助かった……?
「ぐぅっ……!」
声にならない声が響く。
……声の発信源は俺じゃない。体に痛みもない。
おそるおそる目を開ける。目の前には地面にたたきつけられている強盗犯、そして女性(命の恩人)の姿があった。……強盗犯はどうやら気絶しているみたいだ。
危機を救ってくれた女性の後姿は大の男を投げたと思えないほど細い。背は百六十くらいだろう。服装はよく見慣れた制服の――
「……って、店長? 何してるんですか、こんなところで!」
「えっ、何って……なんだっけ? ……あっそうそう戸山君にプレゼントを渡しに来たんだったー」
プレゼント? 誕生日でもないんだけど……。
店長が制服のポケットから楽しげに何かを取り出す。
「じゃーん、財布でーす!」
へー、これはなかなか使い古されたような二つ折りの紫色の財布だ。中から溜まってきたレシートが顔を見せて――。
「って俺のじゃないですか! なんで店長が持ってるんですか!?」
「えー、なんでって言われても……スタッフルームに落ちてたんだよ? さすがにないと困るだろうなーと思って慌てて追いかけてきたのにー」
少し頬を膨らませる。
ちょっと言い方が悪かったかな?
「あっそうでしたか。面倒かけてすいません」
「わかればよろしいっ! それにしても、まさか強盗に襲われてるとはねー。もたもたしてるから倒しちゃった♪ えへへー、ぶい!」
腕を前に出し、ピースサインをして笑う。まるで子供のような振る舞いだ。
でもその姿にうちの書店の客および店員がどれだけとりこになっているか。ちなみに俺もその中の一人。
子供らしさってのは何かと憧れがあるんだよなー……別にロリコンってわけじゃないぞ。
「ほんとぎりぎり助かりましたよ。来てくれなかったら今頃どうなっていたか」
「いやいや、当然のことしただけ。それに戸山君にバイト来てもらわないと人手足りなくなっちゃうしー」
「それは言えてますね」
正直バイトの数は少ないのに新しい人はあまり入ってこない。その代わり働きやすく、明るい店長のおかげで、やめる人もほとんどいないので現状でも問題はない。
「それにぎりぎりじゃないよ?」
「……どういうことですか?」
「襲われてるの見つけてからじかんはあったんだけどね。かっこよく登場できるタイミング計ってたの。ヒーローみたいだったでしょ!」
にこやかに言わないでほしい。こっちは死ぬかと思ったのに。
……子供っぽさは時に危険も伴うな。
「それにしても店長、見かけによらず力あるんですね。こんな相手を投げ飛ばすなんて」
「えーこれでもか弱い女の子! そんなに力はないよー。そうだねー、熊と戦ったらちょっと負けちゃうくらい」
いや相手がおかしい気が……。むしろ熊でも勝てるのだろうか。
考えていたら店長が慌てたように弁解した。
「ち、ちょっと!? 冗談なんだからつっこんでよ! 力だけいえば戸山君にも腕相撲で負けると思うよ!」
冗談に聞こえなかった。と言うより店長の冗談はわかりづらい。
「じゃあこの状況をどう説明すると……」
気絶している強盗犯を指差す。
「もーう、前から言ってるでしょ。護身術として習っている合気道のこと。合気道に力は必要ないの。柔をもって剛を制す、それが流儀!」
うーん柔と剛か、言葉では理解しにくい。
「あっ!」
店長が急に声を上げる。
犯人が意識を戻したか? ――と思ったら全然違った。
「そういえば店をほったらかしにして出てきちゃったんだった。今頃、時田君が店内に一人きりなんだけど大丈夫かな?」
首を傾げて考えている。
時田ってのはバイトの仲間の一人だ。
――おいおい、店に一人ってかなりつらいぞ。客がいればレジに付っきりになるだろうし、店長がいないと不測の事態に対応できない。……というかバイト一人に店任せるなよ!
「急いで戻ったほうがいいですって! 今日はいろいろとありがとうございました」
俺は店長をせかして店に戻らせる。その数分後、サイレンの音が聞こえてきた。さっきの主婦か被害を受けたコンビニ店員が呼んだんだろう。
さて、店長のいないこの状況……どうやって説明しようか?




