ストーk……追跡 開始!
休憩後、客は徐々に増え始めたが、普段より少なく感じた。先ほどの件があるから仕方ないと言えば仕方ないのだけど、どうやらそれだけでもないらしい。副店長が言うには南の方に、中規模の本屋ができ、開店キャンペーンを行っているらしい。そちらに客が持ってかれているというのだ。
うーむ、今日からしばらくは暇になりそうだ。しかし、ちょうど店長もいなくて、人が足りてないからちょうどいいか。
赤穂さんはというと気に病んでいたことが解消したのか、順調に仕事をこなしている。レジもミスをしていない。
もちろん俺もちゃんと仕事をしている。別にずっと赤穂さんを観察していたわけじゃないからな。……まあ気になって何度かちらちら見ていたら「気が散ります」と一言牽制はされてしまったけど。
赤穂さんはいつもの調子を取り戻したようです……しょんぼりした赤穂さんは珍しかったからもうちょっと見たかったなぁ。
――と、それはともかく!
バイトは順調に終わり、午後七時。赤穂さんもフルで入っていたので一緒の時間に帰ることになった。
「お疲れ様でした。私の家はこちらなので」
俺と逆の西の方に向かおうとする。
「あれ? 赤穂さんの家ってこっちじゃなかった? いつもこっちに向かってなかったっけ?」
「はい。普段はスーパーに寄っていくことが多いんですけど、今日は久しぶりに買い置きがありますから。家は西の方ですよ」
「ふーん、じゃお疲れ様。また次のバイトで」
俺たちは別々の方向に歩き出す。五メートルほど動き、赤穂さんの足音もなくなったところでルナが話しかけてきた。
「ちょっと戸山、このまま帰るつもり? カレンが叶えようとしている願い興味ない?」
「そりゃ気にはなるけどさ。聞いても教えてくれなかったし、知られたくないのかなーと思って」
「隠していることって暴きたくならない? ほら浮気とかばらしたら修羅場みたいな状況になるでしょ。面白そうじゃない。だから後をつけて確認しましょうよー」
「余計知りたくなくなったわ!」
そんな状況に巻き込まれるのはごめんだ。それに女の子を後ろから観察するとかストーカーかよ。
「なんでそんなに赤穂さんの願いに食いついているんだよ?」
「そりゃあもちろんカレンの邪魔をするために決まっているじゃない! 足を引っ張ってやるのよ! そうすればカレンに追いつくはず!」
「もうちょっと自分が上がる努力をしようか。それにルナの仕返しに付き合う気はない!」
「じゃあ上がる努力をさせてよー。なんか願いは?」
「ない!」
「はぁーそうよねー。……本当に赤穂さんの願い知りたくない?」
「うーん、知りたくないと言うのは嘘になるけど、無理して知る必要がなぁ……」
「ああもうじれったい!」
ルナが前に手を広げ立ちふさがり、歩くのを妨害する。
「私が知りたいの! 気になるの! だから後を追いかけたいの!! 昨日は戸山のデートに付いていってあげたじゃない! だから今日は私が戸山を連れて行く。どうしても……ダメ……?」
そんな上目遣いで見るな! ドキッとするだろ!
「それに追いかけるのは戸山にもメリットがあると思うわ」
「……? どういうこと?」
「思い出してみてよ。カレンがこっちの世界に来てるってことは今日願いを叶える可能性があるってこと。……まあカレンのことだから遊びに来ただけかもしれないけれど。可能性は十分よ」
確かに俺のときもルナが人間の世界に来たのは契約時と叶えにきたときだ。それ以外で呼んだらキレられたくらい。
「しかも、叶えられたらその後が大変。しばらく平常な様子でいられなくなるかも」
いつもと少し違う真剣な顔でルナは言う。
「いったい何で?」
俺の問いにルナはやれやれといった感じでため息をつき、続きを話す。
「あのねー、戸山がしょぼかっただけで、普通私たちに頼む願い事って相当なものよ。犯罪に絡むものもたびたび。自分を投げ捨てる覚悟を持っているものなの。叶えた後になって自分の過ちに気付いて後悔する人も多いわ」
「杞憂だと思うけどなー」
ルナから聞いた腐女子の件もあるからな。切実な願いなんて人それぞれだろう。赤穂さんがそんな悪いことをするようにも見えないし…………とはいえ少し不安になってきたな。最近元気なかったようにも思えるし、悩んでいたのも知っている。
「ただそこまで言われるとちょっと心配になってきた。様子だけでも見ていこう。よし、じゃあすぐに追いかけるぞ」
「そうこなくっちゃ! ……くれぐれもばれないようにね。一度見つかったら次から警戒されちゃうし、ストーカーに間違われて警察のお世話になるのは絶対嫌よ」
「大丈夫だ! 最低限ストーカーには間違われないようにする!」
ストーカーのようにいやらしい目で見るのではなく、あくまで心配から来る保護対象として温かい目で見ることにしよう。
『ジー』、と見るのではなく『じぅぃー』とやんわりと。
余計変態見たいに見える? そんなまさか。
「じゃあ見失わないうちに急がないとね。どうせあの子の住所知らないんでしょう?」
「どうせは余計だ。まあ行ってみよう」
反対方向に向かっていく赤穂さんの姿はかろうじて確認できた。




