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言葉選びは慎重に……

 事情聴取は軽く済み、家に帰ることになった。


 ……思ってたより警察に聞かれることが少なかったな。

 当たり前といえば当たり前。刺されそうになっただけで、実際傷一つ負ってないし。

 地面で伸びている強盗犯についても「バイト先の清水店長が――」と話したら、「ああ、あの子か」「納得です」と即座に理解してもらえた。

 そりゃあ、あれだけ万引き犯捕まえてれば警察に覚えられているか。たまに気絶させたまま、引き渡すこともあるし。

 清水店長の破天荒っぷりは警察を含め、この町全体に広まりつつある。


 惣菜でも買っていこうか――とか思ってたけどもういいや……精神的にすごく疲れた。早く帰ろ……。

 強盗犯に襲われたり、その後の状況説明をどうしようかと悩んだりで、心はもうボロボロ。すぐにでもベッドにダイブしたい気分。


 まあそんな甘いこと悪魔が許してくれるわけもなく……家に着いた俺にはさらに精神を削られる事態が待っていた。



「ただいまー……えっ? はぁー!?」


 昨日片付けたはずの部屋がまたぐちゃぐちゃ――というより物であふれかえっている。その中に埋もれているルナがいた。なぜか泣き顔だ。

「うぅ、なんでこんなに遅いのよー。もしかして事故にでも遭ったのかと思っちゃったじゃない!」

「事故というか事件というか……いやいや! そんなことよりこの部屋の状況は何だよ!」

 部屋の中は冷凍食品、乾物などの保存食品、服、下着、本、たれ目パンダのぬいぐるみ(なつかしー、いつ流行ったっけ?)が散らかり、足の踏み場もない。昨日の再現――いやそれ以上だ。

 涙をぬぐいながらルナが答える。

「ん、ええとね、自分の部屋にあった必要なものをいろいろと持ってきてもらったの。食べ物は給料の代わりよ……。さすがに人の世話になるのは私たちのプライドに関わるってことで……」

 ここに住み着く時点で十分世話になっていると思うのだけど……つっこまないでおこう。『給料の代わり』ってところで声のトーンが一気に下がって、何かダメージ受けている。


「とりあえず……片付けよっか?」

「嫌よ、めんどくさい」

 即答で拒否かよ。

「ふーん、いいのか? その辺にブラとかパンツとか落ちているけど。意外とかわいいものを持って――」

「……片付ける」

 自発的に掃除をしてもらうことに成功した。

 ルナは服類から整理している。

 食品は俺も手伝うことにしよう。どんなものがあるのか確認したいし、せっかくだから今日の晩飯もその中から決めるか。


「ふぅー」

 片付け終了。服とか本はクローゼットに詰め込んだ。ぬいぐるみはベッドの上や本棚の上へ。

「うーむ」

 部屋の中を見渡す。

「男の一人暮らしには絶対見えないな」

 ぬいぐるみに囲まれた部屋。さらにクローゼットの中には女性の服に下着だ。こんな部屋に他の人が入ったら、俺に彼女がいるか、女装癖があるかの二択になるだろう。後者に間違えられたと思うと……。

「大丈夫よ」

 ルナが安心してと言うように諭す。

「本当に? 女装が!?」

「え? 女装するの!? 引いたんだけど。絶ッ対、私の服着ないでよね!」

「なんで俺がルナの服を着ることになってるんだよ」

「いやそれは戸山が女装とか言い出すから……。なーんだ違うの? やっぱり変態なんだと確信したのに」

 やっぱりとはなんだ? まるで最初から俺が変態と思っていたみたいじゃないか。

「変態とかルナに言われたくないわー。俺の洗ってないジーンズ、出会ってすぐのとき、こっそり持って行っただろ?」

「ち、違うわよ! ――あっ、いや、違わないけど違うのよ! 好きこのんで持って行ったわけじゃないわ! 単に契約の証『血』が必要だっただけで、確認用よ!」

「じゃあ確認が終わったら返してもらえるのか?」

「いいけどちょっと待って。久々の契約だったから証は家に飾っときたいかなー、なんて思ってたり……」

 ルナは恥ずかしそうに目を逸らす。


 うん、その反応は正解。俺も恥ずかしい。

 なんであんな安物のジーンズを飾られなきゃいけないのかと。せめてもっとブランド物とかだったら見栄えもするのに……。

 契約の証(俺のジーンズ)をうっとりと眺めるルナ……傍目はためから見たら十分変態的だと思うよ?


「ちょっとならいいけどすぐ返せよ。そんなに服持ってないんだから」

「なら次の契約が見つかるまで預かっておくわ」

 ジーンズは諦めた方がよさそうだ……。


 話を元に戻す。

「じゃあ何が大丈夫って言ってたんだ?」

「え? それはきまってるじゃない」

 にっこりと笑みを作り、含みを持たせる。

「――この部屋が誰かに見られるってことよ。他の人、友達や彼女が入るなんてことないでしょ? そもそもいなそうだし」

「ぐぅ……」

 言い返せない。

 べ、別にまったくいないわけじゃないんだ。ただ家に呼ぶほどではないというか……。

 心の中で言い訳。

 でも、これ以上深く聞かれたくないので――。

「とりあえず飯にしようか」

「おーけー」

 ルナも空腹だったみたいだ。二つ返事で話を逸らすことができた。

 

 疲れてる、早く食べたい、ということで晩飯は冷凍食品に決定。チャーハンと餃子、即席スープ、ということで中華でまとめてみた。

 ご飯を食べつつ、ちょっと静かなことに気付く。


 ……なんか落ち着かない。

 食べている間くらい、ゆったりしゃべろうとも思うのだけれど、何の話をすれば……。

 適当に話題でも振ってみるか。

「ルナの趣味って――」

「悪戯」

「たれ目のパンダ好きなのか――」

「まあね」

「服は意外と白色が多いんだな。下着も――」

「口を閉じて、変態」

「隣の家に囲いができたんだってさ」

「隣は空き地でしょ」


 ……会話にならない。フリにも反応してくれない。

 話題探しってこんなに難しいものだったっけ? うーん、あんまり思い出したくないけど仕方ない。


「実はさ、帰り道ひどい目に遭ったんだよな」

「なになに? どんなこと?」

 すぐさま食いついてきた。やっぱりこういう話が大好きなんだな。さっきまでと目の色が違う。

「いや、帰りにコンビに強盗に出会っっちゃてさ。ナイフ片手に俺の方へ向かってきたんだよ。完全に狙いを定めて」

「それにしては傷一つないのね。まさかとは思うけど返り討ちにしたの?」

「ああ」

「嘘!?」

 すごく驚いている。そんなに身を乗り出さなくても。机を揺らすからスープがこぼれそうだ。

「まあバイト先の店長が、だけど。俺はまったく動けなかったよ。さすがに恐ろしくてさ。目前まで迫って来てたし、死ぬかと思った」

「なーんだ、驚いて損した。いっそのこと刺されたらよかっ……いやだめね。そうなったら私が困ることに……。いーい戸山、危険な場面になったら最低限逃げなさいよ、身体は一つなんだから」

 アドバイスをしてくれた。

 帰ってきた直後もそうだけど、なにかと俺のことを思って心配してくれてるみたいだ。なんだ、いいところもあるじゃん!

「ありがとな、心配してくれて。次から気をつけるよ」

「えっ? べ、別に感謝されるようなことを言ったお、覚えなんてないんだけど……」

 ルナは急に顔を赤くして目をそらす。


 ん? 何が恥ずかしいんだろうか。……まさか俺のズボンのチャックが開いて――ないか。うーん……てことはあれか! 別に食事しているからって気にしなくていいのに――。


「トイレに行きたいのなら早く行って来たら」

 一瞬ルナの動きが止まる。

「……あんたの頭の中はほんといったいどうなってるのかしら? 慣れていないこと言われてちょっと動揺してたのに、一気に冷めたわ。一度割ったら確かめれるかしら、ふふふ」

 どうやら違ったみたいだ。顔はさらに赤くなっているけど、今度はわかるぞ! これは怒っている! それも頭に血が上るほど!

「ちょっと待て! 何か悪いこと言ったか!? とりあえずその手に持っているものを放そう、な?」

 ルナが本を片手にこっちに近づいてくる。ただの本でも凶器に見えるものなんだ。表情が見える分、強盗犯に迫られたときより怖い……。なんでにこやかなんだ? 笑顔ってことは冗談だよな? な!? 本ってそんな風に使うものじゃないだろ!? ちょっと待っ……角はやばいって……。


 ドスッ。

 頭にクリーンヒット。

 そのまま俺は意識を失った。

2013/08/20改稿です。

ちょっとしたフラグ回収分追加しました。

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