望むままに行動
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住宅街を歩いていく。
ここ数日毎日来ているというのにターゲットは姿を現さない。いついても大丈夫なように二つの武器(ナイフと悪魔)を持って来ているというのに……もどかしい。一刻も早くこの緊張した状態から離れたい。
でも本当に私に成し遂げることができるの?
心の中で何度も問いかける。というのもぼろアパートに向かう足は震え、かばんにナイフを入れるときだけで手は震えるからだ。
こんな調子で復讐ができるのか? 返り討ちにあわないか?
すでに悪魔の持つ能力は聞いたけれど確証がない分不安が残る。
でも殺らなきゃ。自分のためにも、だまされた親のためにも……。
あっ……。
アパートに近づいてきたところでいつもと違うある変化に気付いた。ターゲットの部屋の明かりがついている……。
いる……。
アパートの前で息を整える。深呼吸するにも吐く息は震え、感情は高ぶるばかりだ。
「大丈夫? そろそろ力を発揮していい?」
私はこくりとうなずくと背中に手を当てられトンと押された。
さー、と心に奇妙な平穏が訪れる。ナイフを握り締める手に震えはない。感情が薄れていくように感じた。恐怖もなく、ためらいもない。
呼び鈴を鳴らし、ドアを開けたところで一突き。それだけだ。それですべてが終わる。
……殺れる!
私は復讐に向けての大きな一歩、数歩で終わるはずの一歩を踏み出す――その瞬間、耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「待つんだ!」
このあたりに街灯はなく、相手の顔は分からない。でもそんなことはどうでもいい。
……散々待ったの。もう待てないよ。誰であろうと……邪魔はさせない!
思いのまま、復讐の思いだけで体は動いた。
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やば……。
向かってくる殺意。命を奪われかねない恐怖が押し寄せてくる。体は強盗に会ったときと同じく硬直してしまって動かない。暗闇の中、ナイフの切っ先だけはなんとかとらえていた。
「危ない!」
突き刺される寸前にルナが俺を強く引っ張り回避。そのままよたよたと足を何とか動かしできる限り距離をとる。
「何動かないの! 死にたいの!? それだけは絶対許さないんだからね!」
険しい必死な表情で言われた。
「で、でもよ……恐怖で体が、うまく動かないんだよ……」
「どんだけチキンなの! じゃあなんでもいいから私に願いを言って。早く! また来るわよ!」
こつこつとゆっくり近づいく足音が聞こえてくる。
このままじゃ殺される。それだけがひしひしと伝わってくる。でも死ぬのは避けたい。人生で恋愛一つくらいはしたいんだよ! だから――。
「生きたい。ここで、死にたく、ない!」
出てきた言葉は最低限の願いだった。
「いいわ。その願い、受け入れてあげる! 動けるようならすぐに逃げるのよ!」
ルナがトンと背中を押した。
「何しやがる! 前から向かってきてるってのに――あれ?」
普通に声が出せる。先ほどまで硬直していた体は嘘のように軽い。
恐怖? なにそれおいしいの? ――ってくらい心に余裕がある。
「よし! これなら――」
「逃げれるわね!」
ルナが俺の手を引っ張ろうとする。が、それを回避。
「何してるの!? こんなときに恥ずかしがらなくてもいいのよ! 羞恥心も消しときゃよかったかしら……」
「違う! このまま赤穂さんが犯罪を犯すのを放っておけるか! 何とか止めてやるんだよ!」
俺は人影に向かって対峙する。……刃の位置を確認して集中――。
「バカ! ただの無謀よ! ただのバカよ!」
――できない。
「うるさい! 集中してるから黙ってろ!」
普段なら言えない命令形の言葉もすらすら口から出てきた。
「うぅ……ばかぁ……」
俺の威勢に驚いたのかルナは固まる。
さて。
赤穂さんとの距離も五メートルくらいか……。
ふぅーと息を整える。
俺が逃げないので、観念したと思ったのかにやりと口角が上がったように見えた。残り三メートルというところで急に加速し、俺の腹に向かってナイフを真っ直ぐ突き出す。
――いまだ!
ナイフを持つ手首をガシッと掴み、外側へ返す。相手の肩が体の内側に入り、体制が崩れるところにすかさず足払い。完全にこけさせる。さらに追い打ちでのしかかる。
「ぐぅ!」
声にならない声、息だけ吐き出た声が闇夜に響く。
――あぅ、やべえ、やりすぎた! 調子に乗った!
相手は完全にのびてしまったようだ。手からナイフはこぼれ、起き上がらない。
……これじゃあなんでこんなことをしたのかという話が聞けないじゃん! 息……してるよな?
慌てて確認する。さすがに胸を触るわけに行かないので手首の脈で。念のため口元を見て呼吸も――。
ここで初めて襲ってきた相手の顔をしっかり見た。
…………あれ? 赤穂さん……ではない!? この子誰だ!?




