うれしい一言
「きゃあああああ!」
ルナの悲鳴が部屋中に響く。
失敗した……。
少し後悔。
せっかくベッドで心地よく寝れていたのだから、起こされるようなことするんじゃなかった……。
悲鳴の通り、悪戯は成功。
ルナはおびえながら部屋の隅にへばりついている。俺が起きたことに気付いたのか、指先をパソコンに向けた。
「戸山……あ、あれ……。私が起きたら急に画面がついて……」
それにしてもこんなに怖がるとは。いやー日本のホラーは優秀だわ。
じわじわと、そして確実に後に残る恐怖。
ルナに効果は抜群だったみたいだ。俺がベッドに寝ていることについても一切ふれようとしない。
よほど余裕がないんだろうなー。ほらあんなにおびえて…………もういいかな。
やりすぎはよくないだろう。
――というわけで特に種もない種明かし。
まずホラー映画の宣伝動画を探す。
真っ暗なシーンから霊がぼやーと現れゆっくり向かってくる動画(再生時間二分位)を探し出す。
動画をフルスクリーンに。
リピートボタンを押して後は放っておくだけ。その間に寝てもよし。
『呪われたパソコン』の出来上がり。
「リピートのタイミングにもよるはずだったけど、ルナはばっちりの時間で目が覚めたってことだな――って危ねっ」
説明を終えた直後、ルナがまた本の角で殴ろうとしてきた。しかし今度は避けることに成功。
「戸山のくせに何悪戯してるのよ! 悪戯や仕返しを考えるのは私たちの専売特許でしょ!」
「初耳、初耳!」
そもそもちょっとした悪戯とか誰でもするだろ。
「それに今ルナがしてるのは悪戯じゃなくてただの暴力だから!」
「細かいことは気にしないの!」
「細かくねぇ!」
気絶するとか十分大事だ。
小さな六畳間の攻防が続く。(当然俺は防御だけ)
はぁ……はぁ……。
俺もルナも疲れてきたところで携帯が鳴りだし、一時休戦。
誰だろうか? 知らない番号だ。
「はい、もしもし戸山ですけど」
「教育歴史研究室の茨木だ」
……うわぁ、ドイツ語の鬼教授からだ。声でわかった……。
「追試の結果も伝えるから研究室まで来なさい」
「……はい、わかりました」
電話は数十秒で終了した。用件を伝えるだけ伝えられたって感じだ。
………………行きたくねぇー。
解答用紙が半分以上白紙のテストの結果なんて分かりきってるし、そもそも結果だけなら電話やメールで済むはず。――なのに呼び出したって事は……。
「説教だよな……」
追試の結果『も』って言ってたし、『も』って。一時間は覚悟する必要があるだろうなぁ。
ただの講義でさえ、圧のある声で精神が削られるというのに。研究室に二人きりで説教とか、耐えれる気がしないんだけど……。
ルナは口元に笑みを浮かべた。
「ふーん、何があったのか分からないけど、朝の件は今のあんたの顔に免じて許してあげる!」
そんな顔してる? ……してるわな。
「で、で、どうしたの!? 何があったの!?」
すっかり機嫌を直したみたいだ。武器(本)を手放し、こちらに詰め寄ってくる。
本当に人の不幸が大好きなんだなー。
ただ、そんな楽しそうに聞かなくていいんじゃない? 見ての通り傷ついてるんだよ? 一応答えるけど……。
「ちょっとこれから説教を受けに行かなくちゃいけなくなってさ……」
「それはそれはご愁傷様♪ がんばってきてねー」
何を頑張れというのか。
『ルナのせいでもあるんだからな』――とつっこむ気力もない。
軽く出かける準備を終え、いざ(やられる一方の)戦場へ。
「それじゃあ、いってきます……」
「いってらっしゃーい!」
元気いっぱいのルナの声。手まで振ってる。
少し憂鬱な朝。
でも「いってらっしゃい」の言葉をもらえたんだ、悪いことばかりじゃない。
朝の出かけるときの良いシチュエーション、ありがたく受け取った!




