襲撃犯の正体
「ちょっとー、やるじゃない! まさか倒せるとは思ってなかったわ!」
ルナが俺の肩をたたく。
「こう見えても護身術は習っているからな」
「カレンダーにそんな予定はなかったと思うけど」
「バイト先の店長に護身術として合気道を教わってた……というより無理やり教えられたんだよ」
閉店時間までバイトをした後は三十分ほど店長に残されることがあった。(もちろんこの時間もバイト代は割り増しで出ている)その時間で合気道の講義。
実際に口だけでなく身を持って教えられた。具体的には店長が俺に技をかける。俺が店長に技をかける。技をかける割合店長八割、俺二割。
万引き犯を捕まえるためだとか言ってたけど、ただの店長のストレス発散だったようにも思える。まさか今日襲われることを見越して……考えすぎか。
「へぇー」
「見直した?」
俺はドヤ顔でルナに尋ねる。
「まあ私が『力』を使わなければ絶対やられてたわよね。チキンに変わりないわ」
「……」
そうだけどさ! ちょっと位ほめてもいいんだよ? 自分で言うのもなんだけど俺ほめて伸びる子だよ?
「戸山せんぱーい! だ、大丈夫でしたか!?」
わき道からひょっこりと赤穂さんが姿を現した。
「あっ、赤穂さん。どこに行ったかと思ったら……」
「どこにいったって――私を探してたんですか? やっぱりカレンの言ったとおり、私を尾行していたんですね?」
まあ興味を持ってくれるのはうれしいですけど……。
赤穂さんがポツリとつぶやく。
「ばれてた!? いやあ、赤穂さんの願いが何なのか気になった、というか不安になってささ。暗いからあの距離なら気付かれないと思ったんだけどなぁ」
「そうだねー。確かに見えなかったよ。でも――」
カレンが話に割り込む。
「『実梨ちゃんの願いを知りたい』って欲望があふれ出てたしー……戸山君はそんなにだったみたいだからわからなかったんだけどー、ルナがね。ルナってば本当にわかりやすいんだからー。でもそういうところが好きー!」
「おい! ばれたのルナのせいじゃん!」
ルナの方に振り返ると、サッと目をそらされた。
「まあいいや。ルナのミスにいちいちつっこんでたらきりがないな。……それより赤穂さんはなんでこんなところに? 家はこの辺にないんでしょ?」
「はい。一度家に直接帰ろうと思ったんですけど、今日のミスを思い出して……。取り返すために新しくできたという本屋の偵察に行こうと考え直したわけですよ!」
責任感強いっ! 俺だったら家に帰ってお客様()のことを愚痴りながら不貞寝するなぁー。
「そうしたら途中でカレンから『戸山先輩が付いてきてるよ』って教えてもらったので、悪戯心が湧いちゃって……。逆に後をつけ返して戸山先輩のうろたえる姿を堪能しようと思ったわけです」
「俺の狼狽なんて見ても得しないだろうに……」
「いやいや私に見られているにも関わらずきょろきょろと不審者になる戸山先輩の姿。そこらへんのバラエティよりおもしろかったですよ」
にっこりと微笑む赤穂さん。
今日はっきりした。赤穂さんはドSだ。特に俺に対して。
「ただすぐに別の不審者に襲われるとは思わなかったですけど……」
「そうだな。俺も数日で二回も刺されかけるとは思わなかったよ。前のときは店長が助けてくれたんだよなぁ」
「最近にもあったんですか!? まさか悪魔に憑かれているせい……?」
赤穂さんが驚き、困ったような顔をする。自分も巻き込まれると思っているのかも知れない。
「それはないよー」
カレンがやんわりと否定する。
「私たちにトラブルを引き寄せる力なんてないしー。むしろ私たちが巻き込まれ……まあ、推測は後にしよっか。まずはこの襲ってきた人を別の場所に移そーう。こんな道の真ん中に放っておけないしー。……一つ聞きたいんだけど、この子に見覚えあるー?」
「私はないわ」
そりゃあルナが知ってたらびっくりだ。以前願いを叶えた腐女子かその友達ってだもんな。
「俺はどこかで見た気がするんだけど……」
むぅ……思い出せない。どこかですれ違ったか、見かけたとかそんなレベルでしか会っていない気がする。そもそも赤穂さんに体格が似ているから混同しているだけかもしれない。
「えっと私は――」
赤穂さんがその子の顔を覗き込む。
「あっ! この子同じ学部にいる確か名前は……そう木下さんですよ!」
赤穂さんに言われて思い出した。
赤穂さんと同じ学部……ってことは俺と同じ大学の後輩……。
あっ、この前大学でぶつかった子だ!
「何度か授業でお会いしたことがあります。真面目そうで結構一人でいることが多かったと覚えていますが……。そんな人を刺せるような人には見えなかったです……」
「まあ『力』発動中だったんだから何だってできるわよ。それより願いの内容が気になるわね。この子の傍にいた悪魔は?」
ルナがカレンに聞く。
「私たちの世界に帰ったと思うよー。殺人のような大きな黒い願いだから、受けたのは上位の悪魔だろうしー、自分でゲート開いたみたいだねー」
「じゃあそいつにも聞けないのね。とりあえず目を覚ますまでどこかに休ませましょ」
この子が目を覚ますまで人目に付かないところで休ませるという案が俺達の中で決定した。
「ここからだと……俺の家が近いかな? 俺がおんぶして運ぼうか?」
ルナの『力』が続いているのか羞恥心はいつもより薄れている。
「あっ、ちょっとそれは……!」
赤穂さんが慌てたように手を前に出し、俺を制止させた。
「何か問題でも?」
「いえ、あの、えーと、うらやm……ほ、ほら、戸山先輩にばかり負担かけちゃいますし、肩を二人ではさむように貸して運ぶことにしませんか!? そうすればすれ違う人から酔い潰れた子を介抱しているように見えますし!」
「別におんぶでも変わらな――」
「そうしましょう! 手伝いたいんです!」
赤穂さんに押し切られる。何がおもしろいのか、隣でカレンがくすくすと笑っていた。
――というわけで二人で肩を貸して俺の家を目指す。
……どう考えても身長差がなぁ。木下さんの体が結構傾いてるぞ。
「やっぱりおんぶの方が……」
「ダメです!」
赤穂さんに強く言われ、仕方なくそのまま家まで運ぶことになった。




