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運命を決める? 追試

 悪魔が去り、部屋は急に静かになった。

「それにしてもおしゃべりな悪魔だったなー。知らないだけで悪魔ってのはみんなあんな奴なのかも」

 静けさが嫌でちょっと独り言。

 ルナという名の悪魔が言うには追試も何とかなるみたいだし、焦っていた心もだいぶ落ち着いてきた。

「……さていつものようにネットサーフィンしたり、動画見たりするか!」

 一度ブラウザを閉じ、もう一度検索画面を開く。検索ワードはもちろん『悪魔 存在』だ。


 うーむ……。


 結果には思想、宗教、超自然などの言葉が並ぶ。悪魔にあったという実体験みたいなものもあったが、どうも先ほどのようなだるそうでかわいい気のあるものと違う。恐ろしい形相の怪物ばかりだ。


「……さっきのは幻覚だったのかな?」

 よくよく思い出すと後先考えず話してた気がする。悪魔に願っちゃったわけだし。……いや何も考えずにしゃべるのはいつものことか。それに――。


 部屋を見渡す。

 パソコンの横には冷蔵庫から取り出したとり肉、チューハイが並ぶ。そして、ひざの部分に血がついたジーンズはどこにも見当たらない。

「やっぱ現実だよなー」

 夢としても感覚がリアルすぎるし、携帯の履歴を確認してみると教授からの電話番号が残っている。

「どうせなら単位落としたことが夢なら良かったのに……。まあ今を受け入れるしかないか」

 悪魔が現れたことが現実のことだとして、結局悪魔に捧げたのは今のところジーンズだけになるのか。うーん安い。古着屋での値段一九八〇円也。……契約お手ごろすぎじゃないか。そんな価値のない願いだった?

 ただあえて男物のジーンズ、それもまだ洗ってないものを持っていくなんて……あの悪魔には特殊な性癖でもあるんだろうか?

 

 まあなくなったジーンズはまた買いに行けばいいや。それよりも悪魔に願ってしまったことを考えた方が――。

「うん、まあ大丈夫だろ。そんな恐ろしいやつには見えなかったし」

 即座に『特に問題なし』の判断。今までもこんな適当な感じで何とかなってきたし。

 ……単位のことは……事故だったんだよ。


 追試までの三日間、俺はバイト、ネット、睡眠という平凡ないつもと変わらない日々を送った。ドイツ語も一応は勉強したつもりだが、悪魔が何とかしてくれるみたいだからやる気が出ずあまり身についていない。

 一度本当に現れるのか少し不安になって、ルナを呼び出したこともあった。しかし出てくるなり、


「何?今日が追試の日? はぁー、違うの?じゃあ願いの変更? それ以外受け付けてま、せ、ん。私も暇じゃないの。何もないならもう帰るから。それとどうでもいいことで呼び出したら……呪うわ」


 と言うだけ言って、数十秒で帰ってしまったのでそれ以来呼び出していない。呪いなんてものは信じていなかったが、悪魔の一言には重みがある。


 そしてついに追試当日の朝、俺は再びルナを呼んだ。

「おーいルナ、今日が追試なんだけど」

 パソコンに向かって呼びかける。

 うーん、パソコンに呼びかけるのは傍目から見たら変かも。まあ部屋には俺一人だから問題はないけどさ。

「ふぁーあ。今日だったっけ?」

 パソコン画面が光り、眠そうに目を擦っているルナが姿を現した。

「適当だなー。そんなんで大丈夫なのか?」

「適当ってあんたには言われたくないわよ。留年間際のくせに」

 それを言われると何も言えない。

「それにちゃんと考えてあるの。いつものような仕返しや殺害の方法を練らなくて良かった分、つまんなかったけどすぐ思いついたわ。まあ任せときなさいって」

 ルナは自信満々に答える。どうやら心配は無用のようだ。

「ふーん、そうか。で、今から大学に向かうんだがルナはどうするんだ?」

「戸山に付いて行くつもりだけど。本当はあんたと一緒に行くのは嫌なんだけど、行動範囲に制限があるからね」

「えっ、制限なんてあるの?」

「そりゃそうよ、無理やり別の次元に来ているようなものなんだから。自由に動けるのは最初に次元をつないだパソコンの前、または契約者である戸山から半径十メートルくらいね」

 次元をつなぐとかよくわからないけどまあいいか。人間の知らない理論でもあるんだろう。

「へー、そうなのか。でも付いてくるとなると宙に浮いてるし目立つだろ。それとも一緒に歩く?」

「他の人に見えるわけないじゃない。ちょっとは考えなさいよ。他の人には見えないし、声も聞こえないわ。みんなに見えてたらあんたも私たちの存在をすでに知っているはずでしょ」

 それもそうか。

「でも俺は今からなら見えてるし、ネットとかですぐに広めれるぞ」

「そんなことしたら情報と一緒にあんたも消すわ」

 うん、ネットとかに悪魔の情報を書くのはやめておこう。声のトーンがマジだ。

「まあ私たちに気づかれずに、存在を広めようとした人もいるみたいだけど、周りには信じてもらえなかったわね。だって他の人に確かめる方法なんでないんだから」

 うーん、確かにそうだ。俺もルナに会う前は悪魔が存在するなんて信じていなかった。それにいくら悪魔はいるとわかったからといって、いまだに見たことない霊とかは信じることはできてない。霊まで気にしてたらもう墓参りや肝試しとかもできないし。不確かなものは不確かなままでいいと思う。


「……っと長々としゃべっている場合じゃなかったな。そろそろ家を出ないと遅刻する」

 俺たちは大学に向かい家を出た。

 

 通学途中、大学まであと半分くらいまで歩いてきたが、特に変わったことは起こっていない。

「別に悪魔がすぐそこにいるからって不幸に見舞われるわけではないのか」

 どうやら周りに災いを持ってくるなんてことはないみたいだ。

 ん? そういえば悪魔かなーと思っていたけどルナの正体を直接聞いていないぞ。……ただ初めて会ったときの黒々とした感じ。そして今までの発言から、良いやつではないのは確かだろうけど。――面倒だし悪魔という認識でいいか。

 ちなみにルナは俺の後方十メートルぎりぎりくらいの距離を保って付いて来ている。


「そんなに一緒が嫌かよ」

 いくら悪魔とはいえ女性と二人で通学するシチュエーションを味わうチャンスだと思ったのに……。なんかここまで拒否されてると少し傷つくな。

「どんな方法を考えてるとか聞きたいこともいろいろあったのになー」

 さすがに十メートルも離れた相手に呼びかけるのは気が引ける。人通りは少ないとはいえ周りから見たら誰にもいない方向に声を張って呼びかけることになるからな。それは恥ずかしい。完全に痛い人だ。

 

 結局何も話せないまま大学の構内に入り、追試を受ける教室まで着いてしまった。案の定受ける教室は狭く、テストを受けるのは俺一人のようだ。ドイツ語の講師(日本人の教授、名前は……覚えていないから鬼教授で)はもう先に教卓のそばにいる。


「テストはすぐ始める」


 鬼教授は重低音の声で俺に告げる。

 なんか発声だけで圧を感じるんだよな……。こんな怖い教授でも受講する人がいるんだから不思議だ。受講してる人はやっぱりMか?

 テストは普通の筆記問題。六割ほど解ければ合格だ、まあ半分でも大丈夫だろう。

 席に着き、テストの用紙が配られる。――同時にルナも教室に入ってきた。

 ? 入って来るなりなんか挙動不審だ。……いやな予感がするぞ。

 ルナはすぐにこちらに寄ってきて大きな声で叫んだ。

「ちょっと戸山、なんであんた以外受けてる人がいないのよ!」


「…………」


 教授にはやはり聞こえていないみたいだ。教授が前にいるせいで、俺もしゃべるわけにもいかない。面倒だけど仕方ないか。解答用紙に筆談という方法を採る。

『そりゃそうだろ、こんな面倒な授業受けるのはちゃんと勉強するやつばかりだって。みんな単位取れてるらしいぞ』

 ルナは困惑しているように見える。

 なんでだ? ちょっと理由を考えて――。

 えーと、すぐに一つの答えが頭に浮かんだ……けど。

 

 ……いや、まさかそんなはずはないだろう。隣にいるのは非現実的な存在だ。きっとなにか翻訳できる能力とかこのテストの間だけでも与えてくれたりするはず。決して小学生でも考えるような――



「こ、これじゃカンニングできないじゃない!」


「………………」

 呆然。しかし、ぼーっとしている暇なんてない。すぐに解答用紙に気持ちを訴える。

『どうすんだよ! なんかないのか? そこの教授に催眠術とかでテスト合格に思わせるとか』

「そんな都合のいい能力あるわけないじゃない! えーと、えーっと、そうよ!」

 ルナはなにか思いついたらしい。

「こ、こんにゃこともあると思ってたのよ」

 絶対うそだろ。焦って噛んでるじゃねえか。

「私がテストの問題を解けばいいのよ。私たちの種族がどれだけ知識を持っていると思う? 人間の大学生に負けるわけないじゃない!」

 どうやら相当自信があるらしい。まあもうルナに頼るしかないんなんだけど……。

 ざっと問題を確認したけど自分の力で解ける問題見当たらなかった。俺はわずかな希望を込め、問題用紙をルナの見やすい位置に移動させる。


「ふーん、どれどれ……っ! 英語っ……!?」


 ……この瞬間、俺の留年は決定した。


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