デートの評価は?
「数年前になるかしら、日本全土を巻き込む仕事が私たちの世界に持ち込まれたのよ。ほら、日本にも大きく分けて二つの政党があるじゃない? 弱いほうのある人物が、どうしても自分たちに決定権が欲しいって願ってきたの。さすがに規模が大きかったから、悪魔総出で取り組んだわ。……私はそのときはまだ見学してた身なんだけど」
「あまり聞きたくないんだが」
やっぱり止めておこう。なんか嫌な予感がする。
「まあ聞きなさいって」
ルナはすでに話す気満々で、こちらの聞く耳を持たない。
「えーとね、相手の党を落とすのにあらゆることをしたらしいわ。まず闇討ちでしょ、あと脅迫文を送って精神的に追い詰めたり、それから不倫騒動を起こさせたり、改竄された予算のデータなんかを世間に洗いざらい公表したりね」
うわあ、えげつない。そりゃ支持率も急降下するよ。
「結果、計画は大成功。政権交代まで持っていくことができたわ」
「へ、へー。それで依頼人はどうなったんだ?」
確か願いは人生の幸福を奪うとか言っていた覚えがあるから気になる。
「もちろん自分だけいい気分にはさせないわ。すぐにスキャンダルを起こさせて政治家から無職にまで追い込んであげたわ。でもそれだけじゃあ報酬として不十分だったからしばらく政治の権力は私たち悪魔が握ってたの」
「首相を操ってたってことか?」
「違うって。人を操るような力はないって言ったでしょ。上位の悪魔が首相になってたのよ。そこまでやるのが私の夢よ!」
…………はあ? え?
「お前らってこっちの世界来れるのか?」
「そりゃあそうよ。もちろん上位の力のある者しかつなぐ空間を作れないけど。私がどうやって今ここにいると思ってんのよ」
そんなのわかるか! どこ行ったって習うことなんてなかったわ!
「悪魔が首相ね……俺たち人間の世界は大丈夫だったのか?」
「そんなにひどいことはしてないわよ。他の天使に目をつけられたくないからね。まあ国の予算をばれない程度に横領したとか経済を不況に傾けて苦しくなって私たちに願う人を少し増やしたくらいかしら」
「十分過ぎるほど影響及ぼしてるよ」
政権交代後、不景気が続いたのはそのためか。
「まさか今も悪魔が首相ってことは……」
「ないわね。一年で辞めたみたいよ。表立って悪いことできないし、つまんなくなったって言ってた」
とりあえず一安心。俺たちの世界って意外と異世界に振り回さていたんだな。ルナがいるし俺も振り回されているうちの一人かな。どちらかというと今は俺が振り回している気もする。
カラカラカラ。
入り口の鐘が鳴る。どうやら他の客が来たみたいだ。近くに座られると困るし、そろそろ帰ることにしよう。一人の客が珍しいのか店員がちらちらこちらを見ていたのも気になっていたところだ。
会計を済ませる。
「ありがとうございましたー」
軽快な挨拶と同時に感じる警戒の視線。
やっぱルナとの会話の様子、変に思ったんだろうな……。
もうしばらくここには来れそうにない。料理もコーヒーもネットの評判どおりとてもおいしかったんだけどなぁ。例えるなら……生地は羽毛布団のように柔らかく、パンとシロップがえっと、何かいい感じに合わさって……無理だ、グルメレポーターって凄いわ。
店から出るともう日はずいぶんと傾いていた。思いのほか長い時間話し込んでいたらしい。夕日に照らされたルナの顔には今朝のような暗雲が立ち込めている様子は一切見られない。積極的に悪戯を試みてくるし、調子はもどったみたいだ。
――おっとそういえば。
一応ルナの手元を確認――よかった、何も盗んではいないようだ。心配する必要なんてなかったかな。
「どうだったよ、今日のデート」
俺はなんとなくルナに聞いてみた。一応昨日、ない知識を振り絞って考えたんだ。結局考えても何も思い浮かばなかったから○―グル先生に聞いてしまったけど。
「はぁ、デートのつもりだったわけ? 私はただ遊びに来ただけよ。まあでも仮に点数をつけるとすれば……六十点ね」
ぎりぎり合格ラインってところか……テンプレートだから仕方ない。十分な結果だ。先生に感謝感謝。
「ちなみに千点満点中のね」
「思ってた点数の桁が一つ違う!」
ただのぬか喜びだった。合格ラインの『ご』の字も見えない。上げて(?)落とすとはさすがだ。
「何をそんなに驚いてるのよ。ダメなところなんていっぱいあるじゃない」
「ダメってどこがだよ。一般的なコースだったろ」
「まずそこよ。どうせ昨日の夜に急に思いついて調べたんでしょ? ありきたりって感じ」
仕方ないだろ、女性を誘うなんて経験ないんだから――どこに行くか習う場所があったら教えてくれ!
「それに映画はいいとしてなんでアニメなのよ。私は別に好みだからよ、よかったけど……。調べるならとことん調べておきなさい」
ルナがよかったんならもうちょっと点数上げてくれてもいいんじゃないのか? もしかしてプラスしてあの点数なのか?
「最後に――」
まだあるって事は喫茶店もだめだったのか……。
「――デートはどうだった、とか心にもない嘘を言うからよ」
ルナははっきりと断言する。
「デートがしたいなんて欲望があったら私が気付かないわけがないでしょ?」
はぁー、なんだ最初からばれてたのか。
「じゃあなんで今日一日俺の誘いに付き合ってくれたんだよ」
「戸山が何をしたいのかわからなかったからよ。デートをする欲望はなくて、一人が好きなのに何で私を誘うか知りたかったの!」
別にたいした理由はないと思うんだけどなぁ。というより自分でもよくわからない。
「それで理由はわかったのか?」
「……たぶんね。理解はできないんだけど私のためなのかしら?」
「言われてみればそんな気がする」
落ち込んでいたルナを元気付けようと思っていたっけ?
「あははっ、なにそれ! はっきりしないのねー、戸山らしいけど」
「俺らしいは余計だ。まるで俺が優柔不断みたいじゃないか。物事に迷うことなんてほとんどないんだぞ」
「それは何も考えていないだけでしょ」
「そうかも」
どれ選んだとしても最善を取ったと思っているようにしているからな。後悔なんて時間の無駄。
「やっぱあんたって変わってるわ。今日誘われたのもただのあんたの気まぐれな気がしてきちゃった。……でも、あ、あり、がとね。おかげで気持ちが楽になったわ。戸山が変人だから私が調子を崩してミスをしたのよ、うん」
感謝しているのやらけなしているのやら。
五分五分くらいかな?
「戸山のことも今日一日でわかったことだし作戦をまた考よっと! 変な影響を受ける前に帰らないようにしないとね!」
「そんな急がなくてもいいじゃん。この世界にもいいものあるだろ」
せっかく久しぶりに一日外を見てきたというのに。
「あってもあんたの周りに少なすぎるのよ。もっとどろどろした場はないの?」
「ない!」
それがいいものなのかよ。もしも修羅場なんて見かけたらそっとその場を離れるわ。野次馬にすらならない。
「はー、だからあんたから離れたいのよ。ほんとになんで欲がないのかしら。草食系男子? いやむしろ食べられるのを待つだけの雑草系か」
「雑草まではいかないだろ」
しかし否定材料を探そうとしたけど見つからない。
「そう思われたくないなら、しっかりした欲望や願望の一つぐらい見つけなさい。はーあ、あの子ぐらいはっきりと欲望が見えれば帰るのに苦労しないのになー」
「……ん? あの子って誰なんだ?」
俺の周りにそんな積極的な人はいなかったと思うけど。
「ほら、戸山のバイト先にいた子よ。私あの子と契約したかったなー」
ルナはため息混じりに名前をつぶやいた。
「確か赤穂さんだったかしら?」




