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カレン>>ルナ

「ふー、一時はどうなることかと思ったー」

 溜めていた息を一気に吐き出す。

「嘘が下手ねー。危なかったじゃない」

 ルナにだけは言われたくないな。まともな嘘をいままで聞いたことがないぞ?

「ご、ごめんなさい! 私のせいで……」

 赤穂さんが頭を下げ謝る。

「まあ気が抜けてたのは悪いと思うけど、そこまで気に病むことはないって! 客もだいぶ変なやつだったし運が悪かったんだよ」

 普通なら『おつり忘れてますよ』『すみません』ぐらいで済むだろう。運が悪かった。そして客も悪かった。

「戸山に変わっているって言われるなんてあの男も残念ね。私から見たらどこにでもいそうな普通の悪人に思えたわ」

「だよねー。私もああいうタイプってよくいると思うなー」

 ルナとカレンがうんうんとうなずき合う。

 よくいてたまるもんか。このバイトのような接客業なんてできなくなるわ! ……でもクレーマーは最低三日に一回はあるんだよなー。これでも少ない方なのか? 今日みたいなやつまではいかないがお客様()は結構いる気がする。

「それにしても指紋とろうとしてなんであんなに慌てたんだろう。そもそも紙幣についた指紋なんて取れるかわからないのに」

 俺が疑問を口にする。

「ちょっと見せてー。ニンヒドリン試薬かー。たしかにこれじゃあ紙幣の指紋は確認難しいかも」

 カレンがお助けアイテム(小さなビン)に書かれたラベルを確認して自分の意見を述べる。

「でも、だからこそいえるんだけどー。多分あの人には前科があるんじゃないかなー。ほら、監視カメラのこととか、この試薬だって知っていたんだろうし。だから指紋を確認されるよりも自分の指紋を取られる事が嫌だったんじゃないかな? 前科持ちの人は警察に指紋確保されてるって聞くよー」

「へー」

 感心する。以外にもカレンは博識みたいだ。

「結構悪いやつだったかもしれないんだな」

「でも小物でしょ。一万円得しようとするくらいなんだから。でもそのくらい戸山にも欲があったら苦労しないのに……」

 ルナが嘆く。

「でもああいう人の願いはウチの会社にまわってこないんだよねー」

「それもそうね。一癖あるものが多い気がするわ」

「……えっ? 二人は同じ職場なのか?」

「そうだよー」「そうよ」

 二人の返事がハモる。

 知り合いとは思ったけど同じ職場かー。俺と赤穂さんと同じ、運命的なものを感じるなー……なんて、偶然だろう。

「カレンはぽけぽけしているように見えて、なんでか業績がいいのよ。……悔しいと言うかうらやましいわ」

「ルナはもうちょっと真剣にやったらすぐに私抜かれると思うんだけどなー」

「だってやりたいゲームや見たい漫画が尽きないんだからしょうがないでしょ! ……な、なによその目は」

 ジトーと見ていた俺の視線に気付いたらしい。

「別にー、何でもないけどー ただ家の漫画の位置が変わっていた理由が分かったと思って」

「細かいところに気付くのね……。こ、これでも今は昔に比べれば頑張ってる方なんだからね! ようやく少ないけど事務以外の仕事も回ってきたし! 自分なりに一生懸命やってるの!」

「そうだねー。ルナはがんばってるよー」

 反論するルナの頭をなでるカレン。

「な、なでないでよ! 絶対あんたに負けないんだから!」

 それを振り払うルナ。

 ライバル関係ってわけではなさそうだ。ルナが追いかけているような感じ。カレンのスキンシップを嫌がっているのも、心から嫌なのではなく、なめられたくないという思いからに見える。ただ――

「じゃあギューってしてあげるのは? それー!」

「それもダメー!」

 ルナがカレンの抱きつきを避ける。

 カレンのスキンシップが激しいと言うのもあるかも……。

「あ、あのー……」

 二人の悪魔のじゃれあいを見てようやく落ち着いたのか、赤穂さんが話しかけてきた。

「結局おつり渡さなくてよかったのでしょうか?」

 まだヤンキーの件ひきずってたか。

「いいのいいの。あんなやつのことはほっといて。次からミスしなければいいんだから」

「そうだよー。もっと気にかけないことが近くにあるんだからー。それにもうあの人来ないと思うよ。私の大事な契約者――実梨ちゃんを騙そうとするの、むっときたから、えへへー、ちょっと悪戯しちゃった♪ そのうちあの人通報されるんじゃないかなー?」

 カレンは楽しそうに悪戯の告白をする。

「いったい何をしたんだ……?」

「じゃーん! これー」

 はさみと糸……? はさみはレジ付近に置いてあったものだけどこの糸は?

「で、これは何なの?」

 ルナもわかっていないようだ。

「えーわかんないかなー。あの男のジャージとトランクスの布地だよ。背後から気付かれないように、ゴムの部分をほとんど切ちゃったから、歩いているうちにゴムが完全に切れてずり落ちるでしょー。そのとき周りに人がいたら……あとはご想像におまかせで♪」

 社会的に殺しに来たか……。かわいい顔してやることはやっぱり悪魔だ。いたずらの度合いもルナとスケールが違う。

「こらしめたんだから実梨ちゃんも元気出して! まだまだこれからがんばらなくちゃ! それともいまから……」

 カリンが赤穂さんの肩にのしかかりながら励ます。最後の方は何か耳打ちしていたようで聞こえなかった。

「そうだって、まだ昼からもバイトあるんから」

 俺も励ます。

「は、はい……」

 赤穂さんは力のない声で答える。

 いぶかしげな表情から変化がない。

「まだいつもの元気がないな。何か気になっていることでもあるの?」

 こくっ。

 赤穂さんは小さく頷く。

「……あ、あの、なんで戸山先輩にも悪魔がついているんですか?」

「なんでと言われてもなー。うーん赤穂さんと同じで願っちゃったからとしか……」

「やっぱり……。いったい何を願っ……やっぱり聞くのやめときます! じ、事情はいろいろありますよね!」

「いや別に言っていいぞ。もう失敗しているしな」

「えっ!?」

「ち、ちょっとカレンの前でその話は止め……」

「なになに、最近のルナの活動聞きたいなー」

 ルナが話を遮ろうとしているが気にしない。今は赤穂さんの不安を取るのが優先だ。

「えーと前にも留年しそうだけど大丈夫そうだって言ったよな。実は追試の合格をルナにお願いしたんだよ」

「はー……」

「はー、私たちに願うことかなぁー?」

「でしょ! おかしいのは戸山よね!」

 赤穂さんは呆然としている。悪魔たちの反応も冷たい。

「みんな、そんな目で俺を見るな!」

 かといってそんな目をさらさなくっていいんだよ? それはそれで悲しくなるから!

「……あ、すみません。なんだそんな小さな悩みでしたかー。適当な人に見えるのに、悪魔を呼ぶほどの感情がどうして渦巻いてるのかと思ったら……ふふっ、戸山先輩っぽいですね。ほっとしました」

 ようやく赤穂さんから笑みがこぼれた。

 なんだ、俺に対して警戒していたのか。

「でも留年はしたんですよね。願い叶えられないこともあるんですね」

「ああ」

 改めて言うのも少し恥ずかしい。自分がダメ人間と告白してるみたいだ。

「あははっ、ルナらしいミスだねー。たぶんカンニングしようとして失敗したとかじゃなーい?」

「ど、どうしてわかったの!?」

「ルナのことで分からないことなんてないんだよー」

 のほほんと答えるカレン。ずばりミスした理由を的中させるなんてやはりあなどれない。

「さて、赤穂さんももう大丈夫そうだしそろそろバイト戻ろうか」

 俺はみんなを誘導する。あまり客がいないとは言え副店長にまかせっきりではいけない。俺だってバイト代もらっているわけだし。

 あっそうだ、一つ気になっていたことがあったの忘れてた。ちょっとタイミングずれちゃったかもしれないけど聞こう。

 赤穂さんに質問する。

「そういえば赤穂さんはカレンにいったい何をお願いしたんだ?」

 赤穂さんは少し考えた様子を見せ、答える。

「……それは……まだ言えません。でも先輩にはいつか言う日が来ると思いますから待っていてください」

 

 はっきりとした口調には強い意志が感じられた。


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