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悪魔とのデート

 次の日、バイトも休みだったので映画に行こうと誘った。ルナに気分転換してもらうためだ。昨日あれからずっとルナはずっと落ち込んでいる。朝もあまり食べていない。外出をしたい理由に、陰鬱な空気が部屋を覆っているのが嫌というのもある。

「えーなんで?」

 声のトーンが重い。そろそろ空気の重みで部屋がつぶされちゃうんじゃないかな?

「いいじゃん気分転換にさ。ちょうど見たい映画があったんだよ」

「どんな映画?」

「それは見てのお楽しみってことで」

「まあいいわ。断る理由もないし、戸山の興味のあるものを知っておくのも大事……よね」

 ルナはベッドからけだるそうに起き上がる。占領されたままのベッドには寝ておらず今日も床。どうせ朝には落ちてきているんだから使う必要がないと思うのは俺だけ?

 しかし寝相の悪さを考えると俺が寝ている横にあるパソコンが心配なので今のままが安全か。

 寝ぼけて抱きつきに来てくれるのを待つことにしよう。……むしろこれだけ動いて、なんでまだ抱きつきに来てないんだろう。眠っていて無意識でも避けられてる?


 映画館までは遠いので電車で移動。三駅先だ。切符を買うときルナの分は必要ないのについ間違えて二枚買ってしまった。他の人には見えないってことをたまに忘れてしまう。

 ルナはというと隣はいないものの、二メートルくらい後ろを付いて来ている。いつもより近い。何か心境の変化があったんだろうか。

「今日はぎりぎりまで離れないんだな」

 気になったので周りに人がないのを確認してルナに呼びかけた。

「べ、別に近くでないとちゃんと観察できないだけよ!」

「ならもっと近くに来る? 隣ぐらいに」

「それはやめとくわ」

 一歩ほど距離が離れてしまった。


 特に会話もないまま映画館に到着。

 大学の春休みとはいえ、世間は平日。予想通り混んではいなかった。映画のチケットを一枚(今度は間違えない)買う。

「戸山の見たい映画ってこのアニメなの?」

「そう。ちょうど劇場版が公開されているのを思い出したからな」

 今日見る映画は『人魔戦争』だ。タイトルどおり人と悪魔との戦いをテーマにした作品だ。俺の部屋にも漫画があり、一巻からそろえている。

 ……あれ? ルナが何か悩んでいるように見えるぞ。

「どうかしたのか? 他の映画のほうが良かったか?」

「ちょっと考え事をしてただけよ。これでいいわ。もう始まっちゃうしさっさと入りましょ」

 ルナが先導する。

 手を持って引っ張るってわけではないんだよなぁ。

 映画の最初は他の映画の予告がいくつも流れるから、そんなに急がなくてもいいのに。まあ気に入ってくれてよかった。ルナの趣味もあまりわからないし。俺のことを知らないから観察するとか言ってたけど、俺だってルナのことを知りたいと思う。……あれ? これって付き合い始めのカップルみたいじゃないか?

 ルナに連れられるようにして館内へ。客席はまばらに埋まっている。俺は自分の席を探す……あったあった。

隣の席は両側とも空いていた。小声でルナにささやく。

「俺はこの席だからルナはここに――」

「私この席にする!」

 俺の一つ前の席に座る。確かに前の席と席との間が広く空いていて見やすいけどさ。せっかくなら隣に来て欲しかった。

 館内が照明が落とされ、ざわざわしていた声も徐々に小さくなっていく。一人を除いて……。

「なになに? 暗くなったってことは事件でも起こるんじゃないの?」

 ルナがこちらを向いて話しかけてくる。周りの様子からもう声が出せないので小さく首を振って答える。

「ふーん、違うんだ。実は映画館って初めてだからよくわからないのよね。なんでこんなにみんな静かなのかしら?」

 他の人が見るのに迷惑がかかるからだよ。

 心の中でつっこんでおいた。

 映画の予告がようやく終わり、本編が始まる。

 劇場版オリジナルストーリーだが作りこまれていると感じる。原作を読んでいなくてもある程度わかるような配慮があちこちで見られ、読み込んでいたらクスリと笑える場面も見つけることができた(変に上から目線になってるかも)。戦闘シーンも迫力満点だ。

 ただ――前にいるルナが気になる、というか気が散らされる。だって爆音が響くたびに「きゃっ」とか「わっ」とか声を上げているし。さらに「このシーン漫画にもあったよね?」とすぐに聞いてくることもあった。答えられるか! そういうのは映画を見終わった後に話すもんなんだよ! ……まあ新鮮な感じでかわいく思えたから許せるけど。やっぱかわいいは正義だよ。


 いよいよ映画もクライマックスシーンに突入。主人公がぼろぼろになりながらも敵の悪魔に対して特攻する瞬間――俺の目の前が真っ暗になった。

 目を後ろから手で覆われた!? ……こんなことするのはルナしかいない。

 いつの間に後ろにいたんだよ! スクリーンに夢中で前の席なんて気にしてなかったわ!

「あ、ちょっ……」

 小さいながら声が漏れ、思わず立ち上がりそうになる。最後の最後で嫌がらせをしにきやがった。

 ルナは俺の前に前に回り込み、俺の表情を確認して満足そうに笑う。その笑顔を見て少しムッとした気持ちも収まってしまった。今までで一番輝いて見える顔だった。


 映画終了後、映画館を出て大通りから人通りの少ないわき道に移動。そこでようやく映画について話をすることができた。

「面白かった?」

「うん! 戸山のあの表情、鏡で見せてあげたかったくらいよ。悪戯が成功するとやっぱいい気分ね。やっと気持ちがすっきりしたー!」

「映画の感想を聞きたかったんだけど……」

 でも、気分転換ができたみたいでなによりだ。

「映画? ま、まあ思ってたよりはよかったよ。家で読んでた漫画のだったから内容もすんなり入ってきたし。なんと言ってもクライマックスシーンの迫力は凄かったわー。だから邪魔するならここしかないって思ったのだけど」

「やっぱりか!」

 レンタルできるようになったらまた見直そう。

「……あんまり怒らないのね」

「うーん、ちょっとはイラッとしたぞ。でもようやく本当に楽しそうなお前の顔を見ることもできたからな、それでチャラということで」

「ふ、ふーんそう」

 ルナはその一言以降しばらく黙り込んでしまった。何か引かれることでも言ったっけ? 早足で先に歩いて行っちゃうし。「おい、こっちだぞー!」どこ行くかもわかってないのに適当に進むなって。


 わき道を進みつつ次の目的地を探す。

 一応昨日、○ーグルアースで下調べをしてきたんだが――おっ、あったあった。

 住宅やオフィスビルが建ち並ぶ中、ひっそりと構える喫茶店、ネットで調べたところ、隠れ家的名店と紹介されていた。ネットで広まっている以上、全然隠れてねーと思うのだけど。しかし評価は高かったので期待をしている。さて――

「何きょろきょろしてるの?」

「うわっ!」

 急にルナが話しかけてきたので驚いてしまった。

「な、なんでもない!」

 正直喫茶店に入るのなんて初めてだから凄く緊張している。……よしっ!


 意を決して喫茶店に入る。少し重たい扉を開けるとカラカラと鐘の音が鳴った。

「いらっしゃいませー。一名様ですか?」

 若い女性店員さんが迎える。たぶんバイトかな?

「いや二……そうです」

 また間違えそうになった。まだ心臓が速く動いていて、頭が回っていないんから――とちょっと言い訳。ただ喫茶店に入るだけでこんなに緊張するとは……。

「現在空いておりますので、席はご自由にどうぞー」

「えーとじゃあ……」

 できる限り店員から遠くて見られにくい場所を選ぶ。他の客は全然いないので小声ならルナと話していても大丈夫だろう。最悪他の客が近くに座ったら携帯で誰かと話している風を装おえばいいはず。

 アイスコーヒーと特製パンケーキを注文。

 やっぱり注文されてから作るようで、パンケーキは時間がかかるらしい。それまではいつ店員さんが持って来てもいいようにメールで筆談。

「私の分は?」

『さすがに二人分頼むのはおかしいだろ』

 ただでさえ今、店の客は俺ひとりで目立っているというのに。別に悪いことはしていないが他の人から見れば一人でしゃべるという奇妙なことをしようとしているからな。ないとは思うが通報されたら嫌だ。

『パンケーキなら量多そうだから半分くらい食べていいぞ』

「じゃあそうする」

 あっ待てよ。食べるためのフォークとナイフは一セットだからどうしようか……そうだ! あーんとかして食べさせればいいじゃん。いやでもそれは目立ちそうな気がうーん……。

「お待たせしました。こちらアイスコーヒーと特製パンケーキになります。ごゆっくりどうぞー」

 妄想しているうちに注文が届いてしまった。あれ? ルナはどこ行った?


 ルナは店の奥から姿を現した。 

「あっもう来てるじゃない。それじゃいっただきまーす」

 ルナの手にはフォークとナイフが一セット握られている。当然俺の手にも一セット。

「その手に持っているのは?」

 小声でルナに尋ねる。

「みたらわかるでしょ。フォークとナイフ。これがないと食べられないじゃない」

「どこから持ってきたんだよ」

「調理場からだけど」

「どうすんだよ。食べ終わった後、皿に二セット置いてあったら不自然だろ!」

「もちろん持ち帰るつもりよ。戸山の家に一つずつしかなかったからねー。これのほうがデザインもおしゃれだし」

 前言撤回。悪いことしようとしてます。目の前の悪魔が。

「いや後でちゃんと洗い場でも返してこい。ナイフとフォークぐらい帰りに買ってやるから」

「えーっ、返しちゃうの? ……まあいっか。よくよく考えてみればフォークとナイフを盗むなんて小さいこと私には合わないし。どうせ盗むなら店のお金ぐらい狙わないとね!」

「そんなことしたら俺が捕まるだろ」

 フォークとかならばれても厳重注意で済むだろうけど、現金となれば警察が黙っちゃいない。留年の次は留置所か? 数日で人生真っ逆さまだよ。

「大丈夫、ばれないばれない」

「その気楽な考えでこの前もミスったんじゃないのか」

 同様のことが俺にも言える気がするけど。

「嫌なこと思い出させないでよ……」

 確かにせっかく喫茶店に来て暗い話をするのもおかしいか。もっと明るい話をしよう。

「……そうだルナ、今までで一番面白かったことってなんだ?」

 話を変えようと搾り出した言葉がこれだ。自分からもっと話ができればいいんだけどな。やはり話下手だと自分で思う。

「うーんそうね……やっぱりあれね!」

 ルナが不敵な笑みを浮かべる。

自分で話をしないから変な方向に行くような……。なんか明るい話になる気がまったくしないぞ。しかし、自分から話を振っておいて止めるのもなあ……。

 俺が悩んでる間にルナはそのまま昔の話をし始めた。


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