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トラブルは続くものだ

 この書店での万引き被害はかなり少ない。

 別に店が小さくて、そもそも客がいないということはないぞ。むしろ明朗快活で美人の店長がいるおかげか、店の規模に対して客の入りは良い方だ。


 じゃあ何が原因か? 

 

 答えは単純、たった二人の人物――店長と副店長だ。ただし副店長は店長がいないときに活躍するだけで、主となるのは店長である。


 清水店長はいったいどういう方法かはわからないが、万引きGメン顔負けの鋭さで発見し、犯人が店を出たところで捕まえに行く。ここまではまだ普通なのだが、その後の犯人の逃走率がゼロパーセントという脅威の数字をたたき出しているのである。

 知らん顔をして出て行く相手には呼び止め、持ち物検査を行う。間違いなど一度もない。逃走を図る相手には驚きの脚力で追いつき、技をかけ、固める。

 今日の万引き犯は逃げようとしたみたいだ。


 ……あれ痛いんだよなー。

 少し同情。万引きなんてするから当然の報いっちゃ報いなのだけれど。

 今頃は店長の説教を延々と聞かされていることだろう。しかし――


「美人店長からの説教。そのうち特殊な性癖の人が、それ目当てに犯罪を起こさないか心配だな」

 説教部屋となったスタッフルームの方を見ながらぽつりとつぶやいてしまった。

「まさかー、先輩じゃありませんし」

 すぐ隣にいる赤穂さんにつっこまれた。

 

 店長と万引き犯がスタッフルームに顔を見せた直後、俺と赤穂さんは店の裏口(従業員専用入り口)に向かった。

 休憩時間もまだ余っている。こういうとき暇をつぶすのはいつもここだ。


「俺だって万引きなんかしないさ。そんなことしなくても、仕事でミスったらいいだけだからな!」

「店長からの説教は望んでるんですか!?」

「別にそのためにミスってるわけじゃないぞ。でもほら、怒られるのは悪い気しないじゃん」

 この年になっても叱ってくれる存在がいることはありがたいと思う。


「あーやっぱり先輩はMでしたか」

 納得したように赤穂さんはうなずく。

 むぅ……、どうやら違う方向にとらえられたみたいだ。


 気を取り直し、さっきスタッフルームで聞こうとしていた質問をもう一度する。

「そういえば昨日ちょっと言ってた悩みってどうなったんだ?」

「えっ? ……えーと、一応解決の糸口は見つけましたよ」

「それにしては浮かない顔してるように見えるんだけど」

 赤穂さんの顔色は昨日より良くない気がする。

「そ、それは夜遅くまで考え事をしていてあまり寝てないからですよ! 心配してくれてありがとうございます。今日は早く寝ますし大丈夫ですから!」

 何を慌てているのか、普段の落ち着きがない。……やっぱり疲れてるんだろうな。

「ん、そうか。でも、この後体調悪くなったらすぐ店長に言って早退しとけよ」

「はーい。…………はー、戸山先輩に心配されるなんて私もまだまだダメだなー」

 赤穂さんが小声でつぶやく。

「何か言ったか?」

「なんでもないですよー」


 腕時計で時間を確認。休憩の時間がもうすぐ終わる頃だ。

「じゃあそろそろ仕事に戻るか」

 俺たちはそれぞれの持ち場に戻った。




 バイトが終わり帰路につく。赤穂さんは結局シフト表どおりの時間まで働き、先に帰っていた。

「あー疲れた」

 いつもなら講義とかの関係上、半分くらいの時間しかシフトに入っていない。さすがに長く感じる。

 惣菜だけでも一つ買って帰ろうかな。あっ、ルナもいるから二人分必要か……結構食費がかかりそうだ。うーん、どうしようか……まあ食費くらい何とかなるだろ。贅沢しなけりゃ問題ないはず――。

「きゃああああ!」

 ――なんて食費という我ながら小さい悩みについて考えていたら、本日二度目の悲鳴が聞こえてきた。声の聞こえてきた先にあるのは今朝利用したコンビニだ。

「ご、強盗よ! 誰か捕まえてー」

 コンビに前にいる主婦と思われる女性が声を上げていた。

 叫ぶ暇あったら捕まえろよ! ――とか思ってしまったけど、犯人と思われる人物を自分の目で確認した瞬間、考えを改めることになった。

 ひったくりや空き巣なんかではない。そこにいる犯人は強盗だ。


 ……当然、丸腰なわけがなかった。


 サングラスにマスクをした人物。背は高く、体格はかなりがっしりしている。その手には街灯の明かりできらりと光るサバイバルナイフが握り締められている。


 強盗犯は一直線にこちらに向かってきた。


 …………やばい、動けない。

 俺は目の前に存在する凶器、暴力への恐怖のためか足がすくんでしまった。これでは迎え撃つことも、逃げることもできない。


 距離がどんどん詰められていく。

 俺が逃げないのを反抗と思ったのか、ナイフをこちらに向けて構えてきた。

「あっ……に……げ……」

 本格的にやばい! 動けよ! 声出ろよ! 「逃げるの止める気ないです」って伝えろよ!

 

 強盗犯との距離はもう五メートルもない。

 鋭い刃は迷いなく俺に向かってくる。

 ――もうだめだ! 

 俺はとっさに目を閉じる。


 悪魔なんて呼び出したからばちが当たったのか……。神様っているんだな……。


 諦めかけた瞬間、ふわっと誰かが横を通り過ぎるのを感じた。

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