでにはなしまとめたいけどいいー?」
カレンが木下さんを指差して話を始めようとするが――
「ちょっと待って!」
ルナの横槍が入った。
「この子自由に動ける状態にしていいの? また襲ってきたらどうするのよ。手足くらいは縛っておきましょ」
「もうルナは心配性なんだからー。大丈夫と思うけどおもしろそうだからいっか。じゃあ戸山君が縛ってくれる?」
「俺? 俺はちょっと恥ずかしいかな……」
ルナの『力』が切れたのか、寝ている女の子の手足を縛るのにためらいが生まれる。
だってあんな無防備な状態の子に触るんだよ。恥ずかしいさ。変な息遣いになっちゃいそう。
「というわけで赤穂さん頼む!」
「えっ! 私ですか? まあいいですけど……縛るものくれません? ロープとかテープとか」
「はいはーい、これ」
ルナが押入れからガムテープを取り出し、赤穂さんに向かって放り投げた。そして赤穂さんがキャッチ――
「きゃっ」
できず。ガムテープは赤穂さんの頭上を通り過ぎていった。
ルナ、コントロール悪すぎ……。この距離ではずすか。
台所の方にころころ転がるガムテープを赤穂さんがちょこちょこ追っかけ、ゲット。
そのままベッドの上で木下さんの手首を三重くらい巻いて固定する。
いやあなんかこの姿を見ているとなぁ――。
「あはは、なんか赤穂さん強盗犯みたいだぞ」
「そう見えます? じゃあついでに戸山先輩も縛っておきましょうか」
「えっ!」
まあ冗談だよなー…………縛られた。
なぜか木下さんのときより楽しそうに俺の体を縛っていくので、抵抗する気は起きなかった。
「よし! これでいいわね。でも何を話し合うって言うの? この子警察に突き出して終わりじゃない?」
ルナがあっさりと言う。
「確かにそれも一つなんだけど、結局誰も怪我一つしてないしなー」
「それに理由も聞きたいです。理由によっては……なんて」
「あんたら人が良すぎるのよ……」
ルナがあきれ返ったような顔をする。
「私もいろいろ聞きたいかもー」
「カレンもなの! まあいいわ。でもこの子もう私たちのこと見えないんじゃないかしら?」
「そうだねー。付き添ってた悪魔は帰っちゃったからねー。だから実梨ちゃんに質問してもらおうと思ってるの。二つあるんだけどいいかな?」
「聞くくらいなら全然いいですよ。何ですか?」
「それはねー……」
木下さんが目を覚ますまで俺達は各々時間をつぶした。
赤穂さんとカレンは夕食を買いに近くのコンビニへ。
俺は木下さんの見張りを……せざるをえない。
だってまだガムテープはずしてもらってないもの……。さすがに長くない?
「ルナー、そろそろほどいてくれー」
「えー、似合ってるからいいじゃない」
縛られる姿が似合うって何だよ。
「まあ赤穂さんって子が満足するまでそのままってことで」
ルナはそっけなく言うと、漫画を手に取り読み始める。
ルナの中で俺より赤穂さんの地位の方が高いらしい。
それから十分くらい後、赤穂さんとカレンが買ってきた弁当を持って戻ってきた。
「おかえりー」
「ただいまですー。木下さんはまだ目覚めないですか……」
「ああ、ちょっと叩き付けすぎたのかも……」
いまさらながら反省しているとカレンがフォローを入れた。
「もしかすると精神的にもまいってるのかもねー。体のほうは大丈夫だと思うよー」
「そんなことはさておきご飯にしましょうよ。この時間だもの、さすがにおなかすいちゃった」
木下さんのことはおかまいなしにルナが急かす。
「はーい。いろいろ買ってきたんですけどどれにします?」
赤穂さんは買ってきた弁当二つとパスタ二つを机の上に並べた。
「そうねー、じゃあせーので指差しましょ。かぶったらじゃんけんで。――せーの!」
ルナが取り決める――ってちょっと待て! 指し辛い!
あわててぐっと体をひねり、縛られた手で何とか指をさす。
結果はみんなばらばらのものを選んでいた。
赤穂さんが和風パスタ。
カレンが日の丸弁当。
ルナがカルボナーラ。
俺が唐揚げ弁当。
改めて見ると別にどれを選んでもよく、あんな必死に指差すこともなかった。恥ずかしい……。
「「「「いただきまーす」」」」
みんな食べ始めるけど俺は動けない。
「ねえねえ赤穂さん?」
「はい?」
「このままじゃ俺食べられないんだけど」
縛られた手を赤穂さんの目の前に持っていき、腕を振ってアピール。
「あっそうでしたね。じ、じゃあ、わ、私が食べさせて上げますよ!」
なぜかカレンが「おー」っと小さく手をパチパチ拍手している。
「いやほどいてくれ」
「そ、そうですよねー」
少ししょんぼりした赤穂さんが素直にほどいてくれた。
全員が食べ終わり、机の上を片付ける。
「うぅ……」
そこでようやく気を失っていた木下さんが目を覚ました。




