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嘘には嘘で

「嘘って本当か?」

 ルナに尋ねる。

「へ? 『嘘』が『本当』とか、どうして反する言葉をイコールで結ぼうとしてるの?」

「違うわ! あのヤンキーが嘘をついてるのは本当なのかってことだよ!」

「わかってるって、冗談よ冗談。あいつが嘘をついてるのは確かよ」

「証拠は? 現金を受け取るところでも見ていたのか?」

「別に見てないわ。私の直感に決まっているじゃない」

「それじゃ証拠にならないんだよ!」

いけない。思わず声を荒げてしまった。誰もスタッフルームに入ってきてないな? よかった……。

「何よその顔はー。悪魔をなめるんじゃないわよ。これでも悪事を働こうとしてる人を見る目はあるんだからね。あのヤンキーだって口では怒ってるのに口元は少しにやついてたりしてたし、そういうのには敏感なの!」

「私も同感ー。あれは絶対悪巧みしている顔だよー」

 ようやくルナから離れたカレンがヤンキーが嘘を吐いているという説を後押しする。

 うーんそこまで真剣な表情で言われると悪魔を信じたくなる。というか考えるまでもなかったな。こいつらを信じよう。ヤンキーのおっさんとかわいい女の子のどっちを信じるかと言われれば絶対後者だよ。

「わかった、信じよう。でもどうやってこの場を収めればいい?」

「そんなの決まってるじゃない」

 ルナは即答する。

「嘘にはもちろん嘘で対抗よ。はったりをかましてやりなさい」

「私は私でちょっと仕返ししてこようかなー。大事な大事な実梨ちゃんを泣かせたんだもん、懲らしめてやらないとねー。ちょっと用意してこよっと」

 カレンがスタッフルームから出て行ってしまった。

 うーん、ルナは簡単に言うけど嘘で対抗するなんてうまくできるのだろうか。でもやるしかない。赤穂さんをあのままにしておけるか!

「とはいえどんな嘘にするか……」

 悩みつつふと傍にあった棚を見ると、その中には一枚の紙と小さな箱が置かれていた。


『困ったときのお助けアイテム! 用法、用量を守って使ってね♪

 

 桜ちゃんより』


 この前来たときはこんなのあったっけ? 

 どうやら店長が店を空ける前に置いていったものみたいだ。

 今めっちゃ困ってる! ナイス店長! どれどれ、役に立ちそうなものは……。

 箱の中身を確認する。

 中に入っていたのは風邪薬、胃薬、クレーマー対応マニュアル。

 ……使えないなぁ。確かに何かと必要になりそうだけど。

 ん? これは……。

 小さなビンと、中に入っているものの使い方が書かれた説明書が入っていた。

 ……なんでこんなものが? ――と疑問に思ったけど、今の俺には必要だと感じ、一つのお助けアイテムを手に取り、ポケットの中にしまった。

「よし! じゃあがんばってみるか」

 俺はヤンキーの待つレジへと向かった。


 レジの方を見ると副店長がフォローに回っていた。ヤンキーはまだべらべらとまくし立てているみたいだ。他の客はほとんど帰ったみたいで店内はがらんとしている。まあ本を買える状況じゃないから当前だ。

 先にスタッフルームを出て行ったカレンはと言うとヤンキーのうしろでこそこそ何かをしていた。

「申し訳ありません。お待たせいたしました」

とりあえずお客(汚客)に頭を下げる。頭を上げると、同時に副店長に『任せてください』とアイコンタクトを取った。

副店長は視線に気付いてくれたみたいで、こくんとうなずいた。

「まったくいつまで待たせてるんだよ! ただ金さえ返してくれればそれでいいんだから早くしろ!」

「そうなんですけど本当に一万円も出したのかな? と思いまして確認をしてきたんですよ」

「はぁ? どうやって?」

 男は少しのうろたえも見せない。

 こちらが間違っているのか少し不安になるが、ルナが横で「行け、行け!」と応援してくれているので気持ちは折れない。

「……店内の監視カメラの画像を確認してきました。するとどうやら支払いに出されたのが千円に見えたのですが」

 もちろんレジを見張る監視カメラなんてない。あっても売り場や入り口だけだ。なにせ小さい本屋だからな。そんな何台も買えるほどお金はない。

「ははっ……」

 なにやら表情が変わった。

やったか? と思ったけどどうやら違うみたいだ。顔に余裕が見られる。なにかまずいことでも言ったか?

「おいおい、監視カメラでそんな手元の紙幣まで確認できるようなもの置いてないだろ。店員が客に嘘ついてもいいのか? あー傷ついたなー。ちゃんとおつりを返してもらえればいいと思ってたけど慰謝料も請求しちゃおっかなー」

 より悪い方向に話しが進もうとしている。

くそっ、なんで監視カメラの性能にまで詳しいんだよ。カメラマニアかよ!?

やはり付け焼刃の嘘では全然だめだ。でも嘘を突き通さないと……。

「ウチの監視カメラはその高性能でして……」

 思わず声が小さくなってしまう。そんな俺を見てか、ヤンキーはより強気な態度になってしまった。

「じゃあ見せてもらおうじゃねえか。その画像とやらをよ!」

 嘘に無理が生じてきた。慣れないことはするものじゃない……。

「……わかりました。その部分を用意しますのでお、お待ちください」

「ああ、早くしろよ。……なかったら承知しないがな」

 威圧的な視線を送られる。しかし、すぐ傍で目元を赤くしている赤穂さんのためにもここで怯むわけにもいかない。もうちょっとだけがんばってみよう。

「待っていただくついでに少し調べたいことがあるのですがいいでしょうか?」

「ああ? なんだよ?」

 俺は箱の中に有ったお助けアイテムをポケットから取り出す。

「これは指紋を検出する薬品なんですけど、お客様の指紋を取って、簡単にですが紙幣についているものと照合してみようと思うのですが……」

「は? え? 指紋? ちょっと待てそれは……」

 ヤンキーがうろたえ始める。

「何か問題でもありましたか?」

 立場逆転したと感じ、詰め寄る。

ヤンキーは財布を取り出し中身を確認し始めた。

「……あーすまん。俺の勘違いだったみたいだわー。一万円が中にまだ残ってたわー。さっきは千円出してたかも、じゃあな!」

 言い訳を撒き散らした挙句、一目散に店から逃げていった。結局、千円のおつりすら返してないけど本人が気にしていないならそれでいっか。


「ふー疲れた。すみません副店長、監視カメラもないのに適当なこと言ってしまって」

「いやいや結果よければすべてよし、さ。嘘も方便というからね。おかげで騙されてお金を奪われずに済んだからよかったよ」

 副店長が心の広い人で助かった。めちゃくちゃなこと言って、店の損害が増えるところだったから正直怒られると思っていた。

「でも――」

 副店長は言葉を続ける。

「あの男も戸山君も、嘘をつくならもっとばれない、騙し通せるものにしたほうがいいと思う。そうすれば誰も困らないし、傷つかない。相手がどこまで知っていてどこまで知ることができるかを考えた上で嘘を構成することが大事だと思うよ」

 どこか遠い目をして語る副店長。まるで自分に言い聞かせているみたいだ。過去に何かトラブルでもあったのだろうか?

「わかりました。次は気をつけます」

 本当は理解できていないけど。こういうその場に合わせる嘘はすっとでてくるんだよなぁ。

「ちょっと休憩行ってきてもいいですか? まだ心臓バクバク鳴ってるんですよ。赤穂さんも落ち着かせたいですし」

「ああいいよ。さっきの一件でお客さんもほとんど帰っちゃったし、しばらくは暇になるだろうからゆっくり休憩しておいで」

「ありがとうございます。……ほら行くよ赤穂さん!」


 赤穂さんを連れてスタッフルームへ。ルナとカレンも一緒に付いてきた。


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